強敵来訪
お待たせしました
自身の一部達が来訪者達の元へと向かっている最中、魔快黎様は自身の子達を守りながらその場に留まっていた。一部達が敵意や憎悪を抱いているかもしれない来訪者達を鎮め、退けて帰って来るのを待っているのだ。
「ママ……」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん達も言ってただろ。きっとすぐに帰って来るさ。信じて」
決して実力を疑っているわけじゃあない、魔快黎様の一部達が弱いと思っているわけじゃあない。しかしそれでも自分達を置いて戦いの場に向かうと言うことに不安を子達を覚えてしまっている。淫夢巫はくいくいとお母さんの脚を引っ張りながら、暗雲立ち込める胸の内を曇った表情を見せた。そんな我が子達に魔快黎様はにこりと笑いながら、きっと大丈夫だと返す。
だから信じて待とう、自身らを守ってくれる存在達の帰還を。
そう言おうとしかけたその時であった。
ゴトンッ!
「……」
「むっ」
「……ギ■」
ギロッ…■!!!!
魔快黎様のすぐ近く、それこそ目の前と言っても過言ではない位置に、突如として1体の、いや1頭の来訪者が瞬間移動して来たのだ。なんの予兆も前触れもなく、いきなり目の前にその者は現れた。
「なにッ…」
あまりにも唐突かつ巨大過ぎる来訪者に魔快黎様は一瞬困惑するも、すぐさま思考を切り替え、我が子達を守る盾となるべく構える。未だ完全に制御出来ていないこの御身体だが、我が子達のためにも甘えたことは言っていられない。
「下がっていなさい」
ザッ…!
魔快黎様は手で脚元にいる我が子達を遠ざけつつ、更に長き尾を使って盾を作りながら敵と見える。
ギョロギョロギョロ…!
(コイツをこの子達から遠ざけるのが先決だッ。何処か手頃なところは…!)
完全でないながらも懸命に目の能力を使い、何処かこの者を強制転移させられる異世界はないかと探す。
ドギャ■!!!!!
「……グッ!?」
が、次の瞬間、魔快黎様の御身体は宙を高速で舞っていた。
(これ…は!?)
あまりにも一瞬の出来事であったため何が起きたのか分からなかったが、自身の御身体が超速で飛んでいることから、自身はたった今あの来訪者によって吹き飛ばされたのだと悟る。
バッ!!!
「ま、不味いッ!」
けれど自身が此処にいると言うことは、我が子達の盾が存在しないと言うこと。即ち大切な我が子達が生命の危険に晒されると言うことだ。
「くそッ…情けねぇ…ッ!」
フッ
一瞬でも気を抜き、彼方へと吹き飛ばされてしまい、剰え我が子達を危ない目に遭わせ兼ねないと言う失態と不甲斐なさに魔快黎様はガギッと歯を噛み潰しながら来訪者の目の前へと瞬間移動する。
バギィンッ!!!
「……ヵ!」
「むぅ…!」
(こいつ…!)
と、同時に来訪者が次に振り落とそうとしていた拳を受け止めた。ありとあらゆるものを見通す能力を持った目によってその来訪者が次に自身の子を手に掛けようとしていた光景を見ていたため、転移した瞬間でも対応出来たのである。しかし、
ミシ…ッ!!!
(今までの奴よりずっと強い…!)
受け止めた拳は今まで見えて来た者達と比べて重く、一筋縄では行かないことを思い知らせた。ただでさえその体の大きさは見上げてしまう程巨大であるため、そもそもの腕の重さも破壊力も段違いなのだが。けれども決してそれだけではない、これだけの威力を拳が伴っているのはただ体が大きいと言うだけでなく、強大な破壊力をこの来訪者が求め、それだけの力を得たからだ。
ギッ……■!!!!!
「クカヵ…!」
全ては自身を倒すため、他の来訪者達と同じように憎悪を抱く自身のことを消滅させるため。
そう悟った魔快黎様は益々退くわけには行かないと思い、臨戦体勢を取った。
「…」
カタカタ…
「「「「…」」」」
だがすぐ背後には自身の子達がいる。強大にして絶大な威力を持つ拳を振るう来訪者に怯え、震えながら身を寄せ合う我が子達が。そんな子達のすぐ側でまだ完全に制御出来ていない自身の力と御身体を使ってこの強敵と戦い、退ける。自身が今此処で奮闘しなければこの子達を守り抜くことなど出来ないのだ。
されど果たして今の自身にそれが出来るのか、この子達を傷つけることなく守り抜くことが出来るのか。
そう考えてしまうと心が強張り、荒波が立ってしまう。落ち着かせていた筈の精神は揺さぶられ、呼吸は僅かながらも乱れ始める。すると指先から徐々に感覚がなくなっていき、動きが鈍くなっていく。
ドギャッ!!!!!
