変わるもの、変わらないこと
お待たせしました
あくまでも
「むぉっと」
「にへへ〜」
「やれやれ、いたずらっ子め」
心と自我の消滅の可能性が示唆されてから少し経った。何とかせねばと思考を巡らせ、ゆるりとした無意識的な焦燥感に駆られながらも魔快黎様は手を探し、その案が浮かんでは実行して来た。
けれどもそこに今のような穏やかな顔、それこそ笑顔はなかった。大事な我が子達だけは不安がらせてはならないと、その子達の前では懸命に笑顔を取り繕い、貼り付けながら接して来たのだが、やはり無理しているのは伝わってしまうもの。
自分達の側では頑張って笑って、そうじゃあない時は無理しているお母さん。
そんなお母さんの姿に魔快黎様の子達はどうなってしまうんだろうと安心出来ないために嫌な高鳴りを胸に感じていた。されど、近寄り難い雰囲気。ひたすら座り込み、真面目ながらも何処か苦しそうな顔を浮かべるお母さんに近づける者はなかなかいない。魔快黎様の一部でさえ、心がやるだけやった結果駄目ならばそれも致し方あるまいと傍観に徹していたのだ。
しかし漢妖歌が魔快黎様に関わってから少しばかり変化があった。決し大きな変化でもなければ、重大な会話をその時交わしたわけでもない。
ただ少しばかり他愛のない話をしただけだ。それも親子がする普遍的な会話。
だが魔快黎様にとって我が子との会話は自身の変化において大切なものであった。我が子の成長を見る暇がない程、心の深いところで焦ってしまっていた魔快黎が変わるための。
「ねぇママ。どうしてここんとこはすわってばっかじゃあなくなったの?」
「ん~、飽きたから、かな? でもこうして水浘愛と一緒にいられる。飽きて正解だったかもな」
「なるへそ~。めみあもママといっしょにいられてうれしーよ!」
我が子達のためと言って幼き我が子達から離れる。それは我が子達に寂しさと不安を植え付けるだけであり、無関心に等しい対応をしてしまうと言うことだと気が付けたから。
(随分と調子が良いように見えるな。やはり君の考えは外れていなかったのかもしれん)
(そうかもな。しかしまだ油断は出来ない。俺の考えが外れている可能性だって十分にある。それにまだ魔快黎の心が完全に⬛︎⬛︎⬛︎の体を制御出来ていないのも事実)
(あの子達もまだまだ幼い。自分らの子としての力が親である魔快黎とその体にどれだけの影響を及ぼすのかも未知。良い方向に行ってくれることを期待しながら俺達はこの子達の守りに徹する)
(今はそれが最善だ。首を長くして待ちながら、な)
そんな魔快黎様と子のやり取りを遠目に見つつ、一部達は他の子をあやしながらそう語り合っていた。かつて⬛︎⬛︎⬛︎の御身体が産み落とした子達に備わっている子としての力がどれだけ親に影響を及ぼすか、と。それが良い影響か、はたまた悪し影響か、と考えてて。
魔快黎様とその子達が共に接する時、即ち魔快黎様が親として子と接する時に限り、心は非常に安定した状態で御身体を動かしている、と一部達は感じ取っていた。初めてそのことに気が付いた一部は、⬛︎⬛︎⬛︎の御身体が自身の中に心と言うものが芽生えつつあると悟った時、万が一に備えて自身を御する力を持った者達を創り出したのではないか、と。現に魔快黎様が水浘愛と接している今、心が苦痛や激痛に苛まれることはないように感じ取れる。水浘愛だけじゃあない、淫夢巫や漢妖歌、欄照華の時も同様だ。
むぎ~
「なにかんがえてるの」
「おっとと、ごめんごめん。君達のママに対してちょっと、ね。それと後もう1つ」
「?」
と、そんなことを考えていると、ぎゅぎゅっと脚を掴んで引っ張りながら、一体何を考えているのだと欄照華が話し掛けて来る。自分達のことをあさしつつも、何処かぼんやりと考えに耽っている様子に疑問を抱き、問い掛けたのだ。そんな欄照華に一部はぐにっと首を伸ばして振り向くと、君達のお母さんに関して考え事をしていたと返す。そしてもう一言付け加えようとしたその時、
「ッ!」
「「ッ!」」
魔快黎様と一部達が同時に来訪者の存在を感知し、気配のする方へと意識を向ける。瞬間、魔快黎様は水浘愛を抱き抱えたままトンッと大地を蹴って大きく跳ぶと、他の子達と自身の一部がいるのところへとやって来た。自身の目を使って改めて我が子達の安否を確認すると、すぐさま来訪者の気配がする方へ目を向け、この世界にやって来た存在を捉える。
「なるほど、また新たな来訪者と言うわけか。それもかなりの数だ。此処でお姉ちゃん達と一緒に待っていろ。俺が片を付けて来る」
