生える
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ところ変わりこの世界の端で来訪者と対峙している魔快⬛︎様はゾワリと背筋が凍るような畏怖すべき雰囲気を醸し出していた。
ズゾッ……ゾク⬛︎…ッ!
近づく気になどそう簡単にはなれぬ威圧感、それに気安く触れればただでは済まぬと思わせる程の危うさ、底など到底見えぬ強大な力の片鱗。
と言った、並のものとは比べ物にならない力が、その一部が御身体から覗いている。
ただ思っただけなのに。この来訪者と戦い、自身の大切な者達を守ってみせると魔快⬛︎様は思っただけなのに。
それだけで此処までの禍々しくも強大な力が溢れてしまうのは、魔快黎様が厄災そのものであるから、⬛︎⬛︎⬛︎と言う存在であるからだろうか。
「ふん、思い■きり戦れるだと? 何をほざくかと思えばそんな戯言をのたまうとは」
けれどもその力を前にしても来訪者は全く怖気付くことなく、強気な姿勢を見せながらそう言い放つ。恐れを感じる以上にそんなものなどに気押されないと言う確固たる決意と、決して許さないと言う強い意志がその者の瞳の奥で燃えているからであろう。来訪者の持つ決意と意思は魔快⬛︎様の目にもはっきりと見て取れ、この者は本気で自身のことを倒す気でいるのだと悟れる。
「俺の…俺達の恨み■思い知れッ。貴様さえいなければ、■達の世界は平和だったんだよッ。貴様が全て■ぶち壊したんだ」
そしてその者の目に改めて殺意と憎悪が宿ると、
ブァッ!!!
「殺■てやる、⬛︎⬛︎⬛︎」
それらを体現するかの如く全身から歪にして破壊のみを求めている無数の剣を生やす。次の瞬間、来訪者は躊躇いも戸惑いもなく、剣の刃先を向けながら猛スピードで突進して来た。
ズドドドッッ!!!
刃はいとも容易く魔快⬛︎様の御身体に突き刺さり、貫通する。胸に、顔に、腹に、手に、脚に、即死は免れぬであろう部位には全て剣が刺さっていた。
「……チッ」
しかし来訪者は顔を顰めながら舌打ちすると、静かに剣を引き抜いて魔快⬛︎様から距離を取る。
たしかにその剣は魔快⬛︎様の御身体を貫き、急所に炸裂したように見えたのだが。
けれどもその来訪者にとっては、本来あるべき感触がなかった。故に自身の剣を引き戻し、距離を取ったのである。
それは手応え、刃を伝って目の前の敵を貫き、その肉を裂いたと言う感触が来訪者には感じられなかったのだ。
対する魔快⬛︎様は、
パ⬛︎…クチュルッ
「…これ⬛︎…」
(俺の体が勝手に反応して避けた…いや、変わったのか…)
貫かれた御身体の箇所に現れているものを不思議そうな目つきで見つめていた。頭、腕、胸、腹、脚、つい先程刃が貫こうとした箇所とその反対に位置する箇所には全て巨大な口が生えており、それによって御身体にはポッカリと穴が空いていたのだ。そしてパクリと一度口を閉じるのと同時に穴は消え、口もは溶けるようになくなる。そんな自身の御身体に、反射的とは言えこんなことまで出来たのか、ただ避けねばと心が思っただけで御身体は此処まで応えてくれるのかと少し驚いてしまう。
「腑抜けたように見えて、理不尽なのは健在か、■ソッタレ。まあ今ので倒せるとも思っていなかっ■しな」
(理不尽…か)
「何故かは知らんが見た目を変えている故、もしや虚を突けるかと思っていたが、どうやら■うでもないようだな。変身を解かれて本来の⬛︎⬛︎⬛︎になられるのも面倒だ。世界のためにも、やはりとっとと■しておくのが得策か」
「ッ」
けれども来訪者は自分の攻撃が交わされたことに対して特に驚く様子はなく、むしろ理不尽故にかわされるのも致し方なしと考えているようだった。そして改めて魔快⬛︎様が本来の⬛︎⬛︎⬛︎の姿に戻る前に始末しておくのが得策だと考えると、
ウッ!!
ヒュバッ!!!
先程と同様、一瞬で間合いを詰めるのと同時にその剣で魔快⬛︎様の御身体を貫こうとした。だが魔快⬛︎様も相手の同じ動きに対し即座に御身体に意識を向け、先程のように全身に口を出現させる。そして貫こうとしている部分の口を開け、向かって来る剣を回避しようとした。
次の瞬間、
ズドッ!!
同じように魔快⬛︎様の御身体に刃が振るわれ、口によって出来た穴を貫通する。
「同じことの繰り返し⬛︎?」
「いや…違■な」
だが今度はこれだけで終わらないと来訪者は敢えて使わなかった両腕を持ち上げ、肩の付け根から指先に掛けて鱗のような刃を生やすと、
ドバッ!!
「⬛︎!」
それを勢いよく振るい、魔快⬛︎様の顔の肉を抉り、吹き飛ばした。
ズバッ!!! ドブァッ!!!
ブヂギャッ!!!
