恐れ
お待たせしました
パキッ……パキッ…
「…ほ、ほんとにだいじょーぶ?」
「大丈夫大丈夫」
(焦るな焦るな。出来るようにならなきゃいけないと焦ることが1番不味い。落ち着くんだ…落ち着く…落ち着く…)
水浘愛を抱き抱え、頭を撫でてやりながら、魔快黎様は懸命に精神を落ち着かせようと努めていた。最初は決して上手くいかない、今まで出来ていなかったことが我が子達を前にすればすぐに出来るようになるわけではない。
だからこそ焦ってはならない、落ち着いて制御に徹さなくてはならないと魔快黎様は自分自身の心に言い聞かせる。
けれども心で完全に制御出来ていない御身体はパキパキと音を立てて割れ出し、じわじわと変身が解け掛けていた。
そんなお母さんの姿を目の前にしている水浘愛はぐにゅうんと首を傾げながら大丈夫? と問い掛ける。魔快黎様はその言葉に対して大丈夫だと笑顔で返すが、しかしその顔も徐々に歪に割れて行く。
「ねぇママ。めみあはほんとーのママでもだいじょーぶだよ。どんなすがたでもママはママだもん」
すると水浘愛はお母さんのことを気遣ってか、それとも本心からかその言葉を送ると、ぺとりと自身の右手を伸ばして魔快黎様の左頬に触れる。口は耳まで裂け、牙が歪に生え揃い、無数の目が覗いている左の顔を。甘えて来るその手の感触は頬を伝ってしかと魔快黎様に届き、
「そうか…そうだな」
「うんっ!」
焦ってはならないと思っていた心にほんのりと和みを与えた。
つんつんっ
「んおっと」
「こなたのこともだいてほしい」
「おう、分かった」
そこへ欄照華もとことこと歩いて来ると、魔快黎様の脚を指で突っつきながら抱っこしてと甘えて来る。少し前まではこのように直接言って来るようなことはなかったのに、態度では示しても言葉に出して甘えて来るようなことはしなかったのに。
けれども以前まではこうして言葉に出して甘えて来てくれたり、隠すことなく甘えて来るようなことはして来なかったため、そんな我が子の様子に魔快黎様は成長を感じつつ、その子を優しく抱き抱えた。同時にパキパキ音を立てて全身の変身が解け始め少しずつ魔快⬛︎様の姿へとなってしまう。やはりまだまだ心が御身体を制御出来ていないが故、こうなってしまうのは仕方のないことなのだが。
「ごめんな。ママちょっとね、少⬛︎だけ頑張ってるとこでさ。元の姿に戻りやすくなってるんだ」
「へいきっ、ママはこなたの…たいせつなママだから」
しかし欄照華は魔快⬛︎様を前にしても怖がったりせず、自分のことを抱き締めてくれるお母さんの腕に身を委ねる。自分はお母さんが本来の姿となろうが、何かを成し遂げようと頑張ろうが関係ない。自分にとってお母さんは大切な存在であり、それはどんな姿となっても変わらないと告げながら。
「ありがと⬛︎」
ぎゅうっ
「らてすかてゃん、いうじゃあんっ」
「ほっとけ」
そんな言葉を掛けてくれる我が子のことを魔快⬛︎様はぎゅうと優しく、されど強く抱き締めた。本来の姿に戻り掛けているが故に、腕の形自体は禍々しくも巨大化しているため、水浘愛と欄照華のことを纏めて抱き抱えるくらいわけはないのだ。それに変身が多少解けても我が子達を抱いていると言う感触は、この子達が持っている温かさはしかと伝わって来る。
魔快⬛︎様はその温かさを感じながら、
(必ず…いつか必ず制御してみせるから。ママ、頑張るからな)
この体を、自身の心で制御しなくてはならない体を、必ずや自由自在に動かせるようになって見せると誓った。そして、
(……俺は…何よりも俺が…俺自身を怖がっていたのか…。この子達を傷付けてしまう…この子達に怖がられ、嫌われてしまうことを…。その心が、俺が俺自身を恐れる心があったから、俺は体を制御出来なかったのかもしれない…)
