迫るもの
お待たせしました
「……」
(何だ、何が来る)
自身の子達とはまた別の存在をこの世界に感じ取った魔快黎様は静かに集中し、辺りの空間へ意識を張り巡らせる。しかしこの混沌なる世界に存在しているのは、魔快黎様とこの子達しかいない。少なくとも魔快黎はその他の存在を認知しておらず、自分と子達以外に何か別なる者が存在するなどと思っていなかった。
ギロロロロッ
瞬間、魔快黎様は全てを見通せる無数の目の一角を用いてこの混沌なる世界に来た何かを見つめる。来たのは誰だ、何がこの世界に来たのだ、一体何の目的でやって来たのだと思いながら。
すると感じられるその存在は真っ直ぐ魔快黎様がいる方向を目指しており、ずるりずるりと体を引き摺るようにして歩いていた。
「■■■…■■■…■■■…」
ずるり…■■■…ずるり…
(何だこいつは…。何でこんな敵意を持っている…いやそれよりも…)
そしてその者はただ見ただけで分かる程明らかな敵意を持っており、この者を大切な子達に近づけてはならないと直感的に魔快黎様は悟る。
とんっ
「?」
「おん?」
「どこかへいくの?」
「それならこなたもいくっ。ママといっしょがいい」
けれどもそのためには子達のそばを離れなくてはならないと言うことでもあった。大切な子達のために、すぐ近くにいてやらねばならい者達のために、此処に残して側を離れる。そんな事態になっていることに魔快黎様は少し躊躇いながらも立ち上がり、とんっと手で子達の頭を撫でた。
「ママは少し行って来る。いい子だから、此処で待っていなさい。大丈夫、きっと帰って来る。ほんの少しの間だから、ね」
少しだけ行って来ると、いい子だから此処で待っていなさいと穏やかにして安心させるような笑顔で。此処から自分が離れることで子達はきっと不安がるだろうから、少しでもそれを取り除こうと言う顔で。
がっ
「やだ…!」
しかしその笑顔でも幼い子のお母さんの側にいたいと言う想いは拭い去れず、欄照華はがしっと両手で魔快黎様の脚に抱き付く。他の子達も尻尾や背の手であったものを掴み、ぐいぐい引っ張りながら潤んだ目で行かないでと訴えている。
そこから分かる子達の想いに魔快黎様は表情を曇らせるも、すでに他の目は迫って来る敵意の塊を捉えていた。
そんなものが此処へ来てしまえば、一体どんなことが起きるか分からない、少なくともこの子達に何かしらの影響が出るのは間違いない。だからその何かが何なのかを知り、仮に仇なす存在であるのならばこの世界から追放しなくてはならないのだ。
この子達のために、この子達の安全安心のために。
「……」
魔快黎様は意を決すると、
ぎゅう…
不安がる子達を静かに抱き締め、
「ごめんね、すぐに戻って来るから。約束」
フッ
必ず帰って来ることを約束すると、その場に子供達を残して瞬間移動する。
――
カトトンッ
「■■ッ」
「何をしに来た。此処に」
(あの子達のことはしっかり見ておかなければな)
次の瞬間、魔快黎様は自身の世界に現れたその存在の前に立ちはだかりつつ、無数の目で残した子達のことを見つめ続けた。もしあの子達に危険が迫るようならばすぐさま瞬間移動して戻れるように。されど今は目の前にいるこの存在だと、魔快黎様は警戒する。
すると、
「■■■…■■■■■■■■■■■…!」
「何だ、俺のことを知ってるのか。それにこんなところにいただと? どう言うことだ」
「■■!!」
■■■!!
現れた者は魔快黎様のことを見た瞬間、先程以上に敵意と殺意を露わにし、殺してやると言わんばかりに向かって来た。しかし魔快黎様はその者が発した意味深な言葉に一瞬戸惑ってしまい、判断が遅れてしまう。
ドパッ!
「うぐ⬛︎」
だが何より、魔快黎様には自身の子の他に自分のことを傷つけて来ると言う存在に出会ったと言う記憶がないため、そのようなことをして来る者への即座な対応が出来なかったのだ。しかもその傷つけられたと言う記憶も、戯れて来た漢妖歌や水浘愛が噛み付いたり纏わり付いたり、もしくは甘えて来る欄照華が強く抱き付き過ぎることでちょっと苦しく思うくらい。
もちろん純粋な心でお母さんに甘えて来る子達に悪意などない、ましてや今のような殺意や敵意などない。
「ぐ⬛︎⬛︎⬛︎…!」
(やはりこいつは…あの子達の敵だ!)
