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叱って、と

お待たせしました

「…」


 水浘愛(めみあ)を抱えて我が子達の元へと戻って来た魔快黎(まより)様。その目前に広がる光景は、大切な我が子達が、漢妖歌(かんよう)欄照華(らてすか)が倒れていると言うものであった。幸いにも両者共に気絶しているだけであり、目立った外傷は見られない。しかし何故こうなったのか、側で見ていることを約束した自身の一部は何処に行ったのか、どうして淫夢巫(りんぷ)は此処にいないのか、魔快黎(まより)様には分からなかった。


 いや、本当ならば分かって然るべきなのだ。我が子達の側を離れても安否が分かるようにありとあらゆるものを見ることが出来る目で、何時如何なる場合でも見守っていなくてはならない。


 けれども魔快黎(まより)様はミスを犯した。我が子を敵の手から救おうと焦るあまり、その目の能力(ちから)を閉じてしまった。つまり我が子達から魔快黎(まより)様は目を離したのだ。そしでその瞬間、何かしらの力によって我が子達は倒れるような目に()った。



 ギリッ…!


「…くそっ」



 自身の心が自身の能力(ちから)をまだ自由に使えないが故に、我が子達が傷付けられた。何とも不甲斐ない自分自身に魔快黎(まより)様は拳を強く握りながら(いきどお)りを感じるも、


(……いた)


 すぐさま能力(ちから)を使って淫夢巫(りんぷ)のことを見つけると、


水浘愛(めみあ)、此処にいなさい。一瞬で帰って来るから」


 我が子達と一緒に待っているよう水浘愛(めみあ)に告げながら下ろし、御身体に意志を伝えてから瞬間移動する。



 フッ


 ズシュンッ


「ママッ……」

「すぐに戻るぞ」


 フッ



 そして淫夢巫(りんぷ)の元に辿り着き、抱き抱えるのと同時にまた瞬間移動し、


「ただいま」

「おかえり、ほんとにいっしゅん」


 水浘愛(めみあ)達の元へと帰って来た。


「にしても俺の一部達は何故此処にいない。側を離れた俺が言うことじゃあないが。淫夢巫(りんぷ)は何か知ってるかい?」


 けれども何故この子達のことを守ってみせると胸を叩いた自身の一部達は両方共此処にいないのかと、魔快黎(まより)様は我が子に問い掛ける。


「……えっと…その…」


 すると淫夢巫(りんぷ)(うつむ)き、もじもじもにょもにょと口ごもった。その態度に淫夢巫(りんぷ)は何かを知っているが、何かしらの理由でそれを上手く話せないでいると魔快黎(まより)様は悟る。と、その時、


「めみあがいっていい? りんぷてゃんだとたぶんいいづらいんだとおもうの。そうでしょ?」

「……うん」


 水浘愛(めみあ)が間に入りながら、説明ならば自分がすると言い出した。淫夢巫(りんぷ)だと言い辛いことがあると、お母さんの一部達がいない理由もきっとそれに関係することだろうと考察しながら。そうでしょと水浘愛(めみあ)が問うと淫夢巫(りんぷ)も申し訳なさそうに(うなず)き、ことのあらましの説明を託した。


「じゃあいうね。ママ、じつはママがいったあと、べつのとこにもあいてのそんざいがかんじられるってママのいちぶはどこかにいっちゃった。そしたらまたにたようなのがあらわれてね、めみあたちはここにいるようにしたんだけど」

「……」


 そこまで言うと水浘愛(めみあ)は説明を止め、淫夢巫(りんぷ)の方をちらりと見る。アイコンタクトで本当に自分が説明していいんだなと最終確認の意を込めて。淫夢巫(りんぷ)はその仕草に対してこくんと(うなず)き、引き続き説明を頼むようアイコンタクトで返す。



「…それでね、まぁ、このまえらてすかてゃんとりんぷてゃんのことでちょっとあったでしょ。りんぷてゃんあれからとってもつよくなったっておもってたみたいで、てきならわたしがたおすっていってね。そんでてきのとこいっちゃったんだ。めみあがおぼえてるのはここまで」


 

 すると水浘愛(めみあ)はあの時の状況について語り出した。敵の存在を感じた魔快黎(まより)様の一部は排除すべくもう片方に子達を託し、安全を確保するためにその者の元へと行ってしまったこと。しかしそれから間も無く別のところにも似たような存在が現れたそうだ。一応もう片方の一部は魔快黎(まより)様の子達の安全のために残ってくれたのだが、その時欄照華(らてすか)の一件で自信を付けていた淫夢巫(りんぷ)が、敵なら自分が倒すと言い出した。

 もちろんそれを水浘愛(めみあ)を始め、他の子達も魔快黎(まより)様の一部も止めようとしたが、実際に欄照華(らてすか)の顔を半分消し飛ばせる力を持っていることは子達の間では周知の事実であったため、その時の淫夢巫(りんぷ)を力づくで止めることは出来なかったのだ。かつて乱暴を振るっていた欄照華(らてすか)でさえ、淫夢巫(りんぷ)が手を向ければ止まってしまった。


 加えて淫夢巫(りんぷ)には魔快黎(まより)様と同じ瞬間移動の能力(ちから)があるため、結局誰も敵の元へ行ってしまう淫夢巫(りんぷ)を止めることは出来なかったのだ。



