覗く片鱗、極まりない理不尽
お待たせしました
「めみあきらい」
ドムッ!
そう言いながら顔面に伸びる拳。自身を出汁にお母さんを強請り、困らせる者を前に水浘愛は容赦なく自分の拳を振るう。幼いが故のまだ深く思考が出来ない未熟な精神は、逆に素早い判断を可能としたのだ。
しかし幼いが故にまだ非力であり、拳の威力は非常に弱い。
つまり水浘愛が来訪者に対してしたことは、ただ頬を少し強めに撫でた程度のこと。強いて言えば、水浘愛は粘性のある液状の体で構成されているため、べたりと液体が貼り付いただけ。
そんな水浘愛に来訪者は一瞬驚きこそすれど、すぐさま大したことない奴だと切り替え、
「貴様も余計なことを■るなっ」
「ッ!」
と強めの口調で言い、更に腕の力を入れて乱暴に自分の側へ近づける。魔快⬛︎様はその様子に焦り、早く我が子を自身の元へ転移させねばと、心を落ち着かせながら密かに能力を使おうとした。
が、
にゅるっ
「にょろぉんっ」
「あ…■?」
ずりゅんっ
次の瞬間、水浘愛は流水の如く体をとろぉんっと変形させながら来訪者の腕の中をすり抜けて行く。その光景に来訪者は疎か、お母さんである魔快⬛︎様でさえ驚いてしまい、お互いに思わず動きを止めてしまう。
しかし水浘愛だけはずりゅずりゅと生き物のように腕の隙間をすり抜けて行き、来訪者からの脱出を図ろうとした。それから少し経ってようやく来訪者はハッと状況を飲み込むと、自分の腕から抜け出る水浘愛を掴もうともう片方の手を伸ばす。
するっ すかっ
「なっ…に■!?」
けれどもまさに水そのものと言っても過言ではない今の水浘愛の液状の体を掴むことは容易ではなく、どんなに手を伸ばそうがその体を貫通し、剣で刺そうとしても全くと刺さらない。手を皿状にして掬うことで一瞬は止められるものの、ほんの僅かな隙間があればそこから溢れて行ってしまう。そんな水浘愛を何とか掴もうと来訪者は必死になって手を動かした。
フッ
「…■!?」
が、来訪者がその液状の体を掴むよりも早く水浘愛は消え、
「ごめん、怖い想いさせちゃ⬛︎たな」
「いゃ? べつにぃ。でもありがとう、ママだいすき!」
魔快⬛︎様の腕の中へと転移する。水浘愛が自ら抜け出ようとしてくれたお陰で来訪者の意識が完全にそれに向かってくれたため、隙が生じたところを魔快⬛︎様は突くことが出来たのだ。そして能力を用いて水浘愛を自身の元へと転移させ、安全を確保したのである。魔快⬛︎様はすぐさま我が子を優しく抱き寄せると、水浘愛も笑顔になって手を伸ばし、お母さんの体に抱き付いた。
しかし、
ギロッ…!⬛︎!!
魔快⬛︎様にある無数の目の幾つかは強大な憎悪をその来訪者に向ける。こうして無傷で我が子を守れたとは言え、この者が我が子に刃と敵意を向け、剰え傷付けようとしたのは事実。ましてや水浘愛は自らの意思で此処に来たのではなく、あくまでも動かないようと強請り、自身の子だからと言う理由だけで殺そうとしていた。
「……」
「……■!」
黙っていながも伝わる激怒、易々と触れてはならぬ逆鱗に触れたことで燃え上がる憤怒。睨み付けている魔快⬛︎様の目にはそれらが轟々と燃え盛っており、激しき炎となっている。その目に睨み付けられる来訪者はいち早くこの場に留まり続けるのは不味いと判断し、撤退しようと転移の能力を使おうとした。
ぐぃ⬛︎
「……う■!?」
が、何故か足が動かない。何か強大な力によって抑え付けられている、いやしがみ付かれているのだ。そう思うや来訪者は自身の足に目を落とすと、
グギュギ⬛︎ギュギ⬛︎ッ!⬛︎!
