ごぼうの花
お待たせしました
「……」
(…淫夢巫の放っておくわけにも行かない…だけど….)
行くべきか否か、あの子のことを追うかそれともこの子達の側に留まるべきか、魔快黎様の一部は頭を掻き毟りながら葛藤する。今自分がこの場を離れてしまえば魔快黎様の子達を危険に晒すことになるかもしれない。だが、かと言ってこの場に留まり続ければ、来訪者の元へと行ってしまった魔快黎様の子を見捨てることになってしまう。
「…」
(どうする…魔快黎か片割れがすぐに戻って来る保証は何処にもない…)
もし今すぐに魔快黎様か、遠方へ行っている方の片割れが帰って来てくれるのならば淫夢巫の元へ駆けて行けるのだが、それも期待出来ない。故にこの状況は自分だけで解決せねばならないとその一部は悩み続ける。
――
そしてその悩みの種となっている魔快黎様の子こと、淫夢巫はと言うと、
「わたしだってやれる…わたしはつよい…もうよわくない…!」
自分の手を何度も開いては閉じ、手のひらを眺めていた。もう自分は泣き虫なんかじゃあない、自分はもう泣いているだけの存在じゃあない。
「らてすかだってやっつけられるんだ……。もう…わたしはまけない……!」
殴られてばかりの自分はもういない。あれだけの威力を持った熱線を放てる自分はもう何者にも負けはしない。そう淫夢巫は自信に溢れ、自身の力に自惚れていた。
それから間も無く淫夢巫の前には来訪者が現れ、全身からメラメラと殺気と憎悪を滲み出しながら歩いて来る。淫夢巫は初めて感じる激情にごくりと生唾を飲み込み、冷や汗を垂らしてしまうも、
(だいじょうぶ、わたしはつよい…わたしはつよい…!)
欄照華の頭を吹き飛ばした熱線を放てる自分は強いと自分自身に言い聞かせながら縮こまりそうになる心を懸命に鼓舞した。
トッ…
「何だ貴様■?」
「わたしは…りんぷッ。あなたがわたしたちのてきなら、わたしがやっつけるッ」
(なんか…しってる…。でも…まけないっ)
対峙する両者。だが互いの体格差はあまりにも大きく、まだまだ幼い子である淫夢巫が戦いを挑むには無謀とも呼べる相手だ。けれども幼さ故の怖いもの知らずとでも言うのか、まだ相手の力量を測って把握する能力が身に付いていないからか、淫夢巫は少し萎縮しながらも、来訪者の前に立ちはだかる。
「ふん、貴様なんぞに興味■ない。■の相手は⬛︎⬛︎⬛︎だ。邪魔をするな」
だが幸運にも来訪者は小さな子の言葉など戯言だと最初っから相手にするようなことはせず、そう言ってすぐ隣を通って去ろうとした。来訪者の敵はあくまでも⬛︎⬛︎⬛︎であってこんな小さな子ではない。今此処でこんな子を痛ぶったところで時間の無駄だと。
「あなたも……ママを…きずつけるの…?」
するとまともに取り合ってくれなかった淫夢巫は横を素通りして行く来訪者に対してそう問い掛けてしまう。決して⬛︎⬛︎⬛︎と言う存在が自分自身のお母さんである魔快黎様であると来訪者が言ったわけじゃあない。
けれども、この者と似たような雰囲気をした者を淫夢巫は会ったことがある気がしてならないのだ。
一度戦っているお母さんのところへ寂しいからと転移してしまった淫夢巫だからこそ、感覚的に分かってしまうのだろう。
似たような者が魔快黎様に敵意と憎悪を向けていたからこそ、この者のから倒しに行く相手と言うは、⬛︎⬛︎⬛︎と言う存在は自分自身のお母さんではないのかと思えてしまう。
明確な根拠などない、これと言った自信を持って言える理由があるわけでもないが。
「……? ママ…だと?」
すると次の瞬間、来訪者はピタリと歩みを止め、
「まさか…奴に■■がいたのか…? 厄災の……⬛︎⬛︎⬛︎の子……」
ぐるりと淫夢巫の方を振り向く。
その表情は先程までのものとは明らかに違い、何かを徹底的に見定め、本質を見抜こうとしていた。この小さな子が、こんな小さな子が、まさな厄災の、⬛︎⬛︎⬛︎の子であるとでも言うのかと。
そして、
ギッ…■!!