パキパキパキパキ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!
初めて触れた敵意、初めて味わった殺意。それを知った魔快黎様の心は絶対にこいつを自身の子達の元へ向かわせてはならないと確信し、この世界から追放しなくてはならないと決意させる。
その瞬間、魔快黎様であった体はパキパキと音を立てて砕け、喰い破るようにして⬛︎⬛︎⬛︎の姿が、厄災そのものが露わになった。
「■■■…■■■…⬛︎⬛︎⬛︎!」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(絶対に、こいつを近づけさせない!)
するとその者は⬛︎⬛︎⬛︎様のことを知っている様子で、その姿を前にしても一切退くことはなく、むしろ更に敵意を抱き、殺そうと肉体を異形に変形させていく。
「■■■■■■■■■■■…! ■■■■■■■■■■■!」
「⬛︎⬛︎⬛︎」
(俺のせい、だと? どう言うことだ。一体こいつは…何者なんだ…?)
しかもその者は⬛︎⬛︎⬛︎様のことを知っている様子であり、絶対に殺してやると決意していた。そんな者の強い意志と殺意に⬛︎⬛︎⬛︎様はどう言うことだと困惑しながらも、
「⬛︎⬛︎⬛︎」
(だが…だがそれでも、今はあの子達の安全が第一だ! こいつがどんな奴であろうと…どんな想いを俺に抱いていようと…此処で退くわけには行かない!)
⬛︎⬛︎⬛︎
ズンッと巨壁の如く立ちはだかり、絶対にこの者を先へは行かせない、今此処で喰い止めなくてはならないと硬く誓う。瞬間、その者は厄災そのものに立ち向かって行き、先程肉体を切り裂いた鋭い刃を突き立てようと振るった。
⬛︎⬛︎⬛︎
「■■!」
しかし厄災そのものの巨大な姿となった⬛︎⬛︎⬛︎様はいとも容易くその者ごと刃をバシッと手で払い、吹き飛ばしてしまう。自身の子を守るために本気となっている⬛︎⬛︎⬛︎様に容赦などなく、
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
この世界から出て行けと、自然と体を動かしてその者を追放しにかかる。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
「⬛︎⬛︎」
(えっ)
と、その時であった。
少し遠くに置いて来た子達のことを見守っていた⬛︎⬛︎⬛︎の無数の目は、フッと突然その場から消える子の姿を捉える。
すぐさま⬛︎⬛︎⬛︎様は消えたその子のことを探し出そうとありとあらゆる時空に目をやるが、
フッ
すぐさまその必要はなかったと知ることになる。
とふんっ
「⬛︎⬛︎⬛︎」
(なっ…)
もそもそ…
「……ママ…ママ…! さびしいから…きちゃ…た……」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(な…何だってぇえ!!?)
何故ならその子は、⬛︎⬛︎⬛︎の体のすぐ真上に転移し、禍々しく巨大な体に着地する。いや、その子が怪我をしないよう⬛︎⬛︎⬛︎様がすぐさま体の一部を変形させ、抱き締めるように受け止めたことで事なきを得たと言う方が正しいか。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(どうしよう…何で淫夢巫が此処に…!)
「ママ…」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(や、やばいかもな)
突如として現れ、自身の体の上に着陸した淫夢巫に⬛︎⬛︎⬛︎様は、タイミングとして余りにも悪過ぎる、そもそもこのようなことを淫夢巫が出来るなんて知らなかったと大きく動揺してしまう。されど、
「⬛︎⬛︎⬛︎」
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
(一応他の子達はその場を離れていないな。もし散り散りになってでもしたら大惨事だったからまずは一安心…と言ったところ…か? それに淫夢巫をこうしてしまったのは、寂しくしてしまった俺のせいでもあるからな…)
すぐさま無数の目で他の子達のことを見遣り、その場から動いていないことを確認する。そしてこうなってしまったのは、淫夢巫にこのようなことをさせてしまったのは、自身の責任でもあると⬛︎⬛︎⬛︎様は負い目を感じてしまう。
しかしこうなってしまった以上、何とか淫夢巫なことは守り抜かなくてはならない。それに⬛︎⬛︎⬛︎の姿を嫌っている淫夢巫に怖い想いをさせてはならないとすぐさま⬛︎⬛︎⬛︎様は思考を巡らせ、
ぎゅう…
「ん…あったかい…」
「⬛︎⬛︎⬛︎」
(こうして抱き抱えていよう)
こうして体の一部を使って抱き締めていなくてはならないと判断し、そうしながらこの世界に現れた者と対峙する。
次回の投稿もお楽しみに
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