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親の目

お待たせしました

 地の感覚がない、何にも触れていない。


 宙に浮いているような、水面に漂っているかのような感覚。落ちることもなく、浮かんでいくこともなく、ただその場に静止しているのだ。


 そんな時間も空間も定まっていないような混沌とした中に留まり続けていた。



魔快黎(まより)、目を開け」



 と、その時、自身の名を呼ぶ声がする。目を開けと聞き覚えのある声がする。



スゥ……



「……」



 言われた通り、魔快黎(まより)様は静かに右顔面の(まぶた)を開き、起き上がって辺りを見回した。果たして今の声は何処から聞こえて来たのかと。

 されど目をぐるぐると回して探さずとも、すぐにその正体は見つけられた。何しろ自身の目の前にその者はいたのだから。



「君は……」

「俺は君だ。君の体の一部にして、体の意思を伝える者」



 魔快黎(まより)様の目の前には自身の一部達と同じ雰囲気や気配を持った者がいた。案の定その者は魔快黎(まより)様の一部であり、同時に御身体の意思を告げる者だと答える。


「そうか…そして此処は……何処だ。あの子達はッ…!」


 その言葉は嘘ではないと直感的に理解しつつ魔快黎(まより)様は、此処は一体何処だと尋ねた。たしか自身は我が子達を守るために幾多の数の来訪者を相手にしていた筈。そして体に無茶苦茶と我儘(ワガママ)を強いて強大な爆発で自身を巻き込みながら来訪者を一掃した。しかし記憶はそこで途切れており、我が子達の安否は、それからどうなったのか、来訪者達は全て倒し尽くすことが出来たのかと、疑問は次々に湧き上がって来る。


 が、一部は落ち着き払いながらふぅんと一息置いた後、



「1つ1つ説明しよう。まず、此処は()()()()()だよ、魔快黎(まより)。そしてこうして俺と話している君は心そのものだ」

「…俺の…心…?」



 1番初めの質問である、此処は一体何処なのだと言う問いかけに答えた。この場は、自身がいる混沌の渦の中は、自身の心の中だと。


「そうだ、今までは君が、君の心が体に接触を果たそうとしてくれていた。しかし今は少々状況が変わってね。まぁ、体の方から君の心に接触しているんだ、今は。俺のことをメッセンジャーとして使ってな」

「なるほど…。ん? と言うことは、俺の意識は今どうなっている? 此処が俺の心だと言うのなら、体は一体どうなっているんだ?」

「それもちゃんと説明するよ。君や俺の大切な子達にも関わることだからな」


 一部は、今は状況が変わったため御身体の方から心に接触を果たしている、自身はその御身体のメッセンジャーとして此処にいると説明する。魔快黎(まより)様はなるほどと(うなず)きつつ納得するが、しかしすぐさま次なる疑問が浮かび上がった。果たして、我が子達や御身体の方は一体どうなっている、心が此処にいると言うことは、意識は何処にいるのだと、少々焦り口調で言う。しかし焦る魔快黎(まより)様に対して一部の方は落ち着き払い、それらのこともキチンと説明すると穏やかな口調で宥めた。



「はっきり言おう。君の意識は表には出ていない。意識を失っていると言う状況だ。こうして君と会話しているこの場所は心の中だと説明したが、此処はかなり深いところに位置している。意識を表に出せない程に、な。体は生きているが、動いていない。と言うより、動かせない。心の君はもちろん、体自身もね」



 心が、魔快黎(まより)様の意識が此処にいるため、想像通り外には出ておらず、側から見れば意識を失っている状況、言い換えれば昏睡状態だ。しかもこうして対話している場所は心の深淵であり、表には簡単に出れない程に深いと続けて説明する。そしてあれ程の爆発に巻き込まれた御身体はまだ存続しており、生きていると一部は言うが、しかし動かせる状態でもないと続けて告げた。


「……それは…やはり…」

「ああ、君の心が体に無茶苦茶を強いたからだ。とっくに限界を迎えてるっつーのに、あんな大技使わせるんだもん」


 その言葉に自身がボロボロにして満身創痍の御身体に無茶を強いたからかと尋ねると、一部は愛想笑いを浮かべながらそうだと返す。


「すまない…」

「まぁまぁ、君の無茶苦茶を最終的に了承したのは体だしな。それに限界を迎えていた体を動かしていたのは君の心の力だ。君の心が持っている、強大な力が。それに体だってあの子達のことは守りたいと思っているさ。君がもう駄目だと諦めるようなら一緒にくたばるつもりだったそうだが、心が諦めなかったから体もその想いに応じたんだぜ。だから謝る必要はないよ」

「……ありがとう」

「おいおいおい、君の心も体も全て君自身なんだぞ、魔快黎(まより)。それに俺は君だ。謝る必要はないと言ったが、お礼を言う必要もねぇだろう」


 魔快黎(まより)様はしゅん…と(うつむ)きながら謝るが、我が子達を守るためにその無茶を受け入れたのは御身体の方であるし、強大な力を心が持っていて、諦めなかったからこそ限界を超えて動けたと一部は言った。すると今度はありがとうと魔快黎(まより)様が頭を下げるので、自分自身に感謝する必要も、ましてやメッセンジャーたる自身に言う必要もないと笑って返す。