しかし魔快黎様がいくら万全とはとても言えない状態であっても、来訪者は決して手を緩めたりなどしない。ましてや恨みつらみを向ける相手が目の前にいて手を抜いたり、緩めたりするなどある筈がない。
バシュッ!!!!!
「……!」
再び振るわれた来訪者の手。今度は拳だけではなく指先から生える鋭利な鉤爪も魔快黎様の顔に襲い掛かる。その鉤爪は魔快黎様の左顔面を引き裂き、抉り、吹き飛ばした。今度は脚で踏ん張っていたからか先程のように彼方へと飛んで行くことはなかったものの、地面にはビチャチャッと音を立てて体液や肉片が飛び散る。
「…!」
「ひっ…! ひ…!」
「ママ!」
「う…うそ」
その凄惨にして衝撃的過ぎる光景を見てしまった子達は目を覆うことさえ出来ず、絶句し、恐怖の声を口にしてしまう。中には意識こそ失わないもののぽたぽたと漏らしてしまう子さえいた。
だが誰もこの場から逃げようとしない。凍った背筋、すくんだ脚、抜けた腰ではそもそもまともに動くことさえ出来ないのだ。
ズドン■!!!!!
しかし来訪者はそれだけで終わらせない。
ズン!■!!! ズガ■!!!!! ■ドンッ!!!!! ズド■!!!!! ズ■ン!!!!!!
両の拳を何度も何度も振り下ろし、魔快黎様のことを叩き潰す。巨大な穴が出来、大地が大きくひび割れ、姿形が見えなくなる程に。更に拳を振り下ろしたことで生まれる衝撃波は辺り一面の大地や空を切り、潰し尽くす。来訪者が抱いている純粋な殺意も乗算されることでより強大な破壊を生みながら。
「…■」
シュウウウゥゥ……パラ…パラ……ッ
やがて来訪者の拳は止まり、辺りにはもうもうと粉塵が立ち込める。舞い上がった破片は音を立てて辺りに降り注ぎ、煙の隙間から見える大地には破壊の跡としてベコォッと巨大な穴が空いていた。
そしてそこには魔快黎様の御姿は疎か、震えながらお母さんの側で行末を見守っていた子達の姿もない。あれ程の破壊力を持った拳を連続で喰らえば流石の魔快黎様もただでは済まないだろう、そして未熟な子達もその余波に巻き込まれれば一溜りもない。
来訪者は自分が作り出した目の前の巨大な穴と消滅した憎き敵に、とうとう自分の望みは果たされたと確信する。
ーー
それと同じ頃、別の場所では、
「……なぁ」
「……なんだ」
「……一言いいかな」
「……別にいいぜ」
来訪者達の存在を感じ取り、戦場に立っていた一部達はお互いにそう話し合っていた。
「あいつにさ…言っとくべきだったかな。このこと…」
「ん〜、いや、必要ないだろ。あいつなら、俺達が言わなくてもきっと気づく」
「……それもそうか」
「……やれやれ」
しかし一部達は立ってではなく、寝そべり、お互いの方を振り向きながら。
「……厄災は強大な力で乗り越えられる……か」
「…誰しもがその力を持ってるわけじゃあないが……誰がその力を持っていても不思議じゃあない…。俺達も決して無敵じゃあない……と」
その体はズタズタに引き裂かれ、腹のような部位から下は千切れ去り、体液がドボドボと断面から吹き出している。
「……あの子達の顔、もっと拝んどきゃあよかったかな……」
「……いくら拝んでも足りねぇし、今以上に拝んでも同じこと言うだろうよ。自身の最期を悟ったのなら、な」
「……ま、俺達が消えたところで何も大きな影響はないだろ。魔快黎がいれば…ね」
そしてそれから間も無く、
「……じゃあ…消えるか……」
「……ふん…そうだな……」
一部達は物音1つとて立てず、消えて無くなる。
次回の投稿もお楽しみに
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