混沌から
お待たせしました
「さぁて…」
我が子達が捏ね、混ぜに混ぜた大地の前に立った魔快黎様はスゥと右目を閉じて精神を静かにさせる。無限に及ぼうと言う数の目の内の1つを閉じたところで⬛︎⬛︎⬛︎の御身体にとって何だと言うところではあるが、1つでも見えないものがある、暗い場を自ら創り出すと言うのは魔快黎様の心にとって重要なことなのだ。
見えぬからこそ感じ取れる自身の御身体に秘めたる力。激流たるその力の波を余すことなく隅々まで行き渡らせる為、魔快黎様は目を閉じると言う、数多の目を持つ御身体にとって意味のない行動を取ったのだ。
「……」
(大丈夫、出来る)
心の中で強く唱えながら魔快黎様は自らの御身体に滾らせた力を手先へと移動させて
いく。そして次の瞬間、
「…ッ…ほっ!」
と勢いよくその力を指先から辺り一面へ放った。
バラララララッッ!
すると盛り上げられ、掻き混ぜられ、凸凹目立っていた大地は瞬く間に整地され、空との堺目は曲線から直線へと倣う。
「ほふぅ」
我が子達がほぐしてくれた大地は魔快黎様も軽く驚く程に放った力が浸透しやすく、大地を整えるのに時はかからなかった。そうして力を行き渡らせ終え、荒廃し生命も住めなさそうな大地を綺麗な地へと変えた魔快黎様は一息吐いてからするりと振り返り、
「ありがとうな」
と一言我が子達に告げる。
「しゅげー、お母さんしゅげー」
「…お母さんがこのぐらい出来るのなら此方はいらなかったんじゃあないのか」
ありありと見せつけられる自身らの母の能力。自身らの側を離れる前、自身らがずっと幼かった時に見たものよりも更に増しているように見える母親の力に水浘愛も欄照華も思わず感嘆の声を漏らしてしまう。こんな能力があるのならば、広大な大地を一瞬で直してしまえるのならば最初から自身らなど必要なかったんじゃあないのか、と。
「まさか。水浘愛と欄照華と大地をほぐしてくれなかったらこうも簡単にいかなかったさ。俺だけが棲むんならあのままでもいいけど、今から此処は欄照華と水浘愛が暮らすんだろう。だったら混沌のはない方がいいさ」
そんな我が子達に魔快黎様は微笑みつつ、自身が簡単に出来たのは我が子達の力あってこそと返す。もし欄照華と水浘愛が予め大地を混ぜてくれなかったら魔快黎様の強大な力も細部まで行き渡らなかっただろう、自身だけじゃあ難かっただろう、と。その純粋な褒め言葉に水浘愛も欄照華も少し顔を赤らめ、ミンッと高くなった鼻先を軽く擦る。
「んじゃ、辺りは整えたから後は水浘愛と欄照華の好きにやりな。以前よりも棲み易くはなってる筈だ」
そうしてこれから此処は我が子達が暮らしていく場所、その為の世界なのだと魔快黎様は告げる。かつてのような硬く荒れ果てた地ではなく、生きていくのが難い地などではなく、我が子達が安心して根を下ろせる場所に変えて。
「ふ〜ん、さっすがお母さん。ありがと〜! わっほぉいっ」
すると水浘愛は真っ先に駆け出し、整った大地にバッシャアンッとダイブする。
「おひょー! ふかふかぁ!」
同時に今までと全く違う、自身を受け止めてくれる暖かく柔らかい大地に水浘愛は大興奮しながらゴロゴロっと転がってその感触を堪能していた。つい先程まで自身の体を浸透させるのにかなりの労力を使わなくてはならなかった地も非常に柔らかく、スルスルと奥の奥まで染み込めるのが身に泌みて分かるようだ。
「欄照華は行かないのか?」
「今すぐじゃあなくていい。大丈夫、お母さんがしてくれたことはちゃんと分かってるよ、ありがとう」
対して水浘愛のようにすぐその世界に脚を踏み入れない欄照華は静かに笑いながらちゃんとお母さんが自身らにしてくれたことは分かっていると、お母さんの問いかけに対して返す。チョンチョンと自身の脚先を指差しながら。
魔快黎様がその指先の方に目を遣るとそこには変型し、大地の中へと根を伸ばす欄照華の脚があった。
「ちゃんと感じてる」
ズグッ…ズブ…
「…そうか、ならよかった」
まずは地面の柔らかさから、と欄照華は伸ばしているその根で大地の棲みやすさを感じ取る。岩壁の如く決して自身が進みたい方向の邪魔はしない、しかしだからと言って流水の如く身を頼れないわけではない。柔らかくも力強く自身の根を支えている大地が至上のものだと欄照華は感じ取っていた。
バシャア!!
