腹が減っては
お待たせしました
「しっかしよぉ…そち」
「…いわなくてもわかってる…」
生きるために共にいることを決め合った漢妖歌と淫夢巫。お互いに力を使って闇を照らしながら一夜を過ごし、朝を迎えた両者であったが、それと同時にまた新たな問題を迎えているようだ。それは、
ぐぎゅぅ〜
ぎゅるるるる
「ぐぅぐぅはらをはらすなぁ」
「かんようだってならしてるでしょッ」
空腹問題、である。以前はお母さんの御身体から出るものを舐めたり飲んだりしり他、御身体を齧ってその一部を食べることで腹を満たしていたのだが、今はそれも望めない。当然のように飲食していたものがなくなったのだから、空腹を訴えるお腹は先程からずっと喚き続ける。特に淫夢巫のお腹は辺りに響き渡り、はっきり聞こえる程の声量だ。もちろん漢妖歌の腹も鳴いているのだが、それを掻き消してしまう程に淫夢巫の腹の鳴き声は大きい。
「はぁ…どうしたものか…」
「ママにきいときゃあよかったかのぅ」
漢妖歌に腹の声を突っ込まれようと返事をする気力も湧かない淫夢巫はへにゃっと翼を垂れ下げながら途方に暮れてしまう。そんな姿に漢妖歌も背後から覗いている無数の手をだらんと脱力させるように下げながら、お母さんに色々と教わっておけばよかったと後悔した。側に守ってくれる存在がいるなど当たり前であり、その時間が永遠だと信じて疑わず、喪失など深く考えたこともなかったのだから。いざその時が来てしまった今、両者はお母さんに甘えるだけでなくもっと色々と教わっておけばよかったとかつての自分を悔やんでいた。
「これからまたあるく? つかれるだろうけ、ど」
「ここでのんびりしとってもしかたあるまい。あるこう」
されど何時までも此処でのんびりしているわけにも行かない。まさか、何時戻って来るかも分からない、石像のように固まってしまったお母さんに助けを求めることなど出来ない。だからあるかも分からないが腹を満たせるもの目指して歩こうと漢妖歌は持ち掛け、淫夢巫も仕方ないかと重い腰を持ち上げる。幸いにもお互い動けない程の空腹じゃあない、まだ食べ物を探し求めるだけの余力は残っていた。
ガシュァッ
「……」
そんな淫夢巫と漢妖歌のことを睨み付ける怪しい影が1つ、混沌の肉体と、憎悪が燃える目を持った者が1体。
ゆっくりとされど確実に迫っている。
ーー
そしてところ変わり、戦場の跡地では、
「ねぇねぇ、らてすかてゃん」
「なんだ」
大地に根付き、ざわざわと草花を欄照華とその光景を側で見ている水浘愛の姿があった。水浘愛はぶにょおんと花園に寝そべり、ごろごろと転がりながら欄照華に話し掛ける。
「めみあ、おなかすいた」
「あっそ」
「はんの~うっす~」
「こなたにはかんけいのないことだからな」
他の子達と同様、水浘愛の腹も空っぽを訴えており、何とか出来ないかと欄照華に尋ねていた。しかし欄照華の反応は至って冷淡なものであり、自分には関係のないことだと言って突き放す。
「にゅるる~…てかなんでらてすかてゃんはへーきなの? めみあみたいにおなかすいてないの~?」
ぶにぶに
そんな風に自分を遇う欄照華の手などいとも容易くすり抜けて、水浘愛は幼子にしては少々引き締まっている腹を指で突っ付き、なぞりながらそう問い掛けた。されど欄照華がその問いかけに答えるよりも早く、
「あ、わかったわかったわかったぞ。やせがまんだ!」
煽り散らかすようにしてそう言い放つ。表情や仕草、言葉に出さないだけで本当は腹が空いているに違いない、空腹の苦しさを懸命に耐えているに違いないと。きっとそうだろうと水浘愛はにゅるにゅるむにゅむにゅと絡み付き、そのお腹をもにもにと揉みしだきながら欄照華との距離を詰めながら問い詰める。
「ほらほら〜、じぶんにしょ〜じきになりなよ〜」
そして自分の首をぐにゅぐにゅと伸ばし、互いの頬を擦り合わせられるところまで近づけながら水浘愛は近づいていった、
「らてすかてゃ〜」
「…」
バボンッ!
