Final Round
お待たせしました
ヒュァ!!!!!
ドガギィン!!!!!
「むぅ、流石に硬いな。簡単には打ち砕けないか」
「当然だ。貴様を殺すためだけのこの体。易々と打ち砕かれてたまるか」
「……なるほど」
ついに始まる最後の戦い。何方か一方、もしくは両方が倒れるまで続く死闘。魔快黎様も来訪者も互いの技を飛ばし合い、拳を交錯し合いながら、激戦の中に身を投じる。
されど最後の変身を完了し、内に秘めていた力を全て解放した来訪者の力は先程と比べて大幅に上がっており、一撃の重さ、切り返しの速さ、更には体の持つ防御力等、その全てが上がっていた。変身前は通じていた体表を容易く切り裂いていた技も、肉片を引っ付けることによって体を喰らう技も通じず、変身後の高い防御力と硬さを誇る体によって阻まれてしまう。
バギャッッ!!!!!!
「くぅうう…!」
「やはりダメージは通るってのは間違いなさそうだ。いくら再生出来ようが、負ったダメージは確実に蓄積されるようだな」
そしてどれだけ再生出来ようが、負ったダメージはしっかり魔快黎様の心身に蓄積されている。先程敢えて喰らった拳もしかと蓄積されており、再生はすれど痛みとして内側に残っていたのだ。そこへ大幅に力を上げた来訪者の拳を喰らえば当然、効く。杭を地面に少しずつ、されど確実に打ち込むかの如く。一撃一撃を積み重ねれば大きなダメージとなるのだ。
「どうした? さっきから打たれっぱなしだな?」
ゴガァンッ!!!!!!
来訪者は顔、胸、腹、腕に拳を打ち込み続けながらそう言い放つ。魔快黎様はたしかに来訪者の言う通り、拳を全身に喰らい続けており、反撃と呼べる反撃もまともに喰らわせることが出来ていない。返しの拳も蹴りも容易くかわされ、逆にそれが大きな隙を生んでしまう。長く太い尾も、背中に生える腕であったものも、振るったところで当たらない。
形成は圧倒的に魔快黎様が不利。このまま攻撃を喰らい続ければいずれ御身体がダメージの許容量を超え、崩壊してしまうだろう。
バギバギ…!!!
「……!!」
「おいおい、どんどんヒビが大きくなっているぞ。前の姿に変身するのか、それともダメージの受け過ぎ、か。どっちにせよ手を緩めるつもりはないが、な」
実際何発も拳を喰らっている魔快黎様の顔はどんどん砕け、みるみるヒビが走って行く。ヒビの奥には体液に濡れる⬛︎⬛︎⬛︎の片鱗が見え隠れし、蠢いているが、かと言って体表を喰い破って表に出て来ようとする気配はない。あくまでもダメージの受け過ぎで変身が解けかけ、⬛︎⬛︎⬛︎が露出していると言うだけなのだろう。
ヒァン!!!!!
フォン!!!!!
「相変わらず柔でスッとろい蹴りだ。そんなもんが当たるとでも思ったか」
「……」
「ふん、怖いねぇ。まだナニカを隠してるって目つきだ。たしかに貴様は理不尽の塊、何時どんな反撃をして来るか分からねェ。何しろ瞬間移動だって出来るんだから、な」
蹴りも相変わらず来訪者には当たらず、後方転回によって軽く避けられる。来訪者はそれを柔で遅い蹴りだと罵倒するものの、目の前の敵が厄災そのものにして理不尽の塊、そして混沌を振り撒く⬛︎⬛︎⬛︎であることを知っているため、決して慢心や油断はしなかった。
するとそんな来訪者のことを見遣りつつ、魔快黎様はメキメキと軋む御身体を持ち上げながら、
「ああそうだ。俺の反撃はこれからだ。だから君も備えておけ、反撃にな」
「言われなくてもそのつもりだ。⬛︎⬛︎⬛︎」
ビキビキとひび割れた右顔面の口角を引き攣らせ、そう言い放つ。
そして生える牙が折れる程にギャリギャリと噛み合わせながら来訪者のすぐ側に瞬間移動し、殴り掛かった。だが、
フォン!!!!
「むッ…!」
ドゴォン!!!!!!
