掻混
お待たせしました
シャアアア……
「…」
ポコッ…グググ……
「ヘェイ欄照華ちゃん。そっちの作業終わたー?」
「勿論だ。水浘愛こそお母さんに言われた作業は終わったのか」
「いんにゃ全然」
「おい」
魔快黎様と傷付いた子達が皆帰還し、ようやく元の家族の形に戻って来た最中、欄照華と水浘愛は何やら荒廃とした大地を相手に自らの力で向き合っていた。
欄照華は足先から根を張り巡らせて地中を掘り進め、土壌をほぐし、かき混ぜる。足先から伸びる数多の根は1本1本が腕の如く動き、丁寧に大地を掘り返す。
対する水浘愛はその隣で大地中に自らの体を浸透させ、別の生物のように動きながら遥か底に眠っている地下水を探していた。前とした時と同じ、いやそれ以上に体を地中に伸ばし、ひたすら水のある場所を探し続ける。
されどお母さんから任された地ではなかなか前のようには行かず、水浘愛の探索は難局を示しているようだ。そもそも辺りの土は非常に硬いものばかりであり、簡単に先へ進めないというのも難局の原因の1つだ。
「そもそもこんな硬いだけの地面で他になーんもない場所をどーにかせいと言うのが無茶苦茶だよー。前の方がまだ柔らかかったから割とすぐ見つけられたけど、ほんとに此処に水とかあるのー? 絶対ないでしょー」
「しのごの言わずに頑張れ。土が硬いと言うのなら此方がほぐしてやる」
「ぷー、なら欄照華ちゃんが全部やればいいじゃーんかー。欄照華ちゃんだって地下水とか見つけられるでしょお」
作業を一度止め、散らばっていた体を集合させながらぽこっと顔を出す水浘愛。変わらず作業を続ける欄照華に、このくらい自身でなくとも出来るだろうとぷーぷー不満を垂らす。欄照華はそれを少しでも和らげる為に自身が土壌を柔らかくしているのだと返すが、水浘愛の不満は膨らんでいる頬のように収まらないようだ。
「バトンタッチバトンタッチ、欄照華ちゃんの方が単純作業っぽくてずるいずるいずるいっ」
「…まぁいい。なら代われ」
さらに水浘愛は欄照華の作業の方が単純かつ簡単だろうから代われと抗議した。欄照華はその訴えにため息を吐きながらも、そこまで言うなら代わってやると交代を認める。
そして
ポコッ…グググ……
「ヘェイ欄照華ちゃん。そっちの作業終わたー?」
「水源は見つけたがかなり深い位置にある。これを吸い上げるのは少々面倒だが不可能ではない。それで、汝はどうなんだ?」
「あー……っとねぇ〜……」
互いの役割を交代してからしばらく、欄照華は奥底まで根を伸ばした結果、底に溜まっていた地下水を見つけていた。対する水浘愛は欄照華が先程までしていた作業、水浘愛曰く簡単な単純作業とのことだが…
「やっぱ〜……もっかい交代せん?」
「しない」
「あば〜……」
「汝が簡単だと羨んだ此方の仕事だ。ちゃんと最後までやり遂げろ」
どうやら相当の難局を強いられているようだ。
「あのね…想像以上に硬かったんですわこの大地」
「うん、知ってる」
「…代わってよぉ、欄照華ちゃんが見つけた水源を水浘愛が吸い上げるからさぁ。水浘愛の残りを欄照華ちゃんがぁ…」
「……」
地面から顔を出しながら水浘愛は疲れた顔でまた交代を持ち掛ける。欄照華がかき混ぜていた土は思っていた以上に硬く、楽々とやっているように見えて実は相当な労力が必須な作業だったのだ。そのことを何よりも知っていた欄照華は水浘愛と自身がやった部分を一瞥すると、やれやれと呆れながら再び水浘愛の方を向き直り、
「やだ。此方の半分も出来ていないじゃあないか。それに汝は此方が見つけた水を吸い上げるだけだと、馬鹿も休み休み言え」
と冷静にあしらった。
「ぷ〜! バトンタッチバトンタッチ、欄照華ちゃんの方が単純作業っぽくてずるいずるいずるいっ」
「さっきも聞いたぞその台詞。そんな戯言言える元気があるなら動けッ。出来ないわけじゃあないだろう」
「ぴぇ〜キビシ〜〜」
――
そして、
トトッ
「おっ、出来てる出来てる。頑張ったな」
「このくらい何てことはない」
「うん、流石だ」
作業を終えた欄照華の元へ魔快黎様が瞬間移動してやって来る。魔快黎様は耕され、豊かさを持った大地を一見すると笑いながら向き直って欄照華を褒め称えた。更に
ちょんちょんっ
「水浘愛もお疲れ様」
「……」
グッ!
