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幸せになれないのなら

お待たせしました

 トトッ…


「わとと…っ……」

(着地さえも…クソッタレぇ…)


 強者との戦いを制し、御身体に(まみ)れた傷を隠して我が子達の近くに瞬間移動する魔快黎(まより)様。されど負っているダメージと、傷を無理に隠そうとする無茶が祟り、着地さえもまともに出来ない始末であった。

 体勢を整えようとすればビキビキと軋み、歩こうとすれば千鳥足でフラフラと覚束ない。ただでさえ砕け、一度はボキと折れた右腕がぶらんぶらんと感覚なく垂れ下がっているため、バランスが非常に取り辛いと言うのに。歩くのは(おろ)か、歩こうとするだけでも傷口が(うず)き、軋みながら開こうとするのに。


「ほぅ……ふぅ……」

(呼吸を…整えなくては…大丈夫……大丈夫……)


 幸いにもその様を我が子達には見られていない。ならば平然を装わなくては、そのために呼吸を整えなくては、と魔快黎(まより)様は懸命に息を吸っては吐く。されど御身体の何処かに穴でも空いているのか、どれ程息を吸えども体内に満たされている感覚がない。どうやら想像よりも遥かに負っているダメージは深刻だと改めて魔快黎(まより)様は気がついた。


 けれども立ち止まっているわけにもいかない。わざわざ目の能力(ちから)を使わずとも、我が子達が不安になりながらも自身の帰りをずっと待っている姿が見えているのだから。



「ふぐ……はぁああ……」


 グイ



 魔快黎(まより)様はもう一度指で口角を上げ、強引に笑顔の表情といつも通りを作ると、


 ガギャッ


「「「「ママっ」」」」

「遅くなったな。ごめん」



 我が子達の元へ帰って来る。すると魔快黎(まより)様の子達はお母さんの帰還に感情をワアッと明るくしては、その元へわらわらと集い、ぎゅうぎゅうと抱きついた。ある子は頭の上にべちゃあんと乗っかり、ある子は長き尾によじよじとよじ登り、ある子は足にぎゅうと抱きつき、ある子はそっと持たれ掛かる。傷ついた御身体に飛び付いて来る我が子達が全く重荷になっていないと問われれば嘘なのだが、しかしそんな我が子達のことを魔快黎(まより)様は拒んだり、突き放したりなどせず、



「…ッ、おうおう甘えん坊達め」



 優しく受け入れ、受け止めた。例え右手が動かなくても、御身体が内側からギシギシと軋もうとも、全身で我が子達に触れ、抱く。


 それが魔快黎(まより)様と言うこの子達のお母さんなのだから。



 …!!



「……」



 けれどもその時は一瞬であった。


 魔快黎(まより)様の無数の目はこの場とは別の場所にいる無数の来訪者達の存在を見たからだ。そしてその存在は真っ直ぐ此方へ、魔快黎(まより)様目掛けて向かって来ていた。決してのんびり出来る距離ではない、今すぐ対処しなくては戦いの余波に守るべき子達巻き込まれてしまい兼ねないだろう。



「…」



 ーー



「貴様自身が俺達を呼び寄せているんだ! 俺が突然貴様の目の前に現れたんじゃあない、貴様が俺達をそうしているんだ!」


「貴様は絶対に幸せになれない! 貴様が、貴様自身の力がそうするからだ! 見える、見えるぞ! 貴様が無様に苦しむ姿がなぁ!!」



 ーー



 瞬間、魔快黎(まより)様の脳裏には先程喰らった強敵の言葉が思い出される。自分自身が、自身の能力(ちから)が来訪者を呼び寄せると。そして決して幸せになることはない、魔快黎(まより)様が魔快黎(まより)様でいる限り、⬛︎⬛︎⬛︎でいる限り。



「…ッ」



 けれども魔快黎(まより)様は静かに目線を来訪者から我が子達に向け、その笑顔をしかと見つめる。親として守らなくてはならない笑顔、守るべき生命。絶対に守り抜くと決めた我が子達。