「おっ…!」
その拳は虚しく空を切り、次の瞬間には腹に蹴りを喰らってしまう。
「瞬間移動はもう貴様だけの特権じゃあないんだよ。こんな姿になった俺でも出来るんだ、ぜ!」
バガッ!!!!!
更に来訪者の組んだ両方の拳によって勢いよく背を殴られ、地面へと叩きつけられ、蹴り飛ばされてしまう。連続攻撃に魔快黎様はすぐさま体勢を立て直そうと起き上がり、前を向くが、
「くたばりやがれ!!!」
「……」
バグォオオッ!!!!!!
同時に、目の前まで迫っていた来訪者の拳をヒビ走る顔面に受けてしまった。魔快黎様の御身体は衝撃で大きく吹き飛び、そのまま地面にズシャッと倒れようとする。
ズギギ!!!!
が、すんでのところで背中から生える腕であったものを地面に突き刺し、吹き飛ぶ体を強引に支え、堪えた。
けれども、
ドビシ!!!!!
「……」
持ち上げ、来訪者を見つめる顔は大きく亀裂が走り、真っ二つに割れかける。それだけでなく、御身体の随所からも体液がドボドボと吹き出し、深刻なダメージを負っていた。
しかしそんな状況でも魔快黎様は、
ギャリガリギャリリ……!!!!
と、牙が軋む程噛み合わせながら口角を上げていた。
「まだ倒れないか」
フッ
そんなボロボロの魔快黎様の御姿に来訪者はまだ殺害には至らないのかと思いつつ瞬間移動し、
フュアン!!!!!!
今度こそその御身体を打ち砕いてくれると言わんばかりに胸元目掛けて拳を振るう。
バァン!!!!!!
「……」
次の瞬間、来訪者の拳は轟音を立てて魔快黎様に炸裂した。
ミシ…!!!
「う…!?」
左手に、魔快黎様に受け止められる形で。
そして、
「反撃開始だ。ぶちのめす」
魔快黎様は来訪者の拳を退けながらそう告げると、
バグォ!!!!!!
「ッ!!?」
来訪者の顔面を掬い上げるように殴り飛ばした。炸裂した拳は来訪者の体を吹き飛ばし、ドシャリと音を立てて地面に倒れさせる。
ガガガガ……
「な…に…!?」
警戒していた筈の反撃、決して来ることはないと思っていた攻撃、来たとしても避けられていた拳。それが今自分を倒し、地面に這いつくばらせている。
来訪者はその事実に困惑しながらも、何が起きたのか懸命に思考を巡らせ、悟ろうとした。
けれども魔快黎様は指をバキバキと鳴らしながら間合いを詰め、今にも追撃しようと迫る。
「く…う!」
すかさず来訪者は起き上がり、追撃に備えようと構えた。次の瞬間、魔快黎様の拳が来訪者目掛けて伸びて行く。その来訪者は咄嗟に腕を体の前で組み、防御体勢に入った。
バギィン…!!!
拳は見事に防がれ、魔快黎様の攻撃は続かないと思われた、次の瞬間、
ガゥ!!!!!
「んな…!」
入れ替わるようにもう片方の拳で来訪者の手の防壁を魔快黎様は払い退けると、
ドグォ!!!!!!
「お…ッ!?」
再度拳を打ち込み、来訪者の体をぶん殴る。次は胸元に炸裂した魔快黎様の拳はそのまま殴り抜け、更に来訪者を彼方へと吹き飛ばした。
ドザザザザ…!!!
「グフォア! ア…グ……ガハ…!」
(な、何が起きてる…!? いや…分かってる…理不尽なことだ…! クッソがぁ…!)
来訪者は地面に倒れ伏し、びちゃびちゃと口から吐き戻しながら一体自分は何をされたのか、敵である魔快黎様こと⬛︎⬛︎⬛︎の身に何が起きているのか、ギリギリ拳を握りながら思考する。だが敵は理不尽の塊、起きていることも警戒している理不尽極まりないことであり、深く考えたところで意味はないとすぐさま悟った。
そしてグワンッと勢いよく立ち上がると、尚も向かって来る魔快黎様のことを見据えつつ迎撃体勢に入る。
互いの拳が届く間合いの中にお互いの体が入るその瞬間、
バババババ!!!!
再び攻防が始まり、互いの技が交錯し合う。されど、
ズドドド!!!!!
