本音と心 意思と体
お待たせしました
(こなたの…みかた……)
突然自身の側に現れた、自分の味方を自称する者。しかし自身のお母さんや他の子達以外に自身を気に掛ける存在など知らない欄照華は、一体この者は何なんだと訝しんでいる。
けれども、だからと言って警戒心を最大限に高め、この場から去ろうと言う気にもならなかった。
この者からは自身のお母さんに似た雰囲気がする、何故だか分からないが妙な安心感があるからだ。そのためか、欄照華は素性など全く知らない者が側にいても俯き、顔を埋めたまま座り込んでいた。
その者も酷く落ち込み、誰とも話したくないと塞ぎ込む欄照華の心や想いを汲み取ってか、放っておいてと言う願いに応え、側に座りながらも向こうから話し掛けるようなことはしない。
(ほんとうに…みかた…なのか…な……)
初めてお母さんに叱られたことで不安定になっていた胸の中は時の経過が癒してくれたため、その時が流れて行くにつれて欄照華は少しずつ冷静さを取り戻しつつあった。すると冷えた頭は自身の側にいる者の正体について考え始める。思えば自分はこの者の姿や顔さえ見ていない。どんな顔をしているのかさえ知らない。
ただお母さんに似た雰囲気の者が突然自身の側に現れて、誰かと尋ねれば自身の味方だと言う。
それ以上を知らない相手に対して冷静になれた欄照華は改めてその者に対して疑問を抱くと、
「だれ……なの……?」
徐に埋めていた顔を上げ、その者がる方へと振り向きながら貴方は誰だと問い掛ける。
フォロロ…
「言ったでしょ。君の味方」
「……さっきもそういった…」
すると欄照華の目の前にいたのは、目を持たない顔に禍々しく裂けた口から不揃いな牙を覗かせる異形に歪んだ体をした者であった。しかしすでにお母さんである魔快黎様の本来の姿で慣れているためか、その者の姿を見ても欄照華は畏怖したりはしない。
ギギギギギギギギ…
「…なんなの…こなたのみかただっていったけど、こなたはなんじのことなんかしらない」
歪な音を立てて体を捻り、首を伸ばしながら欄照華の顔を覗き込む味方を自称する者。欄照華はその者に対してきっぱりと自分は貴方のことなんか知らない、自分の味方だと言われても分からないと言う。
「そうかぁ。でも俺は君のことを知ってるよ」
「なんで」
しかしその者は欄照華のことを知っていると返し、
「君のお母さんのこともよく知ってるから、かな。まぁいいや、理解するのは難しいかもしれないけど話そう」
「…?」
ギギギ
「俺は君のお母さんの一部だからだよ」
自身の正体は魔快黎様の一部だと笑みを浮かべるように口角を上げながら告げた。
「……どういうこと…? わけわかんない」
「分からないのも無理はない。俺のことや魔快黎の体を理解するのは難しいだろうからな。けどはっきり言えるのは、俺は魔快黎の一部だから魔快黎が君達を大切にしようと言う想いを知ってるってことかな。その想いは君もよく知ってるだろ?」
「……」
そして子達のことを魔快黎様が大切に思っていることは一部である自分はもちろん、子である欄照華もよく知っている筈だとその者は言う。
「大切にしている我が子だからこそ、違うことは違うと叱ってやらなきゃいけないと考えてるんだよ。君達の親は自分しかいないと魔快黎は思ってるわけだし、実際にそうだからな」
「…でも…でも……こなたは…まちがったこといってない……」
「他の子のことを殴ろうとしたことが間違ってるってことだ。それに君があの子に対して抱いたものは、本当に間違ったことを正してやろうと言う想いだけだったのか」
「……」
魔快黎様の一部であるが故に一連の流れを知っているその者は、欄照華の胸の内を見透かしているかのように語り続けた。あの時の欄照華の行動は本当に淫夢巫のことを正すためだけのものだったのか、間違ったことを言わずに間違った行動を取っていたのだろうと。
隠していた自身の想いを暴かれ、それを言葉として告げられることに打ちのめされてしまった欄照華は、黙ったまま再び俯いてしまう。問い掛けるように魔快黎様の一部は話しているものの、もう欄照華の真意には気が付いているような口調であるからだ。
