親として伝えるべきこと
お待たせしました
再び眠りに就いた欄照華のことを他の子達の元へ送り届け、その側に優しく置いてやりながらも
「……」
(見てた…のか。恐らく指の隙間から…)
先程の戦いの中に欄照華がいたことに一抹の不安を魔快黎様は覚えていた。決して見られたからと言って欄照華の身に何かが起きると言うわけじゃあない、このことによって自身と欄照華との関係に亀裂が生じるわけじゃあない。
ただほんの少しだけ、僅かにだけ、不安なのだ。
本来の自分、本当の姿となった時の自分の側に我が子が来て、戦いの余波に巻き込まれ掛けた。そして自身の力に対して興味を持っているかのような反応を見せた。
即ちそれは欄照華が自身と同じように、あのような戦いの中に身を投じてしまうかもしれない。力を持って他を撃破する、それを持って相手を制することを、欄照華がするようになってしまうかもしれないと言うことだ。
いや、欄照華だけじゃあない。
漢妖歌も水浘愛も淫夢巫も自身が戦う姿を見れば、力で相手を制そうと戦いに身を投じようと思ってしまえば、実際に行動に移してしまうかもしれないのだ。
けれども自分と違ってあの子達は全然力などない。自分のような能力もない。もし自分が相対したような敵と、自分自身に強大な憎悪や殺意を抱いている者とあの子達が戦うようなことになってしまえば、結果はどうなるか。
「……」
ギチッ…!
そんなこと想像したくもない、考えたくもないと魔快黎様は拳を握り締めた。
この子達を守ると言うことは、戦いから身を遠ざけることでもある。だからもし次自身に敵意や殺意を抱いている者が現れたら絶対に我が子には近づけさせない、そして我が子達も同じように近づけさせないと魔快黎様は決意を固める。
そうして時は過ぎ、眠っていた子達は目を覚ます。魔快黎様は寝惚け眼の我が子達におはようと言い、笑顔で迎えた。
「ねぇ、ママ。あいつはいったいなんなの?」
「っ!」
「こなたたちのほかにもいるの? なんであいつはママのところにきたの?」
けれどもこの時だけはいつもと違い、目覚めるや開口一番欄照華は先のことについて魔快黎様に尋ねて来た。自分のことを手の中に収めながらお母さんが戦っていたのは一体何者だったのか、此処にいるのは自分達とお母さんだけじゃあないのか、何故あの者はお母さんに対して戦いを挑んでいたのか、欄照華は淡々とした口調で問い掛けた。
「もしかして、こなたたちがねているときは、ずっとあいつといたの? こなたをほうっておいて…ママは…。ママは…こなたの…」
「そんなことはないよ」
しかし次第にその表情はむすっと不満そうにしているものとなって行き、声はふるふると震え始める。そこには怒りの他にも悲しさや寂しさがあり、それを物語るかの如く欄照華の目元はじんわりと赤くなっていた。
魔快黎様はそんな欄照華のことを慰めるかのような穏やかな声色で、そんなことは決してないと返す。
「あいつは欄照華には関係のない奴だ。もちろん水浘愛や漢妖歌、淫夢巫にも、そして俺にとっても大したことのない奴なんだ。だから何も心配することはない、気に留める必要もないんだよ、欄照華」
「……」
そして相対した者は自分にも欄照華にも、他の子達にも関係のない奴だと魔快黎様は説明した。けれども欄照華の反応は何とも言えぬと言った反応、お母さんのことは信じたいけれど、その言葉を全て信じられるかと問われれば『否』と言った感じである。
「もしかして…またあいつが…きたの? ママが…おっぱらってくれた…」
と、その時、
「ママ……」
「淫夢巫、だから何も心配することはないって」
オドオドと不安そうにしながら淫夢巫が間に入り、そう話しかけて来た。またと言うのはきっと、以前別の来訪者がこの世界に来た時、淫夢巫が寂しいからと魔快黎様の元へ来てしまった時のことを言っているのだろう。
あの時は欄照華と同じように淫夢巫の方から自身の側へと来てしまったため、守りながら戦わざるを得なかった。それも淫夢巫が恐れている本来の姿となりながら。
恐れながら不安げに話すのは、きっとその時の恐怖もあるのだろう。
「りんぷ、あのときかってにきえたのはそういうことだったのか。しんぱいさせやがって」
「…っ、だ、だって、ママが…」
「まっていろとママがいったんだぞ!」
「うぅ…」
すると淫夢巫の言葉に欄照華が真っ先に反応し、あの時淫夢巫だけ消えたのはそう言うことだったのかと睨み付けながら言った。本当ならばお母さんの帰りを皆で待たなければならないのに、淫夢巫だけ勝手に何処かへと行ったのだ、お母さんは自分達に待っていろと言っていたのにそれを破ってまで会いに行ったのかと、すごい剣幕で詰め寄りながら。
「やめなさいっ、欄照華」
「でも!」
「でもじゃあない。淫夢巫に寂しい想いをさせたのは俺なんだ」
「…ッ」
瞬間、魔快黎様は欄照華のことを右手で遮って止めながら、淫夢巫に寂しい想いをさせたのも、自身の側に来るようにしてしまったのも、自分がそうさせてしまったことだと告げる。
「しかし淫夢巫も言いつけを破ってまで俺の元に来るのは軽率だ。これは俺がどうこうじゃあなくて、淫夢巫が危ない目に遭うかもしれないからだぞ。他の子達も同じだ。言いつけを破ってママのところへ行こうとした結果、怪我でもしたらどうする」
「……ごめんなさい」
「俺がいない時は寂しいかもしれないけれど、来ちゃ駄目だと俺が言った時は我慢してくれ。必ずすぐ帰って来るから」
そして淫夢巫にも、いくら寂しいからと言って、言いつけを破って危険な自分のところに来ては駄目だと咎めた。どうして駄目なのか、それは十分な力を持っていない子達にとっては危険な状況かもしれないから、怪我をしてしまうかもしれないからと説明を加えて。
魔快黎様は漢妖歌や水浘愛にもそのことを告げる。その子達がそうしないために、怪我をする前にそれはいけないことだと分からせるために。
「わかった」
「うむ」
するとお母さんの言葉に水浘愛も漢妖歌も分かったと言い、淫夢巫もこくこくと小さく首を振って頷いた。
「……」
「欄照華」
「…わかってるよ。こなたもあぶないことはしないっ」
欄照華も言いたいことが言えなかったことに対してか少々不服そうな態度でいるものの、魔快黎様が言う危険なことはしないと口にする。
「はい、じゃあこの話はもうお終いっ」
魔快黎様は、これでもう我が子達が一時の寂しさによって危険な行為に走ることはないだろうが、自分も言った通りやはりなるべく側に居続けなくてはならないだろうし、見守り続けなくてはならないと気を緩めることはしない。そしてもうこれ以上この子達の間で拗れないよう、この話はお終いと言って終わらせる。
ビリッ
「……」
(何なんだこの間からずっと…。それに、1、2、3…5もいやがる)
が、そうもしていられない、またしてもこの世界に来訪者が現れ、目で見る限り全員穏やかな様子ではなかった。
まさかこんなにも早く次の来訪者が来るとは、それも1つだけじゃあなく、5もいるだなんて、と魔快黎様は思いつつ、
「ごめん、ちょっとだけ此処で待っていろ。すぐ戻る」
フッ
我が子達にそう言い、その者達の元へと瞬間移動する。
次回の投稿もお楽しみに
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