胸に生まれた光の
お待たせしました
⬛︎⬛︎⬛︎が厄災の概念として生まれ、ありとあらゆる世界を渡り歩きながら混沌を振り撒いて来てから長き時が経つ。時間や空間に縛られない、何時如何なる時空にも現れる存在であるが故、どの世界で、どんな場所で、どれだけの時を生きたと言うのを表すことは出来ないが。
少なくともその⬛︎⬛︎⬛︎と言う厄災の概念が生まれ、体を持ち、様々な異界を渡り歩くようになってから、⬛︎⬛︎⬛︎の中では相当な時が経っていた。もちろん概念そのものであるため、心などなければ思考もしていない。何も考えることもなく、何か目的があるわけでもなく、世界中を厄災と混沌に包みながら、ただ存在し続けるだけ。
何のために生まれたのか、厄災そのものである自分が生まれた理由は何なのか。そんなことさえも考えず、自分自身が何者なのか思考することもなく、ただ世界に存在し、厄災を振り撒く。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
世界そのものに忌み嫌われ、あらゆる生命から卑下され、いらぬ存在として追い出され続ける。されど⬛︎⬛︎⬛︎は何も思わない、痛む心などない。厄災による悲鳴を聞けど、それに対して何も感じはしない。
だが、⬛︎⬛︎⬛︎は概念であれど、無敵と言うわけじゃあない。今までは如何なる武器を持ってしても何の意味も成さず、全て混沌の塊に変えられてしまった。そもそもありとあらゆるものを混沌へと変え、その混沌を喰い物とする⬛︎⬛︎⬛︎に攻撃を当てること自体、簡単なことじゃあないのだ。ましてや⬛︎⬛︎⬛︎に喰われずに済んだ混沌の塊でさえも、強大にして常軌を逸する体を負傷させることさえ出来はしない。
つまり⬛︎⬛︎⬛︎は敵無しと呼ぶ他ない、強力な能力によって厄災と混沌をもたらす⬛︎⬛︎⬛︎の前には何も出来はしない。と、抗えない者は誰しもが思っていた。
しかしそれは⬛︎⬛︎⬛︎の能力によるものであり、それを超える能力があれば、もしくはどんな能力をも寄せ付けぬ強力にして強大な力があれば、その⬛︎⬛︎⬛︎のことを退けることが出来るかもしれない。
そしてついにその時は来た。
いや、何時かは来る運命であったのかもしれない。
どのような世界であれど来訪することが出来、分け隔てなく厄災を振り撒くことが出来る。それ即ち、降り掛かる厄災をどうにか出来る者達がいる世界、もしくはもたらされる混沌に抗える強大な力と精神力を持った者達がいる世界にも行くことが出来ると言うこと。更に思考しない⬛︎⬛︎⬛︎の特性と言うものなのか、それとも数多ある世界が持っているものなのか、⬛︎⬛︎⬛︎は強い者達のいる世界へと引き寄せられて行くように、もしくは重力のようなものが働いていて、そこへ向かって落ちて行くように向かって行っていた。
そしてそんな世界の渡り歩き方をしていればどうなるか。
ましてや先述した圧倒的な強者達がいる世界に、厄災と言う概念そのものが来訪し、厄災を振り撒こうとすればどうなるか。ましてやは世界の平和と言う正義を願う者と相見えればどうなるか。
ヴォッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!
