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Round 2

お待たせしました

 ドカァン!!!!!


 ぶつかり合う拳、衝突する互いの力。魔快黎(まより)様と来訪者は一歩たりとも退()く事なく、全力で相手を迎え撃つ。


 ズギギィィィ…ッッ!!!!


「やるな、⬛︎⬛︎⬛︎。分かっていたことだが」


「ぬぅ…」

(なかなか強い。さっきまでとは段違いだ)


 地面を勢いよく抉りながら両手足で衝撃を殺しつつ、お互いに相手の実力を推し量る来訪者と魔快黎(まより)様。自分が相手するのは常識など通用しない強敵と分かっていたが拳を重ねることで改めて敵の力を知る来訪者。此処までの実力者は今まで対峙したことがなかったが大切な我が子達を守るべく立ち塞がり続ける魔快黎(まより)様。両者とも、相手は一瞬の隙も見せられない、一筋縄では行かない強敵と見定めている。だがだからこそ負けるわけには行かないと、


 ヒュッ!!!


 止まるのと同時に駆け出し、瞬く間に間合いを詰めると、


 ガギギッ…ッッ!!!!


「ぬぐぐ…」

(だが、以前よりも弱いな。前はこんな風に話すこともしなかった。何があったのかは知らないが、かなり弱体化している)


 組み合いながら互いの力を再びぶつけ合う。だが激突を通じて来訪者は以前よりも魔快黎(まより)様こと⬛︎⬛︎⬛︎の力が相当弱まっている、以前対峙した方がずっと強かったと違和感を感じていた。そもそも感じられる雰囲気や御身体から(あふ)れている能力(ちから)は同じだが、姿自体は以前と比べてかなり異なっており、全体的に甘さがあるように見える。

 加えて自分と普通に会話が出来ていると言う点来訪者のも違和感の中に含まれていた。⬛︎⬛︎⬛︎の時は有無を言わさず、容赦も情けもなく襲い掛かり、厄災を振り撒いていたと言うのに。相手を(いつく)しんだり、わざわざ立ち去れと言う情など持っていなかったのに。


 それなのに、今自分の目の前にいるのは何処か腑抜けた顔をした⬛︎⬛︎⬛︎。


 されど来訪者はそのことに疑問を抱くことも、何か事情があるのかと考察することなどせず、どんな顔をしていてもコイツは厄災そのものにして自分が倒すべき敵なのだと意識し続ける。現に魔快黎(まより)様の秘めたる絶大な力が御身体の随所から見え隠れしているため、変に情が揺らげば喰われ兼ねないと思っていた。


 シュパァンッッ!!!!


 ビシュゥ……!!


「ぐぅ…」


 組み合っていた手を振り解くのと同時に来訪者は後転し、足先にある刃の如き爪で魔快黎(まより)様の御身体を切り裂く。来訪者の爪は強固である筈の魔快黎(まより)様の御身体を容易く裂き、ブバッと傷口から勢いよく体液を吹き出させる。簡単には傷つかないと思っていたこの御身体があっさりと裂かれたと言う事実に魔快黎(まより)様は驚きつつ、フラフラと思わず1、2歩後退りしてしまう。大地には吹き出る体液がポタポタと垂れ、汚していく。


「ほう、貴様にも血が通っているのか? 血も涙も無い奴だと思っていたがな」


 自分の攻撃が通用する、倒すべき厄災相手に通じていることを、フラつく魔快黎(まより)様の姿を見つつ実感しながら来訪者は追撃する体勢に入った。


「……」


 だが魔快黎(まより)様はそんな相手に目を向けつつ、大きく裂けた自身の胸元に意識を持って行く。


 バグゥ……ビギュバッ……ギュチュチチ…


 すると(いびつ)な音を立てながら傷口は牙が生える大口へと変化し、それをバクンと閉じると傷口も共に塞がった。そして口が消えるのと裂かれた大きな傷も跡形もなく消え去る。


「…ふぅん」

(攻撃自体は通じても…即座に再生出来る…と)


 その一連の動作、一瞬で傷を治せるのかと考えながら、来訪者は追撃を止めた。


「なるほど、傷つけても一瞬で治せる。生半可な攻撃では通じないってわけか。まぁそれも知ってることだ。弱くなってても能力(ちから)自体は健在してるのね」


 弱体化はしていても厄介極まりない理不尽な能力(ちから)は健在している。つまり今が好機だと思って下手に突っ込むと予想だにしない反撃を喰らう可能性は十分にあると言うことだ。一瞬の判断ミスが言葉通り命取りになるこの戦い、下手なことは出来ないと改めて気を引き締め、警戒する。


「だが、再生が追いつかない程に攻撃を受ければどうなる? それこそ粉々になったら?」


「さぁな」


「試してみるか、それで分かる」


 けれども来訪者は決して気圧されない。むしろ何処までの損傷が再生出来る範囲内なのか知ってやろうと意気込み、1歩、また1歩と間合いを詰めて行く。バギリゴギリと指を鳴らし、本気で粉々にしてやろうと殺意を燃え上がらせながら。


 ザッ…!


