想うが故に、離れる
お待たせしました
自身が自身でい続ける。魔快黎様と言う存在であり続ける。
そうでなければ我が子達を守ることも、自身の存在そのものを守ることも出来ないから。
「…」
決して簡単なことではないが、しかしやらなくては自身が守りたいものは全てなくなる。このままではいつか消えると、御身体の意思を伝える者達は言う。その時が刻一刻と迫る中、魔快黎様は焦燥感に駆られそうになる心を鎮めながら静かに足を組み、瞼を閉じて座り込む。
その行動や姿はまさしく瞑想。何もしていない魔快黎様はとても静かであり、物音1つとて立たない。
けれどもその胸の中、御身体や自身の能力に寄り添い、隅々まで張り巡らそうとする魔快黎様の意識は決して落ち着いていられるものではなく、
「……」
(…! やはり一筋縄じゃあ行かないのか。だが、退くわけにはいかないッ)
全身を駆け巡っている力の奔流と向き合うだけでも相当精神を削ってしまっていた。元よりこの能力は全て心を持たない⬛︎⬛︎⬛︎が現象としてもたらすものであるため、心で制御するようなものではないのだから。
(俺をこの能力を恐れない。恐れるのは、俺が俺でなくなることと、そうなった時のあの子達の安否だけだ)
だが魔快黎様の心はその簡単に制御出来ない能力に対して恐れることなく、全身の至るところへ意識を集中させる。真に恐るべきなのは、自身が自身でなくなることと、その結果大切な我が子達に自らの手で危害を及ぼしてしまうことだと、魔快黎様はひたすら言い聞かせた。
ビリ……バギッ……
次第に魔快黎様の意識は御身体と一体化し始め、その感覚が徐々に芽生え始める。だがそれは強大な力を持っていることを身を持って体感することであるため、それと同時に魔快黎様の心と精神には甚大な負荷が掛かってしまう。
ビギ……!!! ビギッ……!!!!
「……!」
強過ぎる能力は魔快黎様自身の首を絞め、感覚を暴走させ、激烈な痛みを伴わせる。体表も体内も強大な力が駆け巡り続けているのだから。言わば矢の雨が全身に降り注ぐのと同時に、針の群れが血管や器官を絶えず凄まじい勢いで流れ続けるようなもの。いや、魔快黎様が感じているのはそれ以上だろう。
しかし魔快黎様は表に出してなるものか、その痛みで声を上げてなるものかと耐え続ける。業火に焼かれようとも、氷塊に裂かれようとも、激しき力で潰されようとも、雷が体内を狂ったように駆けようとも、心を鎮めて轟々と巡る力の奔流を制御しようとしていた。
「……」
ちらり…
そんな、静かながらも何かはしていることは様子から汲み取れるお母さんの姿を見て、
「ママ…ねぇ、あれなにしてるの?」
漢妖歌は好奇心から一部にそう尋ねる。他の子達が寝静まった中、唯一起きている自分のお母さんが今何をしているのか、つい以前まではごく当たり前に話していたお母さんが何故今に限って黙りこくってしまったのか、と。
「ん〜、君達のお母さんはね、今君達のために頑張ってるんだよ」
「よたちの…ため…?」
その問いかけに対して一部はぐぃ〜っと首を伸ばしながら、魔快黎様は今自身の我が子達のために奮闘しているのだと答えた。あのように瞑想の体勢となり、真剣に自身の御身体や能力と向き合い、制御しようとしていることまでは語らないが。漢妖歌もお母さんが懸命に何かと戦っていることは姿や雰囲気から読み取れ、ああしているのは仕方がないと悟ってしまう。
「そう、今のままじゃあ、駄目なんだ」
「……でも。ずっとママがあのまんまなのはさびしぃ…」
しかしそれを踏まえた上でもお母さんが自分に構ってくれないのは寂しい、自分達のためを思ったが故に自分達と遊んでくれなくなるのはすごく嫌だと、漢妖歌は肩を落としながら言う。
「ねぇ……いつになったらまたママはあそんでくれる?」
「…っ、それは…」
そして続け様に漢妖歌は魔快黎様の一部に、お母さんは何時になったらまた自分達と遊んでくれるようになるかと問い掛ける。けれども一部はその問いかけに対して一瞬口ごもってしまい、回答をすぐに出せずにいてしまう。
だが、それもその筈。何故なら一部達はもちろんのこと、魔快黎もこのままでは消滅する可能性が大いにあるからだ。その時が訪れるのは決して遠い未来ではなく、近い将来の話。
魔快黎様は様々な手を使って懸命に御身体の制御を試みて来た。しかしどれも上手く行かず、未だに制御出来ないまま、ただ時が過ぎて行くだけであった。だからこそ思い付く手段は手当たり次第実行に移しているのかもしれない。何としてでも我が子達の安全を守り、自身の消滅から回避すべく、今度は瞑想しているのだろう。
決して心が酷く荒れているわけではないが、かと言って凪のように穏やかであると言うわけでもない。焦っていると言っても間違ってはいないのだ。
「……それは…?」
「それは……大丈夫じゃあないかな。魔快黎は…君達のお母さんは、我が子である君達のことをとても大切にしているだろう。君達を何時までも放っておくようなことはしないさ」
魔快黎様の一部は少し硬い笑顔を見せつつ、漢妖歌の問いかけに対してように返す。
「……ほんと? ママ…きっとかえってきてくれる…?」
が、漢妖歌にとってその硬さは困惑と不安を生んでしまい、震える声で今度はそう尋ねた。ニュアンスや言い方から、どうしてもお母さんが必ず帰って来ると言う確信が持てなかったから、もしかしたらあのように黙ったままお母さんがいなくなってしまうんじゃあないかと考えてしまったから。
だから漢妖歌は、この胸の中にある不安を払拭し、かき消す意を込めてお母さんの帰還は本当なのかどうかを知ろうとする。
「…」
純粋にして幼いが故に回答に困る問答。ああそうだと答えればその心を傷付けない代わりに嘘を伝えることとなり、いや違うと答えれば真実を教える代わりに心を深く傷付ける。何方を選んでも決して良い方向には転ばない。
そんな八方塞がりである問答に、一部は答えられず、黙りこくってしまう。
「……かえってこないの…?」
けれども幼い漢妖歌にとって、自身の問答に対する沈黙は、いわば否と変換されてしまい、益々不安な表情を浮かべてしまう。
そして次の瞬間、
「そんなの……やだっ」
泣き喚くことはしないものの、噦り上げるように声を震わせ、目元を赤くしながら漢妖歌はお母さんである魔快黎さまの元へ走って行ってしまう。一部はその足を止めようと手を伸ばすが、思ったよりも漢妖歌の足は速く、捕まえられない。
そして漢妖歌は瞑想している魔快黎様のすぐ側にやって来ると、
「ママ……うぅっ」
体をふるふる震わせ、自分が想像する未来を首を振り回して否定し、感情を爆発させながらその御身体に飛び付く。
と、次の瞬間、漢妖歌はぐぁっと口を開くと、
「ううううっ!」
がぶりっ!
思いっきり大好きなお母さんの大好きな尻尾に噛み付いた。
次回の投稿もお楽しみに
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