自身らの足元ででろんと水溜りのように伸びてしまった水浘愛にも労りの言葉をかける。それに対し疲れ果てた水浘愛は体の一部から手首をにゅるにゅる生やすと、サムズアップポーズを決めた。しかし疲労の為か、そのサムズアップもすぐさまゴポゴポと液状の体に沈んでいってしまう。
もにゅっ
「にゃ〜〜……疲れましたぁ〜〜……もう動けませぇ〜ん…」
「よく頑張ったな、偉いぞ」
「むへへ〜」
ある程度元の形は残っているもののデロデロと溶けて大地に這いつくばっている水浘愛にも魔快黎様は労りの言葉をかけながら、疲労したその体を優しく撫でてやった。
「それで? 此方達がこうして此処ら一帯を耕したわけだが、次は一体何をするんだ?」
「にゅええ〜? まだやるの〜。水浘愛もう疲れたったよぉ〜ん。何かやるとしたら欄照華ちゃんだけでおねがぁ〜い。水浘愛は此処でごろごろだらだらしてるからぁ」
「…と言っているが、どうするお母さん。水浘愛が必要ならば今すぐにでも叩き起こすが」
「ひょっ」
そんなお母さんに欄照華は次なる作業を求める。まさかこれで終わりではなかろう、自身と水浘愛に頼みたいであろう作業はきっとまだある筈だと思いながら。
「いや、大丈夫だよ。此処までありがとうな。欄照華と水浘愛は休んでていい。むしろ休んでて」
「むっ」
「やったーぃ。なら水浘愛は全力と本気を出して休みまぁす」
しかし魔快黎様は笑いながら此処までで大丈夫と欄照華の頭を撫で、苦労を労った。そしてカチャンカチャンと異形の足跡を立てながら我が子達が肥やした大地へと歩いて行く。
「後はお母さんがやる」
その言葉を残して。
「結局何なんだ。此方達がしたことは…」
残された欄照華はふぅと一息吐きながら静かに腰を下ろし、丈夫な草花の椅子を生やしてそれに腰掛ける。
ピトッ
「ぴとっ、お疲れちゃ〜ん」
「くっつくな」
「硬いこと言〜なよ〜。欄照華ちゃんがいっちばん頑張ったんだからー。ほら、水浘愛のひんやりのしかかりを喰らえぇー」
「……」
水浘愛はそんな欄照華に纏わり付き、覆い被さった。火照り、疲労した欄照華の体を自身の体で癒そうと。
「取り敢えず汝は静かにしていろ。お母さんが何をするのか、しかと目で見ておくんだ。次は此方達かもしれないんだぞ」
「ほっほーいっ」
と、抱きついて来る水浘愛のことを欄照華は呆れた表情ながらも退けることなく静かにお母さんの背中を見続ける。
「スー…ハー…」
そして、
(俺が歪めてしまった混沌としたこの場所は水浘愛と欄照華が掻き混ぜて形としてくれた…後は俺の能力と腕で更に変える…集中…出来る出来る絶対出来る…)
魔快黎様は精神を統一させながら目の前に広がる大地をしかと捉え、見つめ、腕を伸ばす。
(我が子達の棲む世界…その創世を…!)
次回の投稿もお楽しみに
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