「ぐぁ…あぐ…ぅ…」
今度は来訪者の方が魔快黎様の攻撃を喰らってしまい、体勢を崩してしまっている。拳を繰り出せば叩き落とされ、蹴りを繰り出せば容易く防がれ、逆に反撃を全身に喰らってしまう始末。まさしく来訪者が繰り出す動きを全て最初から分かっているかのように。攻撃の軌道も、防御の穴も、何もかも全てお見通しであるのかように。
ガクンッ…!
「ば、馬鹿な…! 何故…何故急に…! 貴様…の……拳が…貴様の拳が……効く!?」
猛攻の果てにとうとう膝を地に落とす来訪者。その表情は全身を覆う痛みに歪みつつ、あまりにも理不尽過ぎる出来事に困惑していた。この現状が理不尽であることはすでに飲み込めているのだが、だからと言って急に此処まで追い詰められるのは理解が及ばな過ぎると。
そんな来訪者に魔快黎様は砕けた顔で大きく息を吐きながら、
「全部見たんだよ、この目でな」
トントンと左顔面を、裂けたような部分から覗く大量の瞳を指して言う。
「何だと…」
「全てを見通すこの目で…ずっと観察していたんだ。君のことを。攻撃の方向も、癖も、防御体勢も、ほぼ全部ありとあらゆる方向から見ていた」
「……つまり…俺の攻撃をずっと喰らっていたのは……俺の攻撃を全部見抜くため…か…! さっきまでのも……効いていたフリを…!」
変身したことで大幅に力を上げた来訪者に自身の攻撃がほとんど通らないと悟った魔快黎様は、反撃もそこそこにずっと攻撃を喰らい続けることでそのパターンや軌道を、ありとあらゆるものを見ることが出来る目の能力によって見ていたのだ。何発も、何十発も、何百発も、強くなった相手を分析するために。
更に喰らっていたフリをすることで反撃の機会を伺っていたのかと、来訪者はブッと口から体液を吐き捨てながら問い掛ける。
だが、
「まさか、ちゃんと効いてたよ。だから歯を喰い縛って耐えていた」
「な…」
「耐えて耐えて耐えて、それでようやく反撃出来た。言っただろ、俺は負けない。負けるわけにはいかないってな。どんな奴が相手でも、俺は負けるわけにはいかないんだよ」
「ぬぅ……。その力は…心か…」
決して無傷でいたわけじゃあない、全く意に介していないわけじゃあない。むしろ効いていた、ボロボロになり、立ち上がり続けるのが困難な程深いダメージを負っていたと魔快黎様は言い放つ。故に歯を、牙を、砕けんばかりに喰い縛ることで耐えていた。ひたすら耐えながらずっと反撃のための情報を集めていたのだ、崩れそうな御身体を、心によって耐えながら。
「やはり……理不尽だ。だが……益々殺さなくてはならなくなった、な。今の貴様を…。危険過ぎる……」
来訪者はそんな魔快黎様のことを必ず殺さなくてはならないと決意すると、軋む体を強引に起こす。
そして拳を硬く握り締めながら1歩1歩、ゆっくりと近づいた。
「ダメージが通ってんのなら…殺せるんだろ? なら殺すだけだ」
「俺は死ぬわけにはいかない」
「子のためにってか? ふん、俺は自分の子供さえも抱けねえ体に……貴様を殺すためだけの体になっちまったって言うのによぉ…」
覚悟を決め、その一撃に全てを込める意思で。
「はっきり言っておこう、俺の体は次の一撃で完全に再起不能になる。貴様はどうかは知らないが、しかし俺は次の一撃に全てを賭け、それで貴様を殺すつもりだ」
「最後の一撃と言うわけか。いいだろう、なら俺もはっきり言っておく、すでに俺の体も限界が近い。これ以上君の拳をモロに喰らったら死ぬだろうな」
「あくまでも、だろう、か。癪に触る言い方だ。だが、だからこそ殺す」
「俺も次の一撃に全てを賭けよう。君を倒して、あの子達を守り抜く」
その意思を汲み取り、応える形で魔快黎様も拳を握った。
グギギギ…ッ!!!!!
メキメキ…ッ!!!!!
「……」
「……」
ドパァッッ!!!!!
ズガァンッッ!!!!!!
次回の投稿もお楽しみに
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