無茶に無茶を重ねて
お待たせしました
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!」
単騎、ただただ孤独に空を駆け、叫び、吠えながら来訪者達と戦い続ける⬛︎⬛︎⬛︎。全ては愛する我が子達のため、自身が愛情を注ぐ我が子達のために。この世界がどうなろうと構わない、辺り一面破壊し尽くそうが知ったことではない。自身が今此処でこの来訪者達に勝たぬ限り意味はないのだ。逃げるわけにはいかない、撤退することなど出来ない。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
どれほど御身体が傷つこうと、亀裂が走ろうと、能力が限界を迎えようとも、この心が折れぬ限りは抗い、戦ってやると⬛︎⬛︎⬛︎は奔走し続ける。
厄災そのものにして混沌を振り撒く存在、それが今敵意と戦意を湧き上がらせながら次々湧いて出て来る来訪者達と戦おうとしている。されど来訪者達とて負けておらず、この⬛︎⬛︎⬛︎を必ず自分達の手で、力を合わせて殺すのだと殺意と敵意を剥き出しにしながら襲い掛かった。肉体を削り、傷口を抉り、少しずつダメージを与えていく。それこそただの擦り傷、ほんの僅かに体液を滴らせる程度の小さな傷、それを付けるためだけに何十もの命が死に絶えようとも、来訪者達はそれ以上の数を持って攻め立て、傷口を広げるように攻撃し続ける。
ただでさえ先の戦いで⬛︎⬛︎⬛︎の御身体はほぼ満身創痍の状態、先程吹き飛んだ腕の1本は動かせずかろうじて根元で繋がっているだけであり、またすぐに千切れてしまいそうな程だ。つい先程まで立っているだけで精一杯の状態であり、少し歩いただけでボロボロと御身体にヒビが生じ、破片となって零れ落ちる程だったのに。そんな状態で戦えば当然御身体は凄まじい勢いで崩れていき、ガクンと膝から折れるようにして倒れてしまう。
が、
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(まだ…だッ)
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
決して崩れ落ち、地に膝を付けるまでには至らかった。
(死ぬわけにはいかない…少し先に…ほんの少し行ったところに…愛している俺の子達が…、あの子達が…お、俺の帰りを待っているんだ…から…)
来訪者達の勝利は自身の完全なる殺害と消滅。即ち、自身が敗北することは死を意味をする。
そして⬛︎⬛︎⬛︎にとっての勝利は、敵意や殺意を持って迫り来る者達を余すことなく殲滅し尽くし、大切な我が子達の元に帰ることだ。当然敗北すればそれは両方共叶わない。もし片方だけ叶った、来訪者達を全て倒し尽くすことが出来たとしても、あの子達の元へ帰れなければ⬛︎⬛︎⬛︎にとっての勝利とは言えない、⬛︎⬛︎⬛︎もそれを勝利とは決して呼ばないだろう。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
「⬛︎⬛︎…⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎…」
(体が…動かねぇ……。そうだもんな…元々……まだ満足に動かせるもんじゃあなかった…っけ…)
ズルリ…ズルリ…と引き摺り、はぁはあぜぇぜぇと息を荒げながら戦おうとする⬛︎⬛︎⬛︎。だが元よりまだ完全に意思のまま動かせていた御身体ではなかったことと、無茶に無茶を重ね続けてしまったことでついに限界を迎えてしまった⬛︎⬛︎⬛︎の御身体は少しずつ硬直し始めた。まだ動きたいと叫ぶ心ともう動けないと叫ぶ御身体とが乖離しているのである。されど、
(あと少し…でいい……もう少しでいい……。ほんのちぃっとばかし動いてくれ…)
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
魔快黎様の心はその力を持って強大にして理不尽の塊である⬛︎⬛︎⬛︎の御身体を動かすと、
⬛︎⬛︎⬛︎
(最後の一撃…これで一掃する…。かなり無茶させるが……俺の我儘…聞いてくれるか……あの子達を守るため…)
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(すまねぇな)
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
ボロッボロリと崩壊しながら最後の無茶と我儘を自らの御身体に強いた。まさに無茶を超えた無茶苦茶だが、御身体はその奥にある我が子達を何としてでも守り抜くと言う強い愛情に、「当たり前だろ」と快く頷いて返した。
そして8本ある内の中で唯一動く左手に今の⬛︎⬛︎⬛︎の御身体が出せる力を全て込めると、
(必ず生きて帰る)
それを勢いよく握り潰した後、勢いよく来訪者達目掛けて投げ付ける。瞬間、その力の塊は投げ付けられるや空中で静止し、誰も逃さぬと言わんばかりに来訪者達をすぐ側に強制転移させた。更にそれだけでなく、グァッと強大な力で転移させた来訪者達を小さな塊の中に全員呑み込みんだ。
と、次の瞬間、
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!!!!!