「……本当か?」



 告げられる説明を聞いた魔快黎(まより)様はまさかと言った表情で淫夢巫(りんぷ)の方を振り向く。何しろ淫夢巫(りんぷ)と言えばしょっちゅう魔快黎(まより)様の脚の後ろに隠れたり抱擁(ほうよう)を求めて来る指折りの甘えん坊なのだから。戦いなど無縁、喧嘩っ早い性格とは正反対だと思っていた。たしかに一度戦場に来てしまったことはあるが、寂しさのあまり魔快黎(まより)様のところへ瞬間移動しただけであって、参戦したくて来たわけじゃあない。


 そんな淫夢巫(りんぷ)が自らの意思で相手と戦おうとしていたなど、魔快黎(まより)様には到底信じられなかった。


 けれども、


 

「……うん……」



 淫夢巫(りんぷ)項垂(うなだ)れながら力なく(うなず)く。



「何でそんな危険なことを…っ。怪我でもしたらどうするんだ」

「……ごめんなさい…」

「…下手に攻撃して相手を逆上させたら、それで相手が淫夢巫(りんぷ)に酷いことをしようとするかもしれない。そうなったら怪我じゃあ済まないんだぞっ!」

「……はぃ…」



 何と軽はずみな行動か、それによって淫夢巫りんぷが亡き者にされていたかもしれないと魔快黎(まより)様は声を荒げて叱り付けた。実際にその状況を見ていたわけじゃあないが、淫夢巫(りんぷ)が自身の実力に自惚(うぬぼ)れ、危険な状況に自ら飛び込んで行ったことは事実。


 と、その時、



 カトーッ


 トッ


魔快黎(まより)…っ」

「……っ」



 来訪者の存在を感じ取り、離れていた魔快黎(まより)様の一部達が戻って来る。何れも来訪者達を退(しりぞ)けてから此処へ帰って来たのだが、我が子に怒り、叱る魔快黎(まより)様の姿を見てとても穏やかでない雰囲気につい黙ってしまった。


「この子達を置いて…敵を退(しりぞ)けていたのか…」


 すると魔快黎(まより)様は帰って来た自身の一部達にそう話し掛ける。自身も我が子達の側を離れており、一部達も我が子達の安全のために動いていたため、決してその行動を否定したり、(さげす)むような声色ではなかった。


「…」

(…すまない。俺がこの子達の側を離れていたからこうなったんだ。俺がつい()を上げてしまったから、漢妖歌(かんよう)欄照華(らてすか)、そして水浘愛(めみあ)もこうして意識を失ってしまった。気を失っているだけで外傷は与えていないし、それでも原因は俺だ。そして淫夢巫(りんぷ)を止めることも出来なかった、こうなっているのは俺のせいだ)


 その言葉に目に杭のようなものが打ち込まれている方の一部は魔快黎(まより)様のそう思念を送る。あの時自身が咄嗟に声を上げてしまったせいで、欄照華(らてすか)漢妖歌(かんよう)水浘愛(めみあ)を気絶させてしまったと。更に保護者ときて淫夢巫(りんぷ)のことを止められることも出来なかったと。


(君が離れた原因を作っちまったのは淫夢巫(りんぷ)自惚(うぬぼ)れだってことは分かってる。俺の子達を守るために動いてくれたんだろ、責めるつもりはない)


 魔快黎(まより)様は自身の一部の言葉に対し、思念によってそう返す。


「……俺も、片割れがいるからと油断してた。最初から俺が側にいてやればよかったんだ。結果的にこの子達に不安な想いをさけてしまった。すまない」


 もう片方の一部もこんな事態になるならば自分が来訪者のところへ向かわず、側に付いていてやればよかったと言い、謝罪する。


「でも…もとはわたしが…わたしがかってなことしたから…。わたしが…あいつらのこと…」


 と、そこへ淫夢巫(りんぷ)が間に割って入り、原因は自分だと言おうとするが、


「……」


 スッ


「…っ」

「……」

 

 ふるふるっ

 

 喋らない方の一部が自身の手で(さえぎ)るようにして止め、首を横に振って介入しないようにする。今はこの子達を守らなくてはならない俺達の問題について反省しなくてはならないと仕草で告げて。


「……」

「…りんぷてゃん…」


 お母さんや自分達を守ってくれるお姉さんの苛立ちややるせない気持ちを、悪いことをした自分を叱ることでどうにか出来ないかと、そもそも悪いのは自分なのだから思いっきり叱りつけてくれた方がいいのにと思いながら言ったのに。淫夢巫(りんぷ)は思いながら言ったのに。

 それなのに誰も君を叱らない、そう告げられたようで淫夢巫(りんぷ)はきゅうと胸を痛めてしまう。そんな淫夢巫(りんぷ)の背を水浘愛(めみあ)は優しく(さす)り、


「……めみあは…そばにいるよ…」


 自分が側にいてあげると言う。その他には何もしてやれないけれど、胸の痛みを消すことは出来ないけれど、それだけならばしてやれると。


「……」


 その言葉に淫夢巫(りんぷ)はそっと側に座り込み、脚の中に顔を埋めて黙り込む。そんな淫夢巫(りんぷ)の側に水浘愛(めみあ)も座り、寄り添った。

次回の投稿もお楽しみに



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