「…」

「…」


 そして互いの拳が十分に届く間合いにまで近づき、力強い眼差しで睨み付け合う。それこそ互いの体が当たってしまうくらいの距離、一度拳を振るえば次の瞬間には相手の顔面を殴り飛ばせてしまう距離。



「くたばれ…!」


 バグォオン!!!!!


 

 来訪者は次の瞬間、硬く握った拳で魔快黎(まより)様の顔面を殴り飛ばす。指の付け根から飛び出ている鋭い尖りは殴るだけでなく、顔の肉さえも抉り飛ばした。明確な殺意を持って魔快黎(まより)様のことを殺そうとして来る来訪者だ。当然拳も一撃だけでなく、振り被っては何発も何発も喰らわせ、吹き飛ばして行く。

 やはり、意識の差が現れ始めているのか、魔快黎(まより)様はあくまでも我が子達を守れればいい、この相手を退(しりぞ)けることが出来ればいいと言う。純粋な殺意に対して同じだけの殺意で返せない、向かって来る憎悪に完全に気圧されてしまっているのだろうか。魔快黎(まより)様はほぼ無抵抗で拳を喰らい続けていた。



 ゴガァン!!!!!


「……っ」


「どうした? 反撃しないのか? ま、そっちの方が都合がいいんだがな」



 何の反撃も見せない魔快黎(まより)様に来訪者は(いぶか)しみつつも、このまま何もしなければそれでいいと思い、拳の猛打を止めない。やがて拳によって砕けた魔快黎(まより)様の牙が辺りに散乱し、ボタボタとまたしても体液を吹き出してしまう。



 そして、いよいよトドメと言わんばかりの硬く、強く握られた拳が魔快黎(まより)様の顔目掛けて伸び、



 バァン!!!!!



「……!?」


「……」



 グギ…!!!



 魔快黎(まより)様の手によって受け止められる。



「何…? 貴様…まさか効いていなかったのか…!?」


「いや、効いていたさ。いい拳だ。だが敢えて打たせていた」



 力強く握られた来訪者の拳を、それ以上の力で遠ざけながら魔快黎(まより)様はそう言い、ベロリと長い舌で(したた)る体液を舐め取った。



「俺自身、まだ何が何処まで出来るのかなんて知らない。だから今までは俺が知っていることしかやらなかった。だが今度は違う」


「…?」



 そのまま魔快黎(まより)様は説明を始め、今までは自身が知っていること、自身の御身体が教えてくれたことだけで動いて来たと言う。けれども今は違い、



「出来るかどうかも分からないが、出来そうなことをやってみたわけだ。そんで、どうやら()()()()()()ようだな」



 出来るかどうかも分からないことをやってみたと言い放った。そして自身が受け止め、握っている来訪者の手をゆっくりとその目前に持って行く。そこには、



「んな…! へぇ…」


 グジュ…ウジュル…


「君が吹き飛ばして肉片にしても、それは死んでいない。君の拳に喰らい付き、逆に君のことを喰っているぞ」



 吹き飛ばされていた魔快黎(まより)様の顔の肉片がその拳にこびり付きながら(うごめ)いており、音を立てて来訪者の指の肉を(かじ)り、喰らっていた。このように吹き飛んだ肉片が生きていればこうなるだろうと、魔快黎(まより)様は敢えて反撃せず、来訪者の拳を喰らい続けていたのだ。いや、攻撃を受けることそのものが魔快黎(まより)様にとっての反撃なのかもしれない。



「さぁどうする。このまま腕から徐々に喰われるか?」



 魔快黎(まより)様は来訪者が振り解けない程の強力な力で手を受け止めつつ、そう持ち掛ける。実際に肉片はその大きさからは想像もつかない程の速度で来訪者の指を(むさぼ)っており、すぐにでも穴が空きそうな勢いだ。



「それは困るな、パスしよう」


 ドバッ!!!



 が、次の瞬間、来訪者はもう片方の手で肘の辺りからその腕を切り離すと、後ろに大きく飛んで間合いを取る。



「やはり理不尽な奴だ、貴様は。敢えて殴らせるとは、ね」


「これで君は片腕を失った。さて、改めて言おうか。この世界から立ち去れ、そうすれば君を追うようなことはしない」



 そんな来訪者の腕をバキバキと大口で喰らいながら魔快黎(まより)様は再びこの世界から去れと持ち掛けた。これで戦意を削がれ、もう無理だと思い、本当に去ってくれればいいと思いつつ。


 しかしそれと同時に、これが最後のチャンスであると魔快黎(まより)様は決めていた。



「ふん…そうかい」



 ググ…



「残念ながら、それもパスだ。⬛︎⬛︎⬛︎、俺は貴様を殺しに来たんだからな」

次回の投稿もお楽しみに



評価、ブクマ、感想、レビュー、待ってますッ!

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