それぞれの朝
お待たせしました
「…」
暗い世界、何も見えない。そんな場所に自分は立っていた。まだまだ小さく、非力な体。自分のことを大きく超えているお母さんと言う存在に守って貰わねばならない年頃。
「……」
キョロ…キョロ…
そんな子は、不安げな表情と目で辺りを見回す。
自分のことを守ってくれる存在を探すために。自分が大切に思っている存在を見つけるために。
ズル⬛︎…
すると、その子が立っていた地面が音を立てて蠢き始めた。そしてその子のことを優しく囲むように地面の一部が盛り上がり、
「やぁ」
「…!」
見慣れたお母さんの御姿が目の前に現れる。普段と変わらぬ笑顔、自分達によく見せてくれる穏やかなお母さんの表情。すると暗かった世界は徐々にはっきりとその子の目に見えるようになって行く。
動いていた大地はお母さんの、巨大な⬛︎⬛︎⬛︎の御身体の上であり、何もないように思えた世界はその子の周りをお母さんが守るように取り囲んでいたからだったのだ。そうして現れた魔快黎様は優しく我が子の頭を撫でると、その子も待ち望んでいたかのようにお母さんへと手を伸ばす。
が、魔快黎様は我が子を撫でていた手を静かに離すと、そのままスッと立ち上がった。魔快黎様の子はどうしてとお母さんの行動に困惑するも、我が子を見つめるお母さんは悲しそうな表情を浮かべている。
そして次の瞬間、魔快黎様は何も言わぬまま我が子に背中を向け、スタスタと何処へと去って行ってしまう。されど魔快黎様の背中は寂しく、足枷が付いているかの如く足取りは重い。何度も背後を振り返りそうになっては踏み留まり、歩き続ける。
魔快黎様の子はすぐさまお母さんの背中を追おうと走り出すが、
ズギュギュギュ……!
何か蔓のようなものが足に巻き付き、
グチュチュ…ドブォ…!
粘着性のある液状の何かが纏わり付き、
ガシ…ガシガシ…!
小さな手が全身を掴んで離さず、
ビッ……タァ…!
強力な念力で一切の身動きを封じられてしまい、追いつけなかった。見れば周りで自分のことを取り囲んでいた巨大な⬛︎⬛︎⬛︎の御身体もズルリズルリと引き摺りながらお母さんと共に去って行ってしまう。その光景を前に、子は懸命に手を伸ばし、
「ママ!」
とお母さんに向けて叫んだ。だがその声はもう届かない、お母さんの足を止めることは叶わない。
ーー
フスフス……
「マ……ん……ん…? はっ」
気が付けば眠ってしまっていた、起きていると決めていた筈なのに何時の間にか寝ていた。そう思い出すや淫夢巫は飛び起き、キョロキョロと辺りを見回す。すでに夜の時は終わって辺りは明るくなっているため、周りの光景はしっかり見えた。
するとよく探さずとも目の前には火の焦げ跡と燃えカスのようなものがあり、そして、
「お〜……おきたか?」
ついさっき、それかたった今起きたと言わんばかりにこっくりこっくりと頭を前後左右に揺らしながら寝ぼけた表情でいる漢妖歌がいる。
「かんよう…わたし、ねむちゃってた…」
「しかたあるまいに。まえのよるはおたがいねとったんだから」
淫夢巫は、本当ならば自分が起きていなくてはいけなかったのにと、申し訳なさそうに頭を下げながら言った。背中から生えている翼も力無く垂れ下がっている。そんな淫夢巫のことを気遣ってか、漢妖歌は少し前まではお互い寝ていたのだから仕方ないと返した。
「んまぁ、よもそちもみたとこなんともなかったようだしの。いまはそれでよいんじゃあないか」
「…そう」
「……とにかく、これからをかんがえねば。どうする」
一先ずお互い無事に夜を過ごし、超えることが出来た、今はそれで良しとしよう、安心しようと漢妖歌は続けて言う。その言葉に淫夢巫は未だに俯いていながらも、少しずつ明るい声色に戻って頷いた。そこへ漢妖歌は、考えるべきなのはこれからだと告げる。お母さんは動かず、欄照華は動こうとはせず、水浘愛とは別れてしまったが故、何処にいるか分からない。