凄まじい力で圧縮されていたものを一気に解き放ったためか、塊は大爆発を起こし、辺り一面を爆炎で包み込む。当然放った⬛︎⬛︎⬛︎の御身体も魔快黎様も巻き込まれた。元よりもう動く力は残されていなかったのだが。
しかも爆発は瞬間的なものでなく、尚も中心で爆発を続け、辺りを破壊し続ける。
「カオスエクスプロージョン」
これは、魔快黎様こと厄災そのものの技の1つだ。
ーー
凄まじい大爆発、揺れ動く大気、地肌を撫でる暖かな風。遥か遠方にはよく目を凝らさずとも立ち上がる爆炎が見える。当然その爆炎を見る者は厄災こと魔快黎様の子達しかおらず、
「なに…なにがおきたの……」
「ママ…」
「……」
「…」
きゅうと手で胸を抑えながら不安げな声を漏らしていた。何しろその爆炎が立ち上がる場所とお母さんが向かって行った方向は同じだったから。そしてあれだけの大爆発を起こせる存在は、自分達のお母さん以外想像出来なかったから。淫夢巫は1番怯えながらも目を逸らさず他の子達と共に爆発を見つめ続け、漢妖歌はお母さんのことを心配しつつもそんな淫夢巫の側に寄り添い、幾つかの手で背中を撫でてやった。
そして水浘愛と欄照華は互いの顔と爆炎を行ったり来たりで見つめ合っては、お母さんの帰還を待ち続ける。きっと帰って来る、だってお母さんが帰ると約束した、大丈夫だと言ったのだから。いつもと同じように優しい笑顔で帰って来る。そう信じてたからこそ、爆発の中から帰還する筈のお母さんを共に待った。
けれども、
「……」
「……」
どれ程待っても、
「ママぁ…うぇぇん…」
「だいじょうぶ……だよ」
ついにお母さんが子達の前に帰って来ることはなかった。
歪な足音を立てて来るわけでも、瞬間移動して来るわけでもなく、その前兆も見せぬまま帰って来ない。爆発はとうに収まり、戦いの気配もすでになくなっていると言うのに。
「もうやだ! ママのとこにいく!」
すると真っ先に耐えられなくなった淫夢巫がわぁっと泣きながらそう叫び、かつてやった時のようにお母さんのところへ向かおうとする。
「なにをいってる! ママとのやくそくをやぶるのか!」
「ママがすぐにかえってくるっていったんだよ! でもかえってこないじゃん!」
「だからといってまたかってに! それでどうなったかわすれたのか!」
「うるさい! とにかくいくったらいく!」
それを欄照華は真っ先に止めるが、淫夢巫はかつてのように怯えたり縮こまったりはせず、負けじと声を荒らげて反論した。だが以前似たようなことをやらかした結果何が起きたのか知っている欄照華は胸ぐらに掴み掛かりながら制止しようとする。お母さんの戦いの中や自分達を殺そうとして来る存在の元へ転移した結果どうなったか、自らの身を危険に晒すことくらい知っている筈だと。
されどその制止の手さえも淫夢巫は乱暴に振り払い、お母さんの元へ瞬間移動しよう力を込める。それを見兼ね、危険過ぎると漢妖歌と水浘愛も加勢して止めようとするが、
「……」
欄照華はギッと拳を握ってから意を決したかのようにその手を開いた。そして、
「わかった。ならこなたもいこう。りんぷだけじゃあふあんだ」
「…!」
淫夢巫が行くのならば自分も一緒に行くと答える。その目にはいざと言う時も自分も力になると言う決意が表れており、てっきり殴ってでも止めるだろうと思っていた淫夢巫は驚き、目を丸くしてしまう。が、すぐさまも自分もと覚悟を決め、
「ん」
と言いながら淫夢巫はこれに捕まれと言うように自分の翼を伸ばした。差し出された翼を欄照華は躊躇うことなく掴むと、
ぎゅっ…
「…?」
その手の上に置き、重ね合わせるようにして、
にゅちゅん
「…!」
「それならよも、よたちもいく」
「みんななら…こわくないもんね」
漢妖歌と水浘愛も自分達の腕で掴んだ。皆がいれば怖くない、大変な目に遭うかもしれないのなら少しでも力はあった方がいいだろうと。
そうして集った厄災の子達は、
「じゃあ…いくよ」
フッ
共に戦場へと、お母さんの元へと向かう。
が、その子達を待ち受けていたのは、
じュぐうゥゥ……!!!!
歩くことさえ出来ない程焼け爛れた焦土と、その場に留まっていては溶けてしまいそうな程に焼かれた大気、そして、
「う…そ……」
「…!!」
「そんな……そんな…!」
「こんなこと…ありえないよ…」
⬛︎⬛︎⬛︎キパキ……
「」
ボロボロと表面は砕け、びっしりとヒビに塗れたまま一切動かないお母さんの姿であった。
次回の投稿もお楽しみに
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