「俺は君の味方だけど、君の親じゃあない。だから親として何か言うことは出来ないが、アドバイス程度ならしてあげられる。一度淫夢巫と話し合ってみたらどうだ。まともに話したこと、ないんだろ? お互いにな」
口ごもり、話そうとしない欄照華に対して魔快黎様の一部はそのように語り掛けてみる。黙りながら拳で殴って伝えるのではなく、話し合いで伝えてみたらどうかと。
「……なんでこなたが……あんなやつなんかと!」
「嫌なのか」
「ぜったいにいやだ…! ママをとったあいつとなんて……。こなたのこと……あいつがいるから…あいつのせいで…こなたは…こなたは……ッ」
しかしその持ちかけに欄照華は強く拒絶し、絶対に話したくなんてないと返す。自分にとって大切なお母さんを淫夢巫は取ったのだと、自分のことを大切にして貰いたいのに、お母さんが大切にしているのはあの子だと、震える声で欄照華はそう言った。
「だからこそ、じゃあないのか。まぁ、本音を話さないまま、通じようとしないまま終わらせることが君の願いならば、止めることはしないけど」
「ママのことしってるなら…こなたのみかたなら……ママにいってよ! もうりんぷにかかわるなって! こなたのことをみてって! みかたなんでしょ!?」
「無理だ。俺は君の味方だが、君の言うことを何でも聞く存在じゃあない。それこそ君のお母さんや淫夢巫と話し合うべきことじゃあないのか。まだ一度もその想いを淫夢巫や魔快黎に伝えていないんだろ?」
けれどもその願いを魔快黎様の一部は聞き入れられないときっぱり断る。自分は味方であるがイェスマンじゃあない、どんな願いも聞き入れる存在じゃあない、それに自身の本音を欄照華が当事者である魔快黎様や淫夢巫に伝えないでどうするのかと強めの口調で言いながら。
「もういいよっ! こなたのみかたっていったくせに!」
だっ…!
すると欄照華は声を荒らげながら立ち上がると、腹いせに地面を1発蹴り飛ばした後にダッと逃げるように去って行ってしまった。
「やれやれ」
そんな欄照華のことを魔快黎様の一部は牙と牙の隙間を爪で弄りながらやれやれと伸ばしていた首を振る。自分なりに説得やアドバイスを試みたつもりだったが、まだまだ心身共に未熟な子を納得させるのは難しいとため息をついて。もちろん魔快黎様の一部であるが故、魔快黎様自身や子達とこの件について首を突っ込みながら話すことも出来るのだろう。
しかしその一部は敢えてそうしなかった。魔快黎様とその子達の問題は、自身の干渉なしに解決すべきことだとその一部は考えているからだ。
元々魔快黎様の一部がこうしてこの世界に足を付け、その子と接触を果たしたのは別の目的によるもの。
ストッ
「どう? 魔快黎と子達の様子は」
「んー、心を持ってからはだいぶ変わっちまったよなぁ。んでもその影響で俺達にも自我が芽生えたんだが」
「俺は魔快黎の想いによって側で子の内の1つを抱き抱えたことあんだが、まあ制御出来てないんだよなぁ。魔快黎は自分の体を。その影響で体に呼ばれて来たんだろ、こっちに」
「元々心なんて持たない存在だ。心が頑張ってるとは言え、もっと体を使えるようになって貰わないと」
それは心を持った魔快黎様と言う存在が生まれたことで、魔快黎様が自身の体を制御出来てないと言う弊害を解消するためである。制御出来ない心を体は見兼ねてか、この場に自我を持ち、自身の体についてよく知っている一部をこうしてこの世界に呼び寄せたのだ。
本来魔快黎様は全世界の厄災そのものであり、存在するだけで世界に厄災と混沌を振り撒く。その体を心が制御出来なければ、厄災以上に恐ろしいことが全世界に起こり得る可能性がある。
「けど、あの子の様子を見る限り、問題は魔快黎だけじゃあなさそうだな。他の子もきっと問題を抱えてるだろうし」
「仕方ない、手を貸してやるか」
こうして魔快黎様の体の一部は、厄災と混沌をもたらす体を制御出来ない心を何とかすべく動き出す。
次回の投稿もお楽しみに
評価、ブクマ、感想、レビュー、待ってますッ!