「見て見てー、水が吹き出したよ。この地面凄すぎ、こんなにも簡単に掘り起こせるなんてェ〜!」
と、そこへ大地を堪能していた水浘愛が奥底に眠る水を掘り起こす。泉と雨雫は宙で折り返すや柔らかな大地にビショビショと降り注ぎ、溜まりとなり、池となり、湖となる。その中心で水浘愛は感動の笑みを浮かべながらはしゃぎ回っている。
「はしゃぎ過ぎだろ、少し灸を据えて静かにさせてやった方がいいか」
「まぁまぁ、そうカッカせず仲良くやりな。前より暮らしやすいよう手は尽くしたからさ」
「ふん、前より…ね。たしかにこの大地は昔よりずっと良い。……でも」
そんな水浘愛に対し欄照華は小さなため息混じりに拳を握り、腕を軽く振るいながら静かにさせようとした。と、その手を魔快黎様は静止しつつ、この場所は欄照花にとっても住み良いところにしたのだから水浘愛と喧嘩せず仲良くなりなと告げる。
しかし欄照華は何処か心配そうな顔付き、ため息でも吐きそうな目でお母さんを見つめ返した。
「いざとなったらお母さんを呼べ。そうすれば、なるべくすぐに駆け付けるからさ」
まだ我が子には何か不安や不満があるのかもしれない、とその目から感じ取った魔快黎様はすぐさまそう付け加える。
「なるべく……ふっ、たしかにそっちの言葉の方が信頼出来るか」
「むぉっ」
すると欄照華は意地悪く、されど何処か寂しげな顔でボソリと口にした。
「お母さんの場合、絶対よりもなるべくって言った方がいいのかもね。昔を思い出すと」
そしてにま〜っと嘲笑うように口元を緩ませながら、欄照華はなるべくの方が信頼出来ると続けて言う。『昔』と言うのはお母さんが突然自身らの前から消えた時のこと、正確に言えば帰って来なかった時のことだ。他の子らも、魔快黎様自身も決して忘れられない、忘れてはならない時。子達は母親にすぐにでも帰って来て欲しいと願い、母親もまた今すぐに我が子達の元へ帰りたいと願っていた。更には厄災を討ち、芽を全て摘まんとする者達の襲来により、子達は皆辛く苦しくも強くならざるを得ない状況に立たされる。
それが更なる敵達、強き者達を呼び寄せることになっていたとしても。
「……すまない」
「別に、怒ってない、全然ね。それに謝って欲しいとも思ってない。今の力があるのはあの時があったから、だからな。お母さんが帰って来なくても、此方達を捨てたってわけじゃあ一度もないことも分かってる。だから心配しなくていい、此方も水浘愛もあの頃より強くなっている」
されど欄照華はその時を図らずとも生み出してしまったお母さんのことは恨んでいないとはっきり言い、
「此方は大丈夫」
「水浘愛もだよー」
ほのかに笑って水浘愛と共に自身らは大丈夫だとお母さんに告げる。
「……そうか、大きくなったな」
そんな我が子達に魔快黎様は一瞬俯いてしまうもすぐさま向き直り、笑みを浮かべて安堵の表情となった。
「漢妖歌や淫夢巫のとこへもこれから行くんだろう。見ての通り此方達は大丈夫だから」
「行ってらっしゃ〜い。淫夢巫ちゃんと漢妖歌ちゃんにもよろしくね〜」
「うん、じゃあお言葉に甘えて行って来る」
フッ
瞬間、魔快黎様は何処へと一瞬の内に消える。だがその子達はもう決して心配や不安の表情を浮かべない。分かっているからだ、自身のお母さんは決して遠くへは行かない、もうお互いの手が届かない場所へは行かない、と。そう知っている水浘愛と欄照華は目の前の広大な大地と空を前に、自らの世界を創り出し始める。
「ところで、随分急に入って来たな。何時からだ、何時からお母さんと此方の話を聞いていた」
「にゅっ、え〜っと、お母さんが欄照華ちゃんと仲良くね〜ってとこから、かなっ」
「だいぶ序盤の方じゃあないか。まぁ、どうでもいい」
「てなわけで仲良くしよ〜、にゅるる〜、いやもうすでに仲良しか〜」
「……ふんっ」
次回の投稿もお楽しみに
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