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真実

お待たせしました

 全身を駆け巡る強大な力。


 それによって伴う苦痛。


 未だに制御出来ぬ嵐の如し力の奔流(ほんりゅう)は、轟音(ごうおん)と共に吹き荒れ続ける。


 その音と痛みに耐えながら、魔快黎(まより)様は瞑想し続けた。



 自分はこの痛みに耐え、力を我が物とし、制しなければならないのだから。そうでなければ自分自身は消え、大切な我が子達の安否も保証出来ない。

 少なくとも自分が消えても我が子達の安全が保たれるわけではないと、魔快黎(まより)様は直感的に悟っていた。



「……」



 体表の感覚がほぼ無くなる程に集中し、魔快黎(まより)様は感覚の全てを体内に向けている。と言うよりも、体表の感覚が消えてしまう程の苦痛を体内で感じているのだ。意識を隅々まで張り巡らせ、全身に流れる力を御するために。魔快黎(まより)様はひたすら集中し、激痛に耐え続ける。

 


 がぶりっ!



 その時、そんな魔快黎(まより)様の長き尾にしがみ付き、漢妖歌(かんよう)が自身の小さな牙を先端部分に突き立てた。まだまだ丈夫でない歯や十分な力を持ってないため、漢妖歌(かんよう)の牙が尾の体表を貫くことはなかったが。


 

「おっと何だ…? っと、漢妖歌(かんよう)か。どうしたんだ?」



 けれども魔快黎(まより)様は自身の尾に牙が突き立てられると言う感覚に気が付き、閉じていた(まぶた)を開けながら何事かと自身の尾を目の前に持って来る。するとそこには先端にるがぁっと噛み付きながらしがみ付いている我が子の姿があった。

 魔快黎(まより)様はそんな我が子のことをするすると自身の側に寄せると、どうしたんだと問い掛けながら手を広げる。


「……」


 ぴょんっ


 漢妖歌(かんよう)はお母さんのことを見るやぱっと牙を離すと、その手の中に飛び込み、抱き付いた。更にぐりぐりと擦り付けるように胸元へ顔を(うず)め、幾つもある腕を使って力強くしがみ付く。


「ととっ、甘えたくなったか?」

「……ぅぅ……ん…」


 自身に甘えて来る我が子の姿に魔快黎(まより)様は優しく抱き抱え、優しく頭を撫でた。しかし甘えたくなったのかと優しく問い掛けるも、漢妖歌(かんよう)は顔を擦り付けながら首を横に振り、



「……どこにも…いかないで…」



 (こも)り、か細い声でお母さんにそう呟く。



「……」

(何処にも行かないで…か。そう…だな。そうしなくちゃあな)



 我が子の言葉、そして願いを感じ取りながらも魔快黎(まより)様は頭の中で返す言葉を考えてしまう。何処にも行かないでと願う我が子に対してもちろんだと自信を持って返すことが出来ないから。何処かに行ったとしても帰って来れるのならば恐れることはない。

 しかし実際は違う。簡単に帰って来れなくなってしまう程、何処かに行くのではない。二度と帰って来れないように自分自身が消滅するのだ。そしてその可能性は決して低くない。



「……大丈夫」


 ぎゅうっ


「何処にも行かないよ、俺は。だってお母さんだもの」



 だが、魔快黎(まより)様は静かに笑いながらそう返す。何しろ制御出来ない可能性もあるのと同時に、制御出来る可能性もあるのだから。その可能性は零ではないのだから。


 可能性がある限り、絶対に諦めるわけには行かない。自分自身が消滅するその瞬間まで諦めないと魔快黎(まより)様は決めているのだ。



「……ママ……ふあん…ふあん……なの…?」



 と、そんな魔快黎(まより)様の顔を漢妖歌(かんよう)は幼さ故のつぶらで潤んだ瞳で覗き込み、尋ねて来る。まるで心の内を探ろうとしているかのように、お母さんの心に少しでも寄り添おうとしているかのように。



「不安…俺が、か?」

「…うん……。だって…まえ…みたくわらってくれない…もん。でも…いまはわらってくれてる…」

「……」



 お母さんは今不安を抱えているんじゃあないか、何かを恐れているんじゃあないかと漢妖歌(かんよう)は幼いながらも懸命に考え、そう問い掛ける。自分達の前では笑ってくれるお母さん、でもでもそうでない時は笑っていないお母さん。覚えているお母さんには、以前のお母さんには自然と笑みを見せるくらい余裕があった思っていたのに、今ではそれがあまり感じられないのだ。


 もしかしたら無理して笑っているんじゃあないか、そうでなくとも自分達の知らないところで大変な想いをしてるんじゃあないかと漢妖歌(かんよう)は考えてしまっている。



「ママ…もしも…もしもママがたいへんなことになってるのなら…よが…よが、きょうりょくする! ママのふあんをよがとっちめる!」

「…!」

「よだってもうちいちゃくない…! ママのちからになることだってできるよ!」



 しかし、だからこそ自分もお母さんの力になりたい。何時までもお母さんに支えられ、守られるだけの存在じゃあない、もうそんなに小さくないと小さな胸を張って漢妖歌(かんよう)は言い放った。


 我が子の言葉と想い、そしてそんなことを言う程までに大きくなっていたと言う我が子の成長に魔快黎(まより)様は驚き、目を見開いてしまう。ありとあらゆる世界を覗き、如何なるものも見ることが出来る無数の目を持っているのに、何時の間にかこんなに大きくなっていることに気が付けなかったのかと。


 しかしそれも束の間、魔快黎(まより)様はにこりと笑い、



「そうか。それは頼もしいな」

「……うん!」



 まだ抱ける漢妖歌(かんよう)のことを抱き抱え、撫でてやった。こんなにも大きくなっていたのかと我が子の成長を改めて感じ取りながら。



 ――



「……ほう、そんなことが…」



 すると少し離れたところから少し首を伸ばして魔快黎(まより)様と漢妖歌(かんよう)のことを見ていた一部は起きている変化に興味を持ち始める。つい先程まで全身を駆け巡る力に意識を向けながらそれに耐えていたと言うのに、我が子と接する時だけはその一切を忘れているように見えたからだ。加えて我が子を抱き、笑顔で接する様子も御身体の協力があるとは言え、かなり心は安定した状態であるように感じられる。



「まさか…な」



 此処で魔快黎(まより)様の一部はある考察を立てると、それを確かめるべく自身の思念を御身体に飛ばす。



(あの子達のことを産んだ理由。それって…)



 元々、自身ら一部としてではなく、我が子として魔快黎(まより)様の体は子達を産んだ。それはかつて魔快黎(まより)様が⬛︎⬛︎⬛︎であり、自身の存在が危うくなった際、御身体の再生と心の新生と共に(はら)んだ者達。



 つまり魔快黎(まより)様の心とその子達の誕生とほぼ同時期。そしてその子達を創り、腹の中に宿したのは御身体。



(……やはりそう言うことか)



 一部は返って来た御身体の答えに対し、自身の考察は外れていなかったと感じ取る。



 ⬛︎⬛︎⬛︎の御身体から生まれて来た子達。


 ⬛︎⬛︎⬛︎の御身体に宿った魔快黎(まより)様の心。



(あの子達は万が一のための保険ってやつか…。もしも魔快黎(まより)の心が暴走するようなことがあれば…あの子達が何とかする…そのために体は産んだ…と)

次回の投稿もお楽しみに



評価、ブクマ、感想、レビュー、待ってますッ!

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