まだ成長の途中だから
お待たせしました
「ん…はっ」
「ようやくおきたか」
徐に瞼を開きながら起き上がる漢妖歌。何処となく頭が重たく、耳奥に変なものがこびり付いて離れない感触が拭えないものの、ふらふらと立ち上がった。するとその側には先に起きていた欄照華がおり、目覚めたばかりの漢妖歌の顔を覗き込みながらそう言う。
「う、うむ…よはたしか……」
「ずいぶんねていたようだ。こなたもついさっきめがさめた」
漢妖歌はかりかりと頭を掻きつつ何があったのかを懸命に思い出そうとするが、今ひとつ頭に霞みが掛かっているかのようではっきりとしない。だがそんなことよりも自身らの側を離れて行ってしまったお母さんの行方が気になり、漢妖歌はすぐさま其方の方に思考を働かせる。
「あれ…ママは…?」
「んっ」
するとその問いかけに欄照華はくいっと親指を向け、お母さんはあそこにいると示した。そこにはたしかにお母さんである魔快黎様の御姿と、その一部達の姿がある。漢妖歌はそれを見てほうと安心するものの、すぐさま別のものが目に入りまた疑問を抱く。
「ところで……りんぷは…なんであんなにおちこんどるん」
「しらん。だがけんとうはつく」
お母さん達とは少し離れたところで座り込み、蹲る淫夢巫。そして淫夢巫が寂しくないようにと側には水浘愛が寄り添ってあげていた。ぺたんと垂れ下がった翼も相まり、その背中は何とも侘しく見える。
けれども淫夢巫が酷く落ち込み、気力を無くしている理由を漢妖歌も欄照華も悟っていた。側にいる水浘愛もきっとその理由を知っているからこそ、このように接してあげているのだろう。
「ひどいめにあったか、あいかけたんだろう、どうせ。いいきみだ、こなたたちはとめたのに」
ズキ…ッ
欄照華は未だに疼く顔の傷の跡をそっと撫でながら、ツンとした態度でそう言った。何が淫夢巫の身に起きたのかは知らないものの、あの落ち込み様を見るに酷い目に遭ったか遭いかけたのだろうと。
しかしそれは淫夢巫が調子に乗った結果。以前自分の顔を吹き飛ばせたからと言って自分の力を過信し、忠告を無視した末路だと。
「でも…そちだってりんぷにらんぼーしとった」
「なにっ。こなたのせいだっていいたいのか」
すると漢妖歌はじっと欄照華を睨むと、淫夢巫に対してしていたことを告げる。
「もともとはそちがりんぷをなぐっとったからっ。それでりんぷはていこうするだけのちからをもったんじゃあないのかッ」
少し前まで欄照華はいつも淫夢巫に敵意を向けていた、剰え殴ることだってあったと。
「それは…りんぷがこなただけの…こなたのママをとったからだ!」
「よやめみあはなぐらんかった。なぐっとったのはそちだけ」
「…っ」
欄照華はその言葉に対して自分だけのお母さんを独り占めする淫夢巫が許せなかったと答える。しかし漢妖歌は、それは自分達も同じことだと言いつつ、淫夢巫のことを殴っていたのは欄照華だけだと返した。その返答に欄照華は言葉を失い、黙ってしまう。
するとそんな欄照華に漢妖歌は、
「さっき、そちはよにじぶんがわるいのかととうたな。よはそうおもっとる、りんぷをああしたのはそちのせい、だと」
淫夢巫があのような力を発揮し、危険な場所に自ら飛び込んで行くような真似をしたのは其方が原因だと断言するように言い放つ。
「ずっとそちになぐられとったりんぷが、そちをやっつけられるくらいのちからをてにした。あんなふにちょうしづくんもしかたあるまい」
いつも欄照華に殴られると言う弱い立場であった淫夢巫がその相手を一撃で退けられるだけの力を手に入れた。ずっと自分は弱い存在だと言う思い込みが淫夢巫の中で覆ったと言っても過言ではないだろう。
「……うるさいっ」
とその時、欄照華は拳を握って漢妖歌に襲い掛かろうとした。
ガガガガッ
「っ!」
瞬間、漢妖歌は幾つもある自身の腕を向かわせ、殴られるよりも早くその腕を掴む。1本1本の力では欄照華の腕に敵わないが、何本も使って抑え込むことで動きを封じることが出来た。そして更に腕を使ってもう片方の欄照華の手も封じると、
「そういうとこ」
それが、そのすぐに殴ろうとする性格が、1番の原因だと言い放つ。
「……」
漢妖歌のたった今目の前で核心を突かれたかのような言葉に欄照華はギャリガリと歯軋りしながらも黙ってしまう。この拳が淫夢巫をああした原因なのだと理解させられたからだ。
「……こなたに…どうしろってんだ…」
その言葉に欄照華はわなわなと体を震わせ、拳をギュウと握り締めながらもそう尋ねてしまう。ついさっきまで漢妖歌のことを殴ってでも黙らせようとしていたのに、今はこの拳を振るってはいけないと欄照華は踏み留まりながら。
「そのせいかくをなおせとしかよはいえん。あとはママにきいとくれ。よにいえるんはそんだけよ」
しかし漢妖歌はその問いかけに対して、性格を直せばいいとしか返さない。こうして拳を振るわないよう抑え込み、身動きを封じてはいるものの、漢妖歌にも明確な欄照華への答えを出すことはまだ出来ないからだ。
自責の念に駆られて蹲る淫夢巫も、側に寄り添うだけの水浘愛も、衝動的に拳を握ってしまう欄照華も、それを止めることしか出来ない漢妖歌も皆まだまだ幼く、未熟。
心身共に成長している途中、だからこそどうしていいか分からない。
「それと……りんぷにひとことあやまったら…どうだ」
「……」
「ママなら…いっしょにいてくれるよ。もしダメでも、よがつきそおう」
漢妖歌はそんな欄照華に対して、未熟ながらもそう言う。これが本当に正しい答えであるかどうかは分からないけれど、少なくとも漢妖歌の中では正しいことだと信じながら。
そうしていると欄照華の腕からは次第に力が抜けていく。もう拳を振るうことはないかと漢妖歌はそれを見て察すると、するする手を離し、解放する。すると欄照華は少し考え込んだ後、
「……あとで……あとで…ママにはなしてみるよ…。でも…かんようのてはかりない。こなただけで…なんとかする」
途切れ途切れながらも聞こえるようにはっきりと漢妖歌にそう返した。その言葉に対して漢妖歌はほうか、とだけ返し、欄照華と共にお母さん達の話し合いが終わるのを待つ。お母さんの目によって見守られていることは分かるものの、自分らを置いて一部達と話していると言うことは、それだけ大変なことが起きているからだと悟りながら。
次回の投稿もお楽しみに
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