誰にも頼れない状況、自分がどうにかしなくてはならない状態。
「ともにくらすか? よとそちで」
「それもあり…かもね」
いっそ自分達で力を合わせて、自分と其方とで生きていくのも手だと漢妖歌は持ち掛けると、淫夢巫もそれもありだと返す。実際、自分の力だけでこれからを生きるのは難しい、まだ夜も単独で過ごせないと分かった以上無茶をすれば自分の身を危険に晒すのは明らかだ。
「いいわ、しばらくいっしょにいてちょうだい。ちからにはなるから」
「それはありがたい。よも、よのちからだけではきびしいとおもうとったからの」
淫夢巫は少し考えた後、今は漢妖歌と共にいる方がいいと決め、そうしようと持ち掛ける。すると漢妖歌も、そう言ってくれるとありがたいと頷きつつ共にいることを受け入れた。
――
「……っ」
ぺちぺちぺち…
「……?」
ぺちぺちぺちぺちぺち
「んぁ…? なんだぁ?」
頬をひたすら叩かれる。何か分からないがひたすら叩かれている。その痛みに欄照華はくぅと手で払い退けようと振るうが、
ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち…
尚もその痛みが止む気配はない。しかも手で払った時、ねちょりと感触がした。瞬間、欄照華は自分の頬を叩いているのが誰なのか気が付くと、
「やめろっ」
今度は勢いよく手を振り回して振り払う。すると、
「わほー」
にゅるるんっ
纏わり付いていた水浘愛は笑いながら退き、側にぬちゅんと座った。
「おはよ〜」
「なんでなんじがここにいる」
しかし自分とは別々のところに行った筈、そもそも此処は自分が根を張り巡らせていた場所の筈だと欄照華は困惑しながら尋ねる。見れば自分と水浘愛の周りは自分が生やしたであろう草花で覆われており、寝ていた場所も柔らかい草がベットになっていた。
いや、草だけではない。覆っているのも、草のベットも、全て水浘愛の液状の体が繋ぎ止め、ドーム状の屋根を形成している。そんな状況に欄照華は首を傾げるも、水浘愛は問いかけに対してぽつぽつと答え始めた。
「そりゃあ…らてすかてゃんがたおれてたからぁ…ほっとけなくて」
「なぬっ。こなたがッ?」
「うん。ぶったおれてた。くるしそうにもしてたし」
「ぬぬ…」
自分が此処にいる理由、それは欄照華が此処に倒れていたからだと。それも苦しげな表情で、放っておくことなど出来ない深刻な状態で。そんな欄照華のことを放っておけないと水浘愛は駆け付け、こうして介抱したのだと答える。
「…だが、たすけてくれたのだな。ありがとう。だがここはすでにこなたのばしょだ」
「でもまだまだかいふくしてないでしょ? めみあがいっしょにいるよぅ」
「…おれいとして、ここにいてもいい。が、こなたのじゃまはするな。それがじょうけんだ」
「やったぁぃ」
その答えに欄照華は恥ずかしげに顔を伏せつつも、自分を助けてくれたお礼としてこの場にいてもいいと返した。水浘愛はその返答にやったと嬉しそうに返しながら、るぬると自分の頬を欄照華の頬に擦り付ける。
「やめろ」
「にゅふふ」
擦り寄り、絡み付いて来る水浘愛のことを欄照華は鬱陶しそうにしながら剥がそうとするが、まだ毒に侵されて回復してない体では満足に力も出せない。
(ぐぬ…どくをのみすぎて、か、からだが…。めみあにはさとられないようにしないと…)
(らてすかてゃん、どくののみすぎでむりしてるんだなぁ。めみあがささえてあげないと)
次回の投稿もお楽しみに
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