我が子達は自分のことを愛してくれる、魔快黎様の姿でなくなっても我が子達は自分をお母さんだと見てくれる、こうして安心しながら身を委ねてくれる。
魔快⬛︎様はその状況に、本当の自分を最も恐れていたのは自分自身であったのだと静かに思った。頭の中に焼き付いて未だに離れないのだ、あの泣き声が。自分の姿が怖いと泣き喚く幼き我が子の姿が。
それ故に自分の本当の姿を、⬛︎⬛︎⬛︎の体を我が子達の前で晒すことが怖くなった。変身を解き、その姿に戻ることを恐れていたのだ。また泣かれて、怖がられることを、それによって嫌われてしまうことを、魔快黎様の心は嫌っていた。
だから本来の姿を、本来の自分自身を、この御身体を、魔快黎様の心は無意識のうちに避けていたのかもしれない。そして無意識に避けてしまっていたからこそ、魔快黎様の心は⬛︎⬛︎⬛︎の御身体を制御出来なかったのかもしれない。
(俺自身を恐れない、この子達が俺のことを恐れないように…。それが大切なのかもな)
心と御身体が一体になるには、心が御身体を恐れてはならない。そう悟った魔快黎様の心は自然と落ち着き、
「あっ、ママわらった」
「…!」
「そっちのえがおのほうが、こなたはすき」
気が付けば顔にはほんのりと笑顔が溢れていた。我が子を心配させまいと取り繕った笑顔ではなく、安心させようと懸命に作った笑顔ではなく、あくまでも自然に溢れた笑顔が。それも我が子ではなく自分が安堵したから表情に現れたものである。
するとその笑顔に水浘愛も欄照華も笑いながらそうやって笑う方が好きだと言い、そこで初めて魔快⬛︎様は自分自身が笑っていたことに気が付く。そして、
「そっ…か。なら、なるべく見せてあげないとな」
我が子達にその笑顔を向けた。この笑顔を我が子達が求めているのならば、この笑顔で我が子達が笑顔になってくれるのなら幾らでも向けてあげようと。例えその笑顔が魔快⬛︎様と言う禍々しい者の顔であったとしても、恐れずに。
ゾッ…■
「ッ!」
が、次の瞬間、魔黎⬛︎様は自身の世界に何者かの来訪を感じ取ると、我が子達をそっと優しく地面に置き、
「此処にいなさい。すぐに戻って来るから」
そう言ってから感じ取った存在の者へと瞬間移動する。しかも感じ取れるその存在からは敵意が明確に漏れており、言わずもがな他の者達同様自分を追って来たのだと悟れた。
まさに出没自在とはこのことか、魔快⬛︎様の都合などお構いなしに敵意を持った者は現れる。されどどれ程の憎悪を抱き、向けるだけの理由があったとしても大切な我が子達も手に掛けさせるわけにはいかない。だからこそ戦う、危害を加えぬようこの世界から排除する。
――
グジュンッ
「何用だ、こ⬛︎世界に」
ギロッ
「やはりそうだったか、貴様■せいで■■の世界は…。そんな貴様がまさかこんなところでのうのうと■きていたとはな」
「質問には答えないか。なら実力■阻止させて貰う」
(俺の体よ、俺とこいつをこの世界の遥か彼方に飛ばせ)
フッ
そして魔快⬛︎様は自分ごと敵意に溢れた来訪者は共にこの世界の端とも言える場所まで瞬間移動するようまだ完全に制御出来ていない体に頼み、飛ばして貰う。
「ふん、わざわざこんなところまで■を飛ばしたかと思えば、貴様までついて来るとはな。何考えてんのか分かんねぇなほんと」
「何とでも言え。こっちの方が都合⬛︎いい」
その後、転移した魔快⬛︎様は改めて来訪者と対峙すると、
グギ⬛︎……!!!!
「思いっきり⬛︎れるからな」
拳を硬く握りながら戦意を露わにする。
次回の投稿もお楽しみに
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