それも一度に終わらず何度も何度も、来訪者は魔快⬛︎様の顔をズタズタに引き裂く。辺りには瞬く間に肉片や体液と思われるものが散乱し、ビチャチャッと音を立ててへばり付く。しかしそれでも来訪者の手は止まらず、刃を持って削りながら破壊し続ける。
ブヂュゥ⬛︎ゥゥ……
そうして然程時を置かずして魔快⬛︎様の頭は最早なくなったと言っても過言ではない程に破壊され、断面部分からは細かな肉片が体液と共に噴出されていた。崩れ落ち、膝は落ちないものの、そんな御姿となってしまった魔快⬛︎は完全に沈黙し、静止する。
来訪者はその御姿を前にようやく手を止めると、最後のトドメと言わんばかりに抉ったことで剥き出しになった首の断面に
ドスッ!!!
と力強く己の剣を突き立てる。
「終■ったか。意外と呆気なかったな」
そう言いながら来訪者はバキリと突き立てた剣の刀身を折るように自切し、ズブリと更に深く突き刺すと、体から生やしている他の剣も引き抜こうと力を入れた。
⬛︎ギギッ
ガギ⬛︎ッ
⬛︎⬛︎ギッ
「…?」
が、何故かその剣は動かない。
ふと見ればその剣は全て、ガギガギと歪何音を立てて噛み締める口と牙によって止められており、
「なっ…■?」
バギ⬛︎ッ!
剰え、それを噛み砕き、咀嚼してさえいた。
「まさか…! 貴様■!」
その瞬間、来訪者は自分の身に起きていることを悟ると、全ての剣を自切し、大きく後ろへと飛んだ。今この敵の側にいるのは不味い、自分の猛攻によって頭をほとんど破壊しても死なないのかと思いつつ。
するとそんな来訪者の目の前で、
バ⬛︎⬛︎⬛︎
ゴクン⬛︎
と音を立てて御身体に生えている口は剣を噛み砕き、呑み込むと、
⬛︎⬛︎⬛︎ンッ
「ふぅ、なかなかやるじゃ⬛︎ないか」
(抉り飛ばされたても元に戻れる力もあるのか、この体には)
例えるならば蕾のようなものが首の断面から生え、花開くように魔快⬛︎様の頭が現れる。それも先程散々破壊された傷跡は完全になくなっており、これも自身の御身体の持つ力なのかと思っていた。
「まさか…想像以上■。此処まで理不尽だったとは…■」
「…」
(随分と敵意が消えた。ならさっさと立ち退いて貰おう)
その理不尽極まりない再生能力に来訪者の戦意はほとんどなくなってしまい、何処となく逃げ腰気味になってしまう。そんな姿に、これ以上戦う必要もないかと魔快⬛︎様は思うと、それならばさっさとこの世界から消えて貰おうと異界に転移させる能力を発揮しようとする。まだ完全にコントロール出来ていないため、今すぐに能力を発揮することは出来ないようだが。
するとその者もこれ以上魔快⬛︎様と戦うのは不味いと思っているようで、
「どうやら、今この場で貴様を■すのは難しいようだ。此処は体勢を立て直させて貰うとする■」
戦況を立て直すためにも一時撤退しようと自分からこの世界から立ち退こうとした。
スッ…
「……だが」
「…⬛︎?」
「厄災のガキ■始末させて貰うッ」
が、次の瞬間、来訪者はニタリと笑うと、
パッ
「ッ!」
「っ?」
グァシッ!
得た能力を持って自分の手の中に魔快黎様の子を、
にゅりっ
「なっ…なにっ? マ、ママ…っ?」
「水浘愛ッ!」
ギシュッ!!!
「そこを動くなっ! 動けばコイツの■はないぞっ! 貴様が少しでも動いたり、転移の■を使おうとすれば、こいつの首を刎ね飛ばすッ! それとも貴様にはこんなガキの命なん■知ったことねぇってか!? そうだもんなぁ! 貴様はそう言う存在だから■!」
水浘愛を瞬間移動させ、質に取った。少しでも動けば命はない、剣を持って引き裂いてやると脅しながら。
「…」
「お? 何だ? 来ない■か?」
その言葉に魔快⬛︎様は完全に止められてしまうも、何とか自分の転移の能力を持って側に取り戻せないかと試みる。しかしそれが敵に勘付かれた瞬間、我が子の命はないだろうとも思ってしまうため、なかなかすぐに実行出来ないでいた。更に焦燥感に駆られてしまっているが故、他の能力も上手く使えない状況。
「…水浘愛…」
「おい、妙なことをするんじゃあね■ぞ。次何かしたらこのガキの命はない」
「……」
来訪者は水浘愛の首元に中指から生える剣の刃先を突き立て、その様子をまじまじと見せ付けながら余裕の態度で脅す。そして1歩1歩後退りして距離を取りながらこの世界から異界へ転移しようとした。
そして次の瞬間、
じろっ
水浘愛は自分を使ってお母さんを脅す来訪者のことを睨み付けるや、
「ママをこわがらせるおまえ、めみあきらい」
ドムッ!
と言って剣に液状の体が貫かれようともお構いなしに、来訪者の顔面を殴った。
次回の投稿もお楽しみに
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