⬛︎⬛︎⬛︎自身に混沌をもたらすと言う強力な能力があっても、戦うと言う意思を持たない、敵を前に闘志を燃やすなどと言った心などないため、初めて会う強敵についに⬛︎⬛︎⬛︎は退けられてしまう。
それは80万度を優に超える光線技であった。指先までピンと揃い、伸ばされた手から放たれる必殺光線。
凄まじい威力を持った必殺光線を受けた⬛︎⬛︎⬛︎は全身を貫かれ、胸と思われる部分に風穴を空けられ、消し飛んでしまう。まさに奇跡と呼ぶべきことか、厄災そのものを凄まじい力だけで世界から追い出そうとしていた。そして、
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
「⬛︎」
⬛︎⬛︎⬛︎はこの時初めて、世界に概念として誕生して初めて、痛みと言うものを感じ、震えてしまう。もちろんこれが痛みだと知っていたわけではないため、初めて知るその感触に震えるしかなかったのだが。されど本能なのか、それとも概念でさえも消滅することに対して畏怖と言うものを本質的に覚えているものなのか、
「⬛︎」
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
咄嗟にその世界を飛び出し、逃亡し、目の前の強大な力を持ったその者から退散した。
側から見ればそれはテレポーテーション、次元を超えた瞬間移動。⬛︎⬛︎⬛︎にとっては異界から異界へと来訪する際に使っている転移の能力。その能力を⬛︎⬛︎⬛︎は今この時初めて、圧倒的強者からの逃亡に用いたのだ。このままこの世界に残り続け、この者と見え続ければ自分は消滅してしまう。そう思考したわけじゃあない、そのように思ったわけじゃあない、されど目の前の相手から逃亡する様は、明らかに自身の肉体の消滅を嫌っているように見えた。
「⬛︎⬛︎⬛︎」
⬛︎⬛︎⬛︎の逃亡先は、自身が喰らい残した混沌が積もり積もることによって作られた世界。混沌以外何もない、⬛︎⬛︎⬛︎以外何もいない世界に、傷付いた⬛︎⬛︎⬛︎はドチャンッと倒れてしまう。されど⬛︎⬛︎⬛︎が負った傷は深く、絶え間なく感じる痛みに悶えていた。
動けない程の痛み、一切の身動きを封じられてしまう程の激痛。
それに⬛︎⬛︎⬛︎は苛まれてしまい、しばらく混沌の塊によって出来た⬛︎⬛︎⬛︎だけの世界に閉じ籠る。風穴が空き、消滅し、崩壊した箇所からはドボドボと得体の知れない液体が滴っており、ビクンビクンと脈打ち、蠢きながら再生と破壊を繰り返していた。
消滅に抗いながら、このまま概念そのものである体がどんどんと崩壊し、壊れてしまうことに抗いながら。
⬛︎⬛︎⬛︎は自身しかいない混沌の世界の中で、懸命に自身の肉体を再生し続け、再構築して行く。これ以上崩壊しないよう、この世界から消滅しないよう。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
そして長き時を掛けた末、⬛︎⬛︎⬛︎の肉体はとうとう再生の終わりを告げようとしていた。
「⬛︎⬛︎⬛︎?」
が、再生して行くに連れて、その体にはとある変化が起き始める。
体の再生に伴い新たな力を持とうとしているのか、それとも自身を消滅させる程の強大な力への対抗なのか、
⬛︎⬛︎⬛︎…
胸と思われる部分に本来はなかった筈の光球がボゴンッと大きく膨らむようにして生まれていた。怪しく輝き、ドクンドクンと脈打つ音に合わせて明暗を繰り返している光球が。その光球が⬛︎⬛︎⬛︎にとっての何であるか⬛︎⬛︎⬛︎自身には分からない。
されど再生する過程において出来てしまったものならばきっと必要なものなのだろうと⬛︎⬛︎⬛︎は考えながら、その光球をそっと撫でる。
しかし⬛︎⬛︎⬛︎の身に起きた異変はそれだけではなかった。
ボコォ…
「⬛︎⬛︎⬛︎……」
腹と思しき⬛︎⬛︎⬛︎の部分はぽっこりと膨れており、しかもその膨らみは⬛︎⬛︎⬛︎自身のものとは別にドクンドクンドクンドクンと中で脈打っていたのだ。まさに別の何かがそこにいる、自身の中に自身とは別に何かがいる。
しかも腹の中にいる何かは体の再生に伴って少しずつ大きくなって行き、その体を内側から圧していた。しかも抑えようと思ってもそれ以上の力で何かは反発し、
ギチギチギチ…
「…⬛︎⬛︎⬛︎……」
更に腹の中を圧し続ける。その力強さと自身の腹を圧迫し続ける苦しさに⬛︎⬛︎⬛︎はゴブッと口から体液を吹き、ジンジンギュウギュウとと来る腹の痛みに耐えながら、異形の体と腕で膨らみを大事そうに抱える。
よく分からないが、この腹の膨らみは、膨らみの中にあるものは大切にしなくてはならない。再生している自分の体と同じくらい、もしくはそれ以上に大事にしなくてはならないと。
思考しているわけではない、深く考えているわけではない。
ただそう思うようになっただけ。それだけを考えるようになっただけ。
しかしそのように考えている時点で、⬛︎⬛︎⬛︎はもう以前の厄災そのものと言うだけではなくなっていた。
混沌なるこの世界で、⬛︎⬛︎⬛︎だけの世界で、⬛︎⬛︎⬛︎は変わりつつあったのだ。
次回の投稿もお楽しみに
評価、ブクマ、感想、レビュー、待ってますッ!