親としてのあるべき姿は
お待たせしました
グギュッ…
「……」
自身達の世界に現れし者達を退けた魔快黎様。されど敵を倒して安堵を得たであろう魔快黎様の表情は暗く、自身の手を強く握りながら俯いていた。
いち早く我が子達の元へ戻らなければならないのに、こんなところで立ち止まっているわけには行かないのに。
けれども立ち止まってしまう。枷でも付いているかの如く脚が重たく、動かすことが億劫であった。
その理由は分かっている。あの子達に会いに行くのが怖いからだ。
今の自分が我が子達と会うことで、あの子達のことを傷付けてしまわないかと、魔快黎様は恐れている。勝手に動くこの御身体、無意識の内に力を振るうこの肉体、そして自身の意思で制御出来ない能力。
それを目の当たりにしてしまった、自身が自分自身をコントロール出来ないことでもたらされるものを見てしまった。
「……」
(くそっ)
もし全く同じことがあの子達の身にも起きてしまうと思うと、胸がギリギリと痛む。この手を持ってしても不安を異世界へと消し去ることは出来なかった。
ブゥウ……
「でも、行かなくては」
けれども自分はあの子達の元へ帰らなくてはならない。帰ると約束した我が子達のところへ戻らなくてはならない。
そう決意した魔快黎様は力強く深呼吸して牙の隙間から息を不安ごと吐き出すと、動かす気になれない脚に代わり、自身の能力によって我が子達の元へと向かい始める。
全ての不安や恐れを取り除けたわけではないが、それでも我が子達を不安にさせてはならないと言う想いで強引に押し殺して。
あの子達の親は自分なのだ。自分しかいないのだ。
魔快黎様は痛む胸にそう言い聞かせ、我が子の元へと瞬間移動によって転移する。
ストトッ
「ごめん、遅くなったかな」
足音を立てて我が子のすぐ側に降り立つ魔快黎様。お母さんが側にいないことでどれだけ怖い想いをさせてしまったことか、それがどんな悪い影響を与えてしまうか。本当ならばもっと早く戻って来なくてはいけなかったと謝りつつ、魔快黎様は帰って来る。
するとその帰還をいち早く察知し、
たたたたっ
ぎゅっ
「っと」
「……!」
淫夢巫が駆け寄り、魔快黎様の脚にしがみ付く。起きたばっかりなのにお母さんが自身の側からいなくやってしまうと言う状況は淫夢巫にとって耐え難いことだったからだ。顔を脚に押し付け、もう絶対に離さないと言わんばかりにしがみ付く淫夢巫の姿に魔快黎様はそんなに不安にさせてしまっていたのかと思いつつ、優しく右手でその子の頭を撫でてやる。
すると、
ぐいぐい
「ママっ、りんぷのやつ、またいいつけをやぶっておかあさんのとこにいこうとしてたんだよっ」
魔快黎様のもう片方の脚をぐいぐい引っ張りながら、欄照華はそう告げた。
「らてすかてゃん、それはべつにいいじゃん。りんぷてゃんはあまえんぼなんだからさ。だれかみたいに」
「めみあはだまって。こなたはママとはなしてるの」
「よたちがとめたからよいじゃあないか。まえみたくママのとこにいくこともなかったのだし。それにりんぷもまよっておったぞ」
「もんだいはそうじゃあないっ。りんぷがすこしでもいいつけをやぶろうとしたことがもんだいなんだっ」
すると水浘愛と漢妖歌が欄照華のことを止めつつ、そんな問題視する必要もないだろうと宥めるように言う。しかし欄照華はその静止を手で払い除けながら振り切ると、お母さんの方を振り向いて、
「ママッ、りんぷにいってやってよ。いいつけをまもれってっ!」
此処で待っていろとの言いつけを破って魔快黎様の元へと向かおうとした淫夢巫に一言叱ってやってよと言う。淫夢巫は欄照華から荒く吐かれる言葉にビクッと肩を竦めながらも、すすすっとしがみ付いたまま脚の後ろに隠れた。
「でも、いかなかったもん。めみあやかんようといっしょに…ちゃんととまったもん…」
そして漢妖歌や水浘愛が言う通り、自分はお母さんの元へ行かなかった、怖くて堪らなかったけれどちゃんと言いつけを守って、他の子達と一緒に踏み留まったと、ぽつぽつ小さな声で言う。
「そうだったのか。淫夢巫は偉いな。ちゃんと我慢して、留まれたんだね」
「うん…」
「俺も悪かったよ、不安を感じる前に帰って来れなくて」
魔快黎様はそんな淫夢巫のことを撫でながら、行きたくても留まれた、破ってしまいそうになりながらも堪えられたのは偉いぞと褒めた。
