憤怒で厄災を 既知で未知を
お待たせしました
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
厄災そのものである者から溢れる怒気は何とも恐ろしく、目の当たりにしてしまう者全てを萎縮させてしまう程であった。しかもそれが放たれているのは全身からではなく、巨体の内のごく一部から。先程、我が子に見せていた優しき眼差しや、唐突なる自身の世界への来訪者と相対する目つきとは全く違う。
魔⬛︎⬛︎様は今、目の前の存在に激怒し、巨大な憎悪を向けているのだ。
今尚空いている風穴を自身の肉体に作られたことにではない。
その穴を作りし武器を愛する我が子に躊躇なく向けたことに対してである。
「⬛︎⬛︎」
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
「■……」
ギロリ! ッと恐ろしき形相で睨み付ける魔⬛︎⬛︎様。当然⬛︎⬛︎⬛︎の体も同等に敵意と怒気の篭った目でその者を囲むように睨み付けている。そんな恐ろしい状況に、今まで一切畏怖しなかったその者もとうとう恐怖を感じたのか、背筋を凍らせ、萎縮してしまう。先程まであんなに動けていた体はすでに止まって、いや恐怖を感じ過ぎる硬直しており、その場から一切動く気配はなかった。
「⬛︎⬛︎⬛︎」
そんな恐怖する者を前に⬛︎⬛︎⬛︎様は今度こそ完膚なきまでに叩き潰し、跡形もなく消し飛ばすと自身の腕に力を込め始める。
「……」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(……いや)
されどその時、我が子の顔を覆い隠している手から細かな震えが伝わり、
「⬛︎⬛︎」
(これ以上は、駄目だ)
⬛︎⬛︎⬛︎様は少しだけ冷静さを取り戻した。
もしも今自分がこの場で激怒と憎悪を滾らせながら目の前にいる者を叩き潰せば、それこそ淫夢巫に悪い余波を与えてしまう。例えそうでなくとも、見ないようにこうして顔を覆っていたとしても、目の前で自身の親が他者を殴り潰しているのだと淫夢巫が悟ってしまえば、それはどれほどの恐怖を与えることになるのだろう。
「⬛︎⬛︎⬛︎」
そう悟った⬛︎⬛︎⬛︎様は自身の中で尚も湧き立つ憤怒を懸命に抑えると、
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎⬛︎
怯え、動けなくなったその者を手で鷲掴み、立ち去れと思いながら遥か彼方へビュアッ! とぶん投げた。抵抗も再び戻って来ようとすることもなくその者は吹っ飛んで行き、そして彼方へと消え去る。それから間も無く、ズボッと穴が空く音がしたが、その穴はすぐさま閉じてしまう。
「⬛︎⬛︎」
(……これが…俺の能力…)
来訪者はこの世界に突如空いた穴に吸い込まれ、その中へと消える。そして此処とは全く異なる時空へと吹き飛んで行ってしまった。その一部始終を⬛︎⬛︎⬛︎様は黙ったまま無数の目の内の幾つかで見ながら、これが自分の能力なのかと不思議がる。
遥か彼方へ立ち去れと念じながらぶん投げれば、このように本当に異なる時空へと吹き飛ばせることを頭が知っていたわけじゃあない、その記憶があったわけじゃあない。
ただ体がそうすればいい、目の前にいる者をこの世界から追放したくばこの手を使えばいいと、この体が覚えていたからだ。
けれどもどうして体は覚えているのか、自身の頭は覚えていないのか。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎パ⬛︎⬛︎キ…
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……」
⬛︎⬛︎パキパキ…パキパキ……
「……」
疑問に思いながら、不思議だと思いながら、⬛︎⬛︎⬛︎様は変身する。我が子を怖がらせない、魔快黎様の姿へと。
のそ…
「……ママ?」
「終わったよ。じゃあ、帰ろうか」
両腕でしっかりと抱かれている淫夢巫はゆっくりともう隠されていない顔を上げながら自身のお母さんの方を恐る恐る振り向く。魔快黎様はそんな我が子を安堵させるような笑みで応えると、帰ろうかと言って、
フッ
他の子達の元へ淫夢巫と一緒に瞬間移動する。
ココーンッ
「ただいま。ごめんね、不安にさせて」
「「ママー!」」
「ッ! ……」
