Chaos Battle
お待たせしました
パラッ……パラッ……
舞い上がる粉塵、降り注ぐ破片、大地に大きく空いた穴。その前に佇むのは太い巨樹の如き腕を持ち、硬く拳を握る巨大な体をした混沌の塊である来訪者。激しい憎しみと燃え盛る殺意が籠もっていた瞳には達成感が溢れ始めている。
「ギギ……ギ」
だがそれでも警戒心や緊張感は絶えず抱き続けており、もうもうと立ち込める粉塵をブルンッと振り払ってから、ギョロギョロと目を動かして辺りを見回した。
「……チィ」
そして、
「……」
見上げた先にいた自分を見つめる者を見つけると、静かに舌打ちしながら再び憎しみを滾らせる。
「危うくこの子達が死ぬとこだった」
「……ギギギギ■!」
(俺の瞬間移動が後一瞬間に合わなかったら、この子達はきっと死んでいただろう…)
あの拳の猛打の中、魔快黎様は瞬間移動にて回避し、側にいた我が子達を全員抱えて空中へとすでに飛んでいたのだ。更に飛んで来た破片からも我が子達のことを自身の身を挺して守っていた。
そして、
(恐れるな、俺自身を。そして、恐れるんだ。本当に恐れるべきことを)
「ふぅ〜…」
魔快黎様は耳まで裂けている口で大きく深呼吸し御身体から余分な力を抜くと、
ギロ!!!
力強く、意を決した眼差しで目下の混沌の塊を睨み付ける。
ガチュンッ
「……ママ」
「…マ、マ…?」
そんな何時になく真剣な表情を浮かべるお母さんに、その子達は抱かれ、しがみ付きながらも恐る恐る話し掛ける。けれども普段ならば笑みを含んで振り向くであろう魔快黎様は、
「俺の力が及ばないところまで飛ばすから、その場から絶対に動くな。巻き込まれて怪我でもしたら大変だ」
真剣な表情のまま振り向くこともせず、この場から離れた場所に我が子達を否応なしに強制転移させる。それでも物言いや声色だけならば優しく穏やかな普段のお母さんなのだが、雰囲気からして明らかに普段とは違っていた。そして自身の力の及ばないところまでと言う言葉から、我が子達の前ではとても振るえない力を使おうとしていることを予感させる。
「ママ……だいじょうぶかなぁ…」
「ママはだいじょうぶだろう。が…」
「あんなかおしたママ…」
「なかなかみない…よね」
実際にお母さんの存在を感じれないくらい遠い場所に飛ばされた子達もお互いの顔を見合わせ、大丈夫かなぁと口々に話し合いながら、そうそう見ることのないお母さんの真剣な表情と近寄り難い雰囲気にその予感を感じ取っており、顔を曇らせてしまっていた。
そんな我が子達が心配する最中、
グギギ…ギギッ……!
(あの子達が見える…体も動く…!)
魔快黎様は無数の目を通じて彼方へ転移させた我が子達を見守りつつ、
「君をあの子達の側に近づけるわけには行かない。今すぐ去るのなら追うことはしないが、敵意を向け続けるのなら実力で阻止させてもらう」
目の前の巨大なる混沌の塊と対峙する。だが憎悪滾らせ、殺意籠りし眼差しを向けるこの来訪者が魔快黎様の言葉など聞き入れるわけもなく、
「ギィ!!!」
ビュアッ■!!!!!
問答無用で殴り掛かった。今度こそ叩き潰してやる、完全に殺してやると先程以上の力を持って。
ピチュッ……
次の瞬間、
バヅンッ
「…!?■」
バギ…バギ…
(どう動くのかは知ってる。なら動かすだけだ)
来訪者の手首から先は消滅しており、残った部分で空を切っていた。握られていた拳、来訪者の手首は何処へ消えたのか、その行方は、
グブン…ッ
左部分は耳まで裂けている魔快黎様の口の中。即ち来訪者の手首は一瞬の内に魔快黎様に喰われたのである。音を立てながら歪に生える無数の牙で噛み砕き、喉を鳴らして容易く呑み込んでしまう。
「グ…」
「戦意を失ったのなら今すぐ去れ。追うことはしない」
少し前ならばこんなに動かせなかった御身体だが、それに疑念を抱くことはせずに魔快黎様は淡々とした口調でそう語り掛けた。この者を我が子達に近づけてはならない、この世界に何時までも留まらせるわけにはいかない。もしそうなればどのような最悪が大切な子達に降り掛かるかと思考し続け、そうならないためにこの力を振るうとだけ考え、他に余計なことは考えない。
決して変わらない、自身はあの子達のお母さんであることは。ならば親として子を絶対に守ると魔快黎様はそれだけを考え、そのための手を尽くそうとし続ける。
「グギャ…■ッ!」
ギャンッ!!!■!