「なんで!? りんぷはやぶりかけたんだよ!? それともこなたがうそついてるって思ってるの!?」
だがそんなお母さんの態度に欄照華は怒りがこもった声で、何故言いつけを破り掛けた淫夢巫のことを叱るのではなく褒めるのだと問い掛ける。まさかお母さんは自分のことを信じてはいないのか、自分が言ったことは嘘だと思っているんじゃあないかと不安がりながら。
「別に欄照華が嘘を付いているなんて思ってはいないさ。見れば分かるよ、正直に話してるってことくらい」
けれども魔快黎様は軽く首を横に振りながら、疑っているわけじゃあない、欄照華の言っていることが嘘だと思っているわけじゃあないと答える。そして欄照華の目や言葉から、ちゃんと正直に話していることも分かっているとも返した。
「じゃあなんでよ!?」
「欄照華から見れば、淫夢巫は少しでも俺の言いつけを破ろうとした、だから許せないって思ってるんだろう? でも淫夢巫はその後ちゃんと堪えて、漢妖歌や水浘愛と待った。破ろうとした言いつけをちゃんと守ったんだ。もちろんそこに欄照華もいたんだろう? それを知っている筈だ」
「…でも!」
「少し厳しいんじゃあないか、欄照華。真面目なところは欄照華のいいところだし、ママの好きなところだけど、それを押し付け過ぎるのは駄目だぞ。欄照華にはもう出来ることでも、淫夢巫や水浘愛、漢妖歌にはまだ出来ないことだってあるんだ。聞き分けなさい」
魔快黎様はどうしてどうしてと困惑しながらも目元を真っ赤にしながら震える欄照華になるべく優しい口調でそう諭す。
最終的には、淫夢巫は言いつけを破ることはしなかった、そのことは一緒にいた欄照華も知っている筈のことだと。それに一度言いつけを破り掛けただけでそんなに厳しく怒声を浴びせる必要もないだろうと。欄照華に出来て他の子達には出来ないことがあることを知りなさいと。
丁寧に、一言一句我が子の心に刻み込むように、魔快黎様はそう言い聞かせた。
「なんで…なんでなの…! どうしてしかってやらないの!! どうしておこってくれないの!!」
「叱る必要も起こる必要もないからだ。欄照華、そんなに淫夢巫のことを責め立てるのはやめなさい」
「こなたはまちがってないのに!!」
「言っていることはな。けれどもその言葉を、その考えを淫夢巫に強制しようとするのは駄目なことだ」
しかしお母さんの言葉に欄照華は拳を握り締めながら、何故、何で、自分は間違ったことなど何1つ言ってないのにどうしてと、正しいのは自分で間違ってるのは淫夢巫の方なのにと訴え続ける。そんな欄照華の姿とえも言えない圧に傍らで見ていた水浘愛も漢妖歌もオロオロとすることしか出来ないでいた。淫夢巫に至っては完全に震え上がり、脚にしがみ付きながらかたかた震えてしまっている。
けれども魔快黎様だけは動じないと言った態度で、淡々と駄目なことを説明し続けた。欄照華ならばきっと分かってくれる、我が子ならばきっと自分の言うことを理解してくれると信じて。
ギリギリギリギリ……!
「…うるさい…うるさいうるさい……! もうなにもききたくない!」
欄照華はその言葉に対して頭をぶんぶん横に振りながら、もう何も聞きたくないと叫ぶ。これ以上聞いてしまったら理解してしまう、間違ってないと思っていたことが間違っていると分かってしまう、そうしたら自分自身が崩壊してしまうと恐怖してしまいながら。
そして、
ジロッ
「…!」
「ッ!」
目と目が合った、淫夢巫との目が合ったその時、
ギリィッ!
「りんぷ……りんぷのせいだ……! りんぷがぜんぶわるいんだぁ!!」
欄照華は滅茶苦茶に叫び、怒声を発しながらお母さんの脚の後ろに隠れる淫夢巫に殴り掛かろうとした。
次の瞬間、
「いい加減にしなさいッ!!」
ビクッ!!
「ッ…」
魔快黎様のそれ以上の怒声が飛ぶ。
その声に欄照華はもちろんのこと、淫夢巫も漢妖歌も水浘愛も止まってしまう。あんなに燃え上がっていた欄照華の怒りはその一声によって一瞬で吹き消されてしまい、表情は呆気に取られたかのように目を丸くしている。
されど魔快黎様は、魔快黎様だけは表情を崩さず、我が子のことを見つめ続けていた。
我が子の前で初めて見せる、怒りの表情で。
次回の投稿もお楽しみに
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