 ぎゅむっ


「んぉん?」


 なで


「わふっ」


 さす


「…ん」


 とん


「……」



 その子達に優しく指で触れ、暖かさを感じながら撫でた。普段よりも少し冷たいお母さんの手の感触に子達は困惑しながらも、感じられる暖かさに身を委ねようとする。



 が、それよりも早くお母さんは立ち上がり、頭に乗っかる水浘愛(めみあ)や尾にしがみ付く漢妖歌(かんよう)、腰元に抱き付く淫夢巫(りんぷ)や持たれ掛かる欄照華(らてすか)から静かに離れると、


「やれやれ、また面倒な奴らが来た」


 肩をストンと落として呆れながら自身が見た者達の来訪を告げ、歩き出す。


「またいっちゃうの?」

「うん、でもすぐに帰って来るさ」


 そんなお母さんの背中に欄照華(らてすか)が問い掛けると、魔快黎(まより)様は口角を持ち上げながら即答する。されど、


 ピシッ ポロッ


「えっ」

「おっとと」


 背中にヒビが走り、御身体の一部が破片となって剥落した。その光景に水浘愛(めみあ)は目を丸くし、肩をビクンと(すく)めてしまう。しかし魔快黎(まより)様は様は何ともないと平静を装いながら破片を背中から生える腕だったもので拾い上げ、グリグリとヒビ割れた箇所に押し付けながら歩き続けた。


 だがそれは余りにも魔快黎(まより)様に子達にとって衝撃的過ぎる光景であり、


「まっ……ママッ…」


 思わず淫夢巫(りんぷ)は駆け出し、その右手を掴んで引き留めようとする。



「ひ…」



 決して動かない、握り返してくれないお母さんの手を。



「ママ……つめたい…」

「ごめんな。ママ、行かなきゃだから。此処で他の子達と待っててくれ、ねっ。いい子だから、出来るな?」



 一切温かみのない、死んだように冷たいお母さんの手に淫夢巫(りんぷ)は小さく悲鳴を漏らしながら反射的にその手を離してしまう。


 すると魔快黎(まより)様は精神を研ぎ澄ませ、自身の能力(ちから)を使い始めた。


 そして、



「……」



 名残惜しそうに、側から離れたくないと葛藤しながら、我が子達のことを後ろ目で一瞬見つめてから、



「ママッ!」



 フッ



 意を決し、来訪者達の方をすぐさま見据え、我が子の静止の声を振り切り、戦場へと瞬間移動する。



 ーー



 ガタァンッ!!


「……」

(……漢妖歌(かんよう)淫夢巫(りんぷ)水浘愛(めみあ)欄照華(らてすか)。許してくれ)



 戦場に降り立ち、来訪者達の方を見る魔快黎(まより)様。その目前には百を優に超える数の来訪者がおり、魔快黎(まより)様目掛けて行進して来ていた。よく見ればその通り道には自身の一部達の残骸が、その残りが散らばっており、死力を振り絞って戦ってくれたのだと想起させる。


(ありがとう…)


 その者達のことを見ながら魔快黎(まより)様は感謝の意を示しつつ黙祷する。


 そして尚も迫り来る来訪者達を前に魔快黎(まより)様はグラリと倒れそうになる御身体を起こすと、もう取り(つくろ)う必要はないと傷口を隠すため、強引に張っていた薄皮を剥がした。分かっていたことだが時を掛けて傷を治すのではなく、治る時を遅らせてでも体裁だけは平常を保とうとしていたため、解除すれば御身体が負う負荷は凄まじいものとなる。それこそ、その反動で決壊したダムの如く体液を噴き出してしまう程だ。


 されど、魔快黎(まより)様は此処から1歩も下がらない、1歩も通さないと言わんばかりに来訪者達の前に立ちはだかった。



 バキッ……バキバキバキ……



「俺は幸せになれないのなら……()()()それが(くつが)せないのなら……。幸せを求めることはしない……」



 バキバキバキッ!



「だが……あの子達の幸せを……笑顔を守ることは出来る…。守ってみせる…何があろうと…どうなろうと……」



 バキバキ⬛︎⬛︎バ⬛︎バキ⬛︎⬛︎⬛︎キバ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!



()()()…だッ!」



 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!



「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!」



 そして傷だらけにして満身創痍の⬛︎⬛︎⬛︎は愛する我が子達の幸せと笑顔を守るべく、百を超える来訪者達の元へ突っ込んで行く・

次回の投稿もお楽しみに



評価、ブクマ、感想、レビュー、待ってますッ!

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