「駄目か」
そんな魔快黎様に向かって来訪者は尚も腕を振るい、今度は腕全てを使ってバチンと縦に潰そうとして来た。
「なら仕方ない。宣言通り、実力行使で君を撃破させてもらう」
フッ
次の瞬間、魔快黎様は呆れるように言いながら瞬間移動してその攻撃をかわす。それこそ来訪者の頭上に。
ヒュパァンッ!!!!!!
と同時にしならせた長き尾を持って真上から来訪者の頭をぶっ叩き、
ドグシャアンッッ!!!!!
勢いよく地面に叩き伏せる。その威力たるや来訪者が振るっていた拳を超えており、
(やはり凄まじい力だ…。予め知っておいてよかった)
これ程の力を備えていることを知っていてよかったと魔快黎様は安堵していた。制御出来ない時でも知ることは出来た強大な力を、自身が持っている理不尽な力を。
(それとも、俺の心がすぐに制御出来ないことを見越して、秘めている力を知れるようにしてくれていたのか、この体は…?)
されどまだまだ全力ではない、先程見せたのはこの御身体に流れている力の一部でしかないと言うことも魔快黎様は同時に思っていた。自身が知っている力はこんなものではない、更に強大な力を振るうことが出来ると。
ギュチャン■!!!!!
「むっ」
そう思っていた矢先、倒れた来訪者の体が突如として異音を立て始め、
ギュチュチュ■■チュチュチュ…ッ!!!!!
「これは…まさか、俺と同じ…」
巨大であった肉体の組織が蠢き、凄まじい勢いで変わって行く。
まさにそれは変身、⬛︎⬛︎⬛︎が魔快黎様になったのと同じ。
グチュ…■■!!
「…ふぅ。まさかこうなるとはな。だが、想定の範囲内」
「縮んだ、だがかなり強くなったか?」
「余分な物や無駄に力を入れている部分がなくなったからな。さて…」
見上げる程巨大であった来訪者の体は魔快黎様と目の高さが合う程に小さくなった。喰らわれた筈の拳も再生している。されどその体には先程以上に力が満ち満ちており、見るだけで分かるくらい明らかに強くなっていた。来訪者は力の増大を、余分な物や無駄に力を入れていた部分がなくなることで、真に掛けるべき箇所に満遍なく力を行き渡らせることが出来るからだと答えた。
けれども、
ギロッ!!!
「⬛︎⬛︎⬛︎、貴様を殺す」
変身すれど抱いていた憎悪や殺意は消えない。
「そうは行かない、守るべき我が子達がいる」
「『守るべき我が子達』だと? 散々奪って来た貴様がそんな戯言をほざくとはな」
ゴキゴキと指を鳴らし、湧き出る怒りを露わにしながら来訪者は魔快黎様との間合いを詰めていく。
「まぁいい。貴様の力を受け継いだ厄災の子なら殺しておく必要がある。さっきまで側にいた子達がそうだろう」
「君にはあの子達に指1本触れさせない。いや、顔を合わせることさえさせはしない」
「それはどうかな、もう俺には失うものなどない。貴様が全て奪ったからだ。だが、まだ奪われていない者達を守ることは出来る。貴様から、貴様の子から奪われないように、な。失うものがない者の底力、思い知れ」
「俺はともかくあの子達も殺すのか、君は。ならば親として全力で阻止しよう」
そして戦いの火蓋が切って落とされるのは、それから間も無いことであった。