そして足音を立てながら我が子達の前に降り立つと、側を離れてごめんねと魔快黎様は謝った。すると漢妖歌と水浘愛はお母さんの帰還に歓喜し、わたわたぱちゃぱちゃ音を立てながら脚や尻尾に飛び付いた。欄照華も一瞬だけ同じようにその帰還を喜ぶような表情を見せるが、しかし他の子達みたく駆け寄るようなことはせず、すぐさま素っ気ない態度でお母さんのことを見つめる。
自身を迎える子達を魔快黎様は笑みを浮かべながら接しつつ、
(……俺は…早く俺自身を知らないと。この子達のためにも…)
得体の知れない自分自身の正体を早く解き明かさなければと静かに思っていた。先程振るったあの能力もその全貌を把握しているわけではない、振るい方だってまだ完全に制御出来るわけじゃあない。
加えてどんな能力がこの体に眠っているのか、先程振るったのはもちろん、瞬間移動やありとあらゆる世界を見れる目の他にも自身に能力はあるのだろうか。
いち早くそれを知らなければ、自身の力が何時大切な我が子に牙を剥くか知れたものではない。ただでさえ本来は恐ろしい姿をしていると言うのに、その全てを知り尽くしていない強大な能力もあれば絶対に良くないことが起きるのは明らかだ。それも自分ではなく我が子達にそれは降り掛かると魔快黎様は考えている。
「……」
パキッ
すると本来の姿を知りたい、本当の自分自身を知りたいと求めたせいか魔快黎様の顔が一部分だけパキッと音を立てて割れ、変身が解けかけてしまう。思えばこの変身自体も永久ではない。変身を保とうと意識しなければこのように解けてしまうこともしばしばあるのだ。
そんなまだまだ全く知らない自分自身を知ろうと魔快黎様は少々耽るように考え込んでしまう。
ちょんちょんっ
「ママどしたのママ」
と、その時、お母さんの頬を指で突っつきながら水浘愛がどうしたのと話し掛けた。考え過ぎてしまう余りやや放心状態になっていた魔快黎様はハッと我に返り、すぐさま我が子の方を見る。
「…いや、ちょっとね。少し考え事」
「らてすかてゃんのこと?」
「皆のことだよ。どうしたらもっと守れるのかなぁって」
「そっかぁ」
水浘愛の言葉に魔快黎様は皆のことで考え事だと笑顔を見せながら返した。此処で自分自身が何たるか記憶がないから考え事に耽っているなどと答えてしまえばどんな不安を与えてしまうか分からないからだ。
実際に能力を制御出来ないことで、その火の粉が我が子達に降り掛かってしまうことを魔快黎様は1番危惧しているため、強ちその言葉も間違いではないのだが。
ぽむっ
「んっ」
「何も心配はいらない。ママは水浘愛達の味方だから」
絶対にこの子達を傷付けるような真似はしない、この体にさせないと魔快黎様は強く思いつつも、優しい手付きで我が子達の頭を撫でる。
なで…
「ママのて…あったかぁ〜い。だいすき」
「そうか」
この世界に現れた異物を異世界へと追放した手で。
――
ギュギ…!!!!
「…さてと」
パキパキ…パキ⬛︎⬛︎
そうして魔快黎様の子達が寝静まった時のこと。普段はその側で見守っていた魔快黎様であったが、今この時だけは目を持って見守るだけであり、その側を離れていた。
「ふぅう…⬛︎⬛︎」
パ⬛︎⬛︎⬛︎パ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
深呼吸して自身の心を落ち着かせると、魔快黎様はゆっくりと変身を解いて行く。自分自身の能力を知るために。
(この手で異世界に奴を追放した。そしてこの目はありとあらゆる世界を見れる。此処だけじゃあない、全ての世界を俺は見ることが出来る。もし此処とは別の世界に放り投げることをこの腕が出来るのなら、逆に別の世界から持って来ることは出来るのか?)
冷静に既存事実を紐解きながら、それに基づく仮説を立てる。分からなくても、それに関する記憶がなくても、知っている記憶から未知なるものを解き明かすことは出来る筈だと。
⬛︎⬛︎
そして⬛︎⬛︎⬛︎様は異世界を見つめながら自身の手をゆるりと持ち上げ、
⬛︎⬛︎⬛︎
見えているものを拾うように掴んでみる。
⬛︎⬛︎
「⬛︎⬛︎」
(…ッ!)
すると此処にはなかったものは、異世界にあったものは、⬛︎⬛︎⬛︎様の手のひらの中に一瞬で転移していた。
次回の投稿もお楽しみに
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