「ひっ…」
明確な憎悪と敵意、そして殺意を込めた目で淫夢巫のことを睨み付けた。その眼差しと、初めて向けられる意思に淫夢巫は思わず口から小さな悲鳴を漏らしてしまう。
が、
「やっぱり……ママのてきなら……わたしのてき…!」
淫夢巫は、この者が自分達のお母さんの敵となるのならば投げるわけにはいかないと必死に自分の心を奮い立たせる。そして、
「やっつけてやるっ!!」
ウッ!
欄照華にやった時と同様、自分の手のひらをその来訪者に向けた。
「……あ? 何だ?」
「……え」
しかし、何も起こらない。あの時と同じようにやっている筈なのに、突き出された淫夢巫の手のひらからは熱線は疎か、微風1つさえ巻き起こらない。そんな状況に来訪者も淫夢巫もキョトンとしてしまう。けれども、
「何をしようとしていたのかは知らん■、貴様が⬛︎⬛︎⬛︎の子であるのならば、殺す必要があるな。世界のためにも、な」
来訪者はすぐさまこの淫夢巫と言う子が厄災そのものである⬛︎⬛︎⬛︎の子であるのならば殺してやるかと言った。
「……っ!」
自分に向けられたその言葉の意味を淫夢巫は全て理解出来たわけじゃあない。だが感じる敵意と殺意から、欄照華のようにこの者は自分のことを痛ぶろうとしていると、淫夢巫は悟る。
「うぁあ!」
バッ!
瞬間、淫夢巫は恐怖しながらも懸命に右手を突き出し、熱線を放とうとする。だが変わらず手のひらからは何も出ない。
「なんでっ!? なんでよっ!」
バッ! ババッ!
それでも淫夢巫は無茶苦茶に両手を振るって攻撃を繰り出そうとするが何も出ず、
「遊んでいる■はない。⬛︎⬛︎⬛︎の子ならば殺しておこう」
来訪者は殺意を向けながら迫って来る。
殴る、蹴る、痛ぶる、酷い目に合わせる、この者は自分をそうして来ると悟った淫夢巫は恐ろしさと自分自身の死を予感してパニックに陥ってしまいながら、更に滅茶苦茶に手を振り回す。
「苦しませる■はない。一瞬で楽にしてやるからな」
けれども小さな子が相手だろうと容赦する気は全くないと言わんばかりの歩みで、来訪者は接近して来る。そして歪ながらも無数の鋭い突起が生えた腕を振り翳し、それで叩き潰そうと振り被った。
「うぁああ!」
ヴッッ!!
「ッ!?」
その時、恐怖が心の臨界点を突破した淫夢巫の手からついに光波熱線が放たれる。どうやら精神が限界を迎える、もしくは感情が爆発した時、その光波熱線は放たれるようだ。
ジュウウ…
「やはり⬛︎⬛︎⬛︎のガキ…。放っておいたら厄災を呼ぶか…その■は…」
だがせっかく放った熱線はあっさりと避けられてしまい、ほんのりと辺りの空気を焦がしてジュウと音を立てる程度であった。
その光景にいよいよ淫夢巫はもうお終いだと絶望し、ぺちゃんと腰を抜かしてヘタレ込んでしまう。
「念のため…結局■うするつもりだったしな」
来訪者は、すでに戦意もなく完全に怯え切ってしまっている淫夢巫に完全なるトドメを刺すべく、
「さてと、■るか」
「にしても⬛︎⬛︎⬛︎のガキ、こんな小さいのに厄災の力を持っ■いるわけか」
「どっちみち⬛︎⬛︎⬛︎と繋がりがあるのなら■す必要はあるだろう」
来訪者は他にも仲間である異形なる存在をこの場に集めた。皆違った歪さを併せ持っているが、混沌とした存在であることと⬛︎⬛︎⬛︎に対して明確な敵意を持っているのは変わらず、そしてその子である淫夢巫にもその殺意を向けていた。
次の瞬間、
「じゃあ、■ね」
「悪く思う■。全ては貴様の■さんが悪いんだからな」
「一撃で■にしてやるよ」
異形達は恐怖で動けない淫夢巫に襲い掛かる。
ガギャ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ッ!!!
「……」
一切の躊躇も容赦もない異形達の攻撃の軌道は的確に淫夢巫の体を捉えており、
ギギ⬛︎⬛︎…!!
「……」
「ぬ…■!?」
「何…」
「…!」
そして、
「……」
(もうちょっと早く来るべきだったな、俺の馬鹿)
「あ…! おねえちゃん!」
攻撃が届くよりも早く、目に杭のようなものが打ち込まれている魔快黎様の一部が淫夢巫の盾となり、それを止めていた。
次回の投稿もお楽しみに
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