「な゛!?」
「うっとうしい」
結果、 勢いよく顔面を殴られてしまう。こんなに引っ付かれては鬱陶しいと、べたべた纏わり付いて来るなと欄照華は自分の拳に全ての意志を乗せて。その威力は水浘愛の頭を風船が割れるかの如く吹き飛ばし、ついでに自分に引っ付いていた粘性の体をも剥がしてしまう。
ビチャチャッ! ぐにゅにゅ…
「いっだぁ〜い…ょん」
「いたくもかゆくもないだろ」
「うん」
「ふんっ」
が、バラバラの破片になってもすぐさま再集合し、水浘愛は元の形に戻る。そこに殴られたダメージはないようでケロっとした表情を浮かべていた。そんな水浘愛の姿をふんっと見遣りながら欄照華は再び足に力を込め、ザワザワと草花を生い茂らせていく。
「んで、ほんとはどーなの? おなかへってないのならどーしてるの?」
「…これだ」
水浘愛はその仕草や表情を観察しながら、欄照華は本当にお腹が空いていないようだと感じ取る。されど、それならばどうやって腹を満たしているのだと改めて問い掛けると、欄照華は自分の足をトントンと指で叩きながらこれだと答えた。大地に広く、そして深く根付く欄照華の足。地上からは見えないが、地の中では無数の根が伸び、硬い岩肌や障壁を避け、巡っているのだ。もちろんそれは欄照華が自らの力を大地に張り巡らせるためだけではない。
その大地に、地中に存在する養分や栄養を吸収するためだ。それが深い深い奥底にあるのならば、そこまで根を深く伸ばしてでも届かせ、吸い上げる。欄照華はそのようにして自らの腹を満たしているのである。
「ほ〜ん、ちちゅうからエネルギーをすってるのね。いいないいな〜。めみあにもできたらな〜」
「いっただろう。ここはこなたのばしょだと」
「みゅみゅ〜、おなかすいた〜ん」
自分が腹を空かしているすぐ隣で欄照華はごくごくと腹を満たす。しかも自分には出来ないやり方で養分を吸っているため、例えこの場所から強引に欄照華を追い払えたとしても養分を自分だけのものにすることは出来ない。そんな状況に水浘愛はゴロゴロと花園や欄照華の周りを転がりながら空腹を訴え続ける。
「はぁ〜あ。お〜なかすいた、お〜なかすいた、お〜なかすいた、お〜なかすいたぁ〜よっ」
「しるか」
「らてすかてゃん、なんとかしてぇ。あ、ついでにのどもかわいた、なんとかしてぇ」
「うるさいなぁ…ッ」
最初こそ無視していたものの、何時までも鬱陶しく話し掛けて来るので、
「うるさい? だまってほしい? なにかたべさせてくれたらだまるよ?」
「……」
スッ
「……しおれたのならくっていい」
「やった」
とうとう欄照華の方が折れ、萎れたものならば食っていいと告げた。その言葉が告げられるや水浘愛はにゅるりと起き上がり、指で示されたところまでトコトコ歩いて行くとそこに生えている小さな草や花を口にし始める。
「…なんかへんなあじしない?」
「くえないのか」
「いや、たべられるけどさ」
「そうか」
その姿を尻目に欄照華はメリメリと根を広く巡らせて未だに残っている毒素を吸い取り、自分の体の中や生やした草花で濾過していた。先程卒倒し、知らぬ間に意識を失っていたのは毒素の吸い過ぎだと自覚した欄照華は、水浘愛の手前もう同じことを繰り返すことはしない、辛いと汗を滲ませる姿さえ見せないようにと気を付けながらその作業に奮闘していた。
メキメキ…
(ここをもどせるとしたら……こなただけ…。なら、こなたががんばらないと……ッ)
その姿を振り返って見ることもなく、ひたすら萎れた草花を口にし、放り込んでいく水浘愛。
もっ…もっ…
(…めみあはみないよ、らてすかてゃん)
つい先程まで近過ぎると言う程に絡み付いていた水浘愛は、今ではその欄照華から少し距離を置き続けている。
「…」
そしてそんな両者を睨み付け、ゆっくりと近づく影が1つ。
次回の投稿もお楽しみに
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