 するとそれで焦る気持ちを抑えられた魔快黎(まより)様は、


「…ッ、それで、あの子達は。あの子達はどうなった。俺の帰りを待っているんだ」


 いよいよ自身が最も危惧していること、我が子達の安否を一部に問い掛けた。その言葉に笑っていた一部も曇ったような表情となる。が、すぐに顔を持ち上げ、



「……あれを見な」

「…!」



 と、混沌とする心の空間を親指で指しながら言った。瞬間、その一部分はぐじゅると歪み、(まぶた)を開くように(うごめ)く。まさにそれは魔快黎(まより)様が全てを見通す目の能力(ちから)魔快黎(まより)様は映し出されるその光景に喰らい付き、目を見開きながら見つめる。



「…よかった…皆無事だったか…。戦場に来ちまったのは……俺が不安にさせちまってるせいか…」



 そこには無事な姿でいてくれながらも戦場の跡地を歩いてしまっている我が子達の姿があった。本当ならばこのようなことなどあってはならない、我が子達に戦地へ足を踏み入れて欲しくはなかったが、それは帰らない自身が我が子達のことを不安にさせているからだと肩を落としながら恥じる。そして、


「待ってろ、すぐ帰るからな」


 と言ってすぐに我が子達の元へ向かおうとするが、



「それは出来ないぞ」

「ッ!!」

「さっきも言ったが、限界を超え過ぎた体は動かせないんだ。今はな。相当傷ついちまってるし、回復も全然出来てない。無理に目覚めようとすれば君の心ごと体は崩壊しちまうかもしれねぇよ。我が子達の前で死ぬ親の姿なんぞ、見せたくはないだろ」

「…な、に…」



 一部が肩を掴んでそれを引き留め、それは叶わないと告げる。先の戦いや限界を超過し過ぎたことで御身体はかなりボロボロになり、回復も追い付いていない状態なのだ。そんな中無理に意識を表に出し、目覚めようとすればそれだけでかなりのエネルギーを消耗し、御身体は心ごと崩壊する可能性が大いにある。つまり我が子達に会おうとし、目覚めようとするだけで魔快黎(まより)様も⬛︎⬛︎⬛︎も死ぬかもしれない。


 親の死を我が子達に見せたいのかと一部は(さと)すと、魔快黎(まより)様はギギギと(いびつ)な音を立てて拳を握り、悔しげな表情を浮かべる。



「俺に……どうしろと言うのだ…」


 グギギギギギギ……ッ!!!!!


「体が治るまで待て、としか言えない。元々そのことも君に伝える予定だったからな」


 ギ……ギギ…!!!!!


「それは何時までだ」

「分からない。だが、すぐではない。かなりの時を要するだろう。体もその時が来るまで君の心を表に出さないつもりでいる、とのことだ」



 怒りを表情に滲ませながらも平常を保とうとする魔快黎(まより)様に、一部も淡々と冷静な口調で言った。御身体が治り、安定するまで目覚めることは出来ない、御身体は心にそうさせないと。



 そしてその時は、今すぐには訪れない。相当な時間を必要とすると一部は告げる。


 

「俺が……俺が弱かったから…か。もっと強ければ…こんなことにならずに済んだのか…」

「かもな。けど、先の戦いは体だけじゃあ厳しかった、君の心が勝利に大きく貢献していたことも事実だ」

「……」

「あんまり無茶するな」



 目覚めることは出来ない、我が子達の元へ帰ることも出来ない。自身がもっと強ければ、弱くなければこうはならなかったと魔快黎(まより)様は絶句し、絶望し、項垂(うなだ)れてしまう。



 トントンっ



「だが、見守ることなら出来る」

「……っ」



 そんな魔快黎(まより)様の肩を叩き、一部はそう告げた。その言葉に魔快黎(まより)様はゆっくり顔を持ち上げると、そこには、



「…ママ…つかれてねちゃってるのかな」

「……なら、こなたたちでなんとかするっきゃない」

「……そうだなぁ。うだうだいっとってもしようがない。よたちのしれんときりかえよう」

「そだねぇ。めみあたちでがんばろー。…ママがおきたときにびっくりするくらい」



 寂しさを滲ませながらも懸命に勇気を出し、進んで行こうとする(たくま)しい我が子達の姿が見える。


 その姿に魔快黎(まより)様は口を震わせ、噛み潰しながら見つめ続けた。



「……見守ることしか出来ないのか……」

「そうだ」

「……声を掛けることさえ…大きくなったなと褒めてやることさえ…出来ないのか……」

「そうだ」



 そして自身が出来ることが見守るしかないと深く落胆しながら呟く。が、顔と口角を指で押し上げると、決して離さぬと再度目でその光景に喰らい付いた。



「なら……目覚めた時、たっくさん褒めてやれるように、ちゃんと見守ってやらなくっちゃあな」

「そうか……そうだな」

次回の投稿もお楽しみに



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