我が子達の安心と来訪者達の相手は自身がせねばならないと、魔快黎様は抱えていた水浘愛を下ろしながら言い、その者達のところへ瞬間移動しようとした。何しろその数は今までと比べてかなりのもので、とても簡単に対処出来るものとは思えなかったからだ。
「いや、その必要はない」
が、次の瞬間、一部はスッと手伸ばして魔快黎様の行動を遮りながらそう言う。もう片方の一部もうんうんと大きく頷き、此処は自身達に任せて貰おうと親指で顔を指して表現する。
「何っ、しかし…」
「まぁまぁ、いいからいいから。その子達も君と一緒の方が安心するだろ。なっ?」
魔快黎様はそんな問題を代わりに解決して貰うわけにはいかないと自身を遮る手を退けようとするが、それよりも早く一部は側にいる子達の方を見つめながら更にそう言った。そしてその言葉に、
「うん!」
「まぁ…ママがいてくれるのなら…」
「うむ、よもそっちがいい」
「……うん」
集った子達も皆満場一致でうんうんと首を縦に振り、お母さんの足や背中にしがみ付く。こうなってしまっては戦いに行くことなど簡単なことではなくなってしまう。純粋に甘えて来る子、お母さんの側に安心感を覚える子、他の子の想いに自分もと便乗する子、自分もお母さんも何処へも行かないよう側に着いていたい子。そんな我が子達が伸ばして来る手を親である魔快黎様が強引に振り解くことなど出来ず、
「ならば頼めるか」
「おうともよ」
「…!」
グッ!
結局折れ、来訪者の対処は自身の一部達に任せた。一部達は快く応え、ニッと口角を上げてサムズアップすると、共に来訪者達の元へ駆けて行く。魔快黎様は去り行く自身の一部達の背中を見つつ、
「大丈夫、すぐに戻って来るさ」
と、我が子達を安心させる言葉を送る。
ーー
カトーッ
テトタッ
「さぁて、と。こりゃあかなりの数だ。首が凝るねぇ」
「ふん、にしても君、あの子達に何を告げようとしていたんだ? いや、概ね検討は付くがな」
そして迫る来訪者達のことを見遣りつつ、一部達は戦いに備えていた。その最中、杭のようなものが打ち込まれている目を向け、さっきは何をあの子達の話そうとしていたのだと一部がもう片方に問い掛ける。粗方検討は付いていると付け加えつつ。
すると一部は首をぐぃ〜っと伸ばしながら、
「ああ、そのことか。まぁ、君も察してる通りだ」
ぐるり
「そろそろ別れの時ってやつさ。『あの子達との』な」
魔快黎様の子達と別れの時が近づいていると答えた。
「まぁそうだろうな」
しかし一部はやはりなとそのような答えが返って来ると予期していたように反応し、すとんっと残念そうに肩を落とす。
「魔快黎の心が消えれば自我も消える。そーすりゃそれに伴って生まれた俺達の今の自我も同時に消える。つまりあの子達とは会えない、会えたとしても今のように俺達があの子達のことを認知出来ない」
「そんで魔快黎の心が完全に制御出来るようになったら、俺達は御役御免ってことで退場か。本来の目的を達成したってことで俺は魔快黎の体の…力の一部に戻るだろうし…」
「俺は元の次元に戻って、厄災を振り撒く存在になる…かな。少なくともまた会いに来ることはねえ」
どう転んでも自身らはあの子達と会えなくなる。魔快黎様の心が消えようが残ろうが関係ない。あくまでも自身らは現状を心に告げ、どうにかすると言うメッセンジャーなのだから。その使命を終えた瞬間、もう御役御免の存在となり、この世界からいなくなるか自我などない本当の意味の一部として御身体に帰るのだ。
「んだよ、寂しいのか?」
「…別に。何もかも元に戻るってだけだ。元々俺はこの世界にいる存在じゃあないしな。てかそう言う君はどうなんだ」
「…いや、俺も同意見だよ。元々は魔快黎の力の一部だし、それがこうして抜け出て来たってだけだし。万事解決しようがしまいが、俺は魔快黎の体に戻る」
決して覆らない決定事項に一部達はやれやれとため息混じりに想いを馳せつつ、
「まぁ今はアレ、か。あいつらさっさとどーにかしてあの子達の元に戻ってやるか」
「そーだな。俺達は寂しくないが、あの子達が俺達のことを寂しがる…か、も、だからな」
「そーそー。あくまでもあの子達が会いたがってるだろうから会いに行く…だ、け」
迫り来る来訪者達の方を振り向きつつ、首をゴキゴキ鳴らし、ギィギィと口元から異音を漏らしながら、戦闘体勢を取る。
次回の投稿もお楽しみに
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