「く…■」
そこには無数の肉片が蠢きながら纏わり付いており、離さないでいた。一体この肉片は何処から湧いて出て来たのだと来訪者は戦慄しながら、それを弾き飛ばそうと剣を振るう。しかしどんなに強く剣先で突いてもグニグニと弾力を持って跳ね返され、削ぎ落とそうとしても刃が通らない。そうこうしている間にも肉片はどんどん足元に集い、纏わり付く。ましてや足から胴体へと登って来ている。
「こ、こんな…■!? まさか…! クソ…!」
まさかこの肉片は先程自分が抉り飛ばした魔快⬛︎様のものだと来訪者は悟り、益々纏わり付かれるのは不味いと焦った。
ブチ⬛︎
と、その時、何やら歪ながらも何かが切れるような音が足から聞こえる。見ればその音がした箇所からは来訪者の体液が滴っており、無数の肉片はグチュグチュとその体液に群がるようにして蠢き続けていた。
そして足の表面だけでなく、内側にも何かが潜り込み、動いていると言う感触を覚えた瞬間、
「くっ…っぐぁああ■ああ!!」
ズバッ!!!
来訪者は剣を持って付け根から足を切断し、勢いよく地面を転がりながらその場から離れる。するとそれから間も無く来訪者の足は全て肉片が覆い尽くし、ぐちゃぐちゃと音を立てて喰らって行く。
「見るな⬛︎、水浘愛」
「うん」
そんな光景を我が子には見せられないと魔快⬛︎様は尾に乗せている水浘愛の顔をその先端で覆い隠しつつ、
「さて、君もとっと⬛︎出て行って貰おう。それとも、まだ⬛︎るか?」
憎しみを抱きつつも淡々とした言葉で来訪者に近づきながらそう告げた。
足を戦意と共に喰らわれた来訪者はふるふると体を小刻みに震わせながらも、尚敵意を向け続けている。最早戦うことなど出来ないような状態であるが、それでもまだ厄災そのものである⬛︎⬛︎⬛︎への憎悪は消えないようだ。
「……ふん、相変わらず…■たらしい…ことを…」
そして、
ズボォッッ!!!
「言うな■!!」
「ッ⬛︎!」
ドスッ!!!
不意を突くと言わんばかりに切断した足の断面から剣を生やし、魔快⬛︎様の顔面を突いた。
バキ⬛︎
が、魔快⬛︎様は左顔にある大きく裂けた口とそこに生えている牙で受け止め、噛み砕く。悪足掻きなど無駄だと言い放つかのように、もう君の攻撃なんぞ通じないと理解させるように。
けれども来訪者はそれだけで諦めず、自らが切断した足の代わりに剣を生やして立ち上がると、
「■は貴様を殺すために来たんだッ! 貴様を殺さずに死ねるものか■!!」
「そうか…⬛︎」
全身から剣を生やし、滅茶苦茶に振り回しながら魔快⬛︎様に向かって来る。魔快⬛︎様をそれを前にしても慌てることなく、冷静に自身の御身体に集中した。
そして、
ビギビギギギ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
(恐れるな、慄くな)
自身の左腕を持ち上げ、歪な音を立てて形を変え、牙が覗く口を生やすと、相手を撃墜する体勢に入る。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
次の瞬間、来訪者の刃が届くよりもずっと早く魔快⬛︎様の牙が相手の体を捕らえ、バツンッとその大半を一瞬で喰らった。
「■ね!」
ビァッッ!!!
しかし来訪者は自分の体のほとんどが、それこそ下半身がなくなる程喰われたにも関わらず、残った体ごと剣を腹に突き刺そうとする。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
が、魔快⬛︎様は腹にもカパァッと口を生やし、剣ごと来訪者を抑え込むように咥えた。
「さて、君がもうこの世界から去り、二度と来な⬛︎と俺に誓え。そうすれば離してやる」
魔快⬛︎様は、それでもいきなり喰らうことはせず、この世界から立ち去り二度と来ないと誓うのならば離してやると来訪者に告げる。
「……死にやがれ、腐れ野郎。いつか■達の恨みが、貴様を殺す。貴様は誰からも忌み嫌われているんだからな」
その問いかけに来訪者はそう返すと、口の内側から体を貫こうと剣を生やそうとした。
「……」
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
けれども、それより早く魔快⬛︎様は口を閉じ、完全に来訪者を喰らい尽くす。そうしてついに来訪者は沈黙し目の前から敵意を向ける相手はいなくなった。魔快⬛︎様はこれでようやくひと段落かとため息混じり変身し、魔快黎様の姿となる。すると切断された足に群がっていた肉片も魔快黎様に集って行き、足元からパキパキと音を立てて一体化した。
「ママー」
「終わったよ、さぁ帰ろうか」
そして尾で覆い隠していた水浘愛の目を優しく退けてあげると、帰ろうかと穏やかな口調と目で告げる。
次回の投稿もお楽しみに
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