変化するものと不変のままのもの
お待たせしました
再会するなりヤイのヤイと言い合う淫夢巫と欄照華。水浘愛の水差しによって一瞬は鎮火したように思えた両者の火花も再び燃え上がり、今尚ヒートアップし続けている。
「喧嘩なんて止めなよ〜。もうすぐお母さんも帰って来るんだしさぁ」
(んままっ、このままの方が欄照華ちゃんと淫夢巫ちゃんらしくていっか。適当にしとこ〜っと)
そしてその水浘愛もとうにやる気を無くしており、この光景こそが欄照華と淫夢巫らしいと放っておいた。元より全力で止める気など更々なかったのかもしれない。どうせ自身が止めなくとももうすぐ帰って来るであろうお母さんが止めるだろう、何しろお母さんだってこの光景を見ているのだから。
すでに止める手を止めた水浘愛はそう思いながら目の前の光景を眺めながら気長に自身らの母さんの帰還を待つ。
ぬろんっ
とそこへ、
「あり、余が1番最後かい。欄照華に抜かれるったぁ思わんかったわ」
「んぉっと漢妖歌ちゃんっ。急に現れたねっ」
「体が完成次第すぐ帰ると言ったて。そら急に現れるわい、この場所にな」
「それもそっかー」
空間を布のように裂き、ぬんっと何もない場所から漢妖歌が顔を出した。自身のすぐ隣から突然顔が生えたことに水浘愛はギョッとするも、それが家族のものであるとすぐに安堵して会話する。
「んしょっと…おとと。思ったよりも高くなったなぁ…目線が」
「漢妖歌ちゃんもおっきくなってる…ほへ〜…ほー…ふ〜ん」
「ふふふ…じゃーんっ。時を掛けて作り出したんだ、なかなか良かろう?」
「うん、めちゃくちゃ良い。グーよグー」
空間の裂け目を幾多の腕でグイイッと広げると、そこから脚を乗り出してするりと地に降りる漢妖歌。その容姿は最後にあった時よりも大人びており、ところどころ縫い目が見えるものの以前の面影を感じさせていた。顔付きもすっかり垢抜け、伸びた髪は後ろで一束にしている。漢妖歌はそんな自身の体を作ったと言いながらくるりと回って見せて、水浘愛にどやさと自慢した。
それに対して水浘愛はぐるぐると周りを囲うようにして見ると、含みなくパチパチと手を叩いて褒め千切る。
「ところで…彼奴ら、まぁた口論しとんのかい」
「うん、止める?」
「ああ、見苦しいからの。水浘愛、手貸せ」
と、少し鼻を高くしたところで漢妖歌はクイクイと親指で欄照華と淫夢巫の方を差しながら、まぁたあの者達は喧嘩しとるのかと呆れながら言った。水浘愛がそうだよーと面白がりながら返すと、漢妖歌ははぁーっとため息を吐いてから、止めてやるかと指をパキパキ鳴らす。
むにちっ
「はい、1本でいいね」
そんな漢妖歌に水浘愛は自身の片腕を引っ張って千切り、再生と同時にその腕を手渡した。
「……そのよな意味ではなくてだなぁ」
「じょーだんだってじょーだん。漢妖歌ちゃんには必要なかったね、だってたくさんあるんだもんね」
「そう言うわけだ。さ、行くぞ」
「ほっほーい」
カプカプと笑いながら戯ける水浘愛にやれやれとため息を吐きつつも、これが水浘愛という奴なのだ、前と全く変わらないと何処か安堵する。そしてなんだかんだ共に来てくれるのはありがたいと思いながら漢妖歌は水浘愛と共に、口喧嘩を続ける欄照華と淫夢巫の元へ向かった。
――
ガシュキッ
「遅くなったかな」
それから少し経ち、草花の原が茂る場へ瞬間移動して降り立つ厄災そのものこと魔快黎様。少しの時とは言え我が子達の側から離れていた魔快黎様は駆け足でその子達の元へ帰って来た。
「ムギギギギ……」
「グニニ……」
ギギギギ……ッ!!!
「何やってんだかホント…」
「いや漢妖歌ちゃんと水浘愛が止めなきゃこーなってたのは淫夢巫ちゃんの方だからねー。反省してよ」
するとそこでは、欄照華の屈強な腕と漢妖歌の無数の手が互いの頬をつねり合い、引っ張り合いながら睨み合っていた。側ではとっくに言い合いを止められた淫夢巫と、それを止めた水浘愛が両者の取っ組み合いを眺めている。
「何だ何だどうしたどうした。やめなさい漢妖歌も欄照華も」
そんな我が子達を魔快黎様は何事かと驚きつつもすぐさま取っ組み合いの間に割って入り、両の腕と6本の腕だったものを使って両者を何とか引き剥がす。
「まぁた喧嘩して。きっかけは何だ」
「最初は欄照華と淫夢巫が口論しとって、止めんかと言うたら火種がこっちへ飛んで来たんだ」
「矢鱈と突っ込まれる手が邪魔だっただけだ。元々は此方と淫夢巫の喧嘩。やいやい手を入れられる筋合いはない」
「いいや、ある。あんな見苦しい喧嘩を目の前で見せ付けられる余と水浘愛の気にもなってみろ。目障りったらあらせんわ」
「何だと…!?」
しかし漢妖歌と欄照華はその手の隙間から顔をみょんみょん出し、退けようとしながら尚も口論を続けた。
「正論を言うたらいけんのか」
「いや、別に。ただその耳障りなことばかり言う口を塞ぐだけだ。気まで大きくなったその大口を縛り上げてやる」
「やってみろ。余の腕が其方の手を止めるだけだからな」
「そんな貧弱そうな腕で出来ると思うか?」
バチバチと火花散らす両者。欄照華の怒りの刃先はすでに漢妖歌へ向けられており、負けじと張り合う漢妖歌に至っては完全に止める側から止められる側へ移行していた。
「やーめーなーさーい。せっかく帰って来た者同士なのに喧嘩なんかするんじゃあない」
「大丈夫だよお母さん、喧嘩にさえならないから。一瞬で終わらせる」
「おや、意外だな。余もまったく同じことを考えていたところだよ」
「だーかーらー」
そしてそんな両者の体が魔快黎様の腕を完全に抜け、再び戦いの火蓋を切って落とそうとする。
バッシャーンッッッ!!!
「「「……?」」」
が、
「はーい、そこまでそこまで。少し頭冷やそうよ」
次の瞬間、そこにいた全員の体に突如大量の水が満遍なくかけられた。同時に切って落とされようとしていた火蓋も鎮火し、怒りはすっかり消沈してしまう。
「いよっ、水も滴るいいお母さん達」
「……水浘愛…いい水差しだ」
「でへへー」
ポタポタとぶっかけられた水を滴らせながら魔快黎様は水浘愛の方を振り向き、よくぞ止めてくれたと笑って言う。手の一部をバケツに変形させて喧嘩の火に水を掛けた水浘愛は照れ笑いを浮かべながらチラリチラリと落ち着いたであろう両者を見つめた。
魔快黎様同様全身に水を浴び、先程まで怒りを炎として燃え上がらせていた漢妖歌と欄照華は思わず硬直し、丸くなった目で水浘愛を見つめ返す。
「ど〜? 少しは冷えたかな。特に頭」
そんな両者を水浘愛は笑いながら、怒りの炎はちゃんと鎮火したか尋ねる。その背後では淫夢巫も口元を手で隠し、顔を背けつつもクスクスと肩を揺らして静かに笑っていた。
「まぁ、冷えたは冷えた」
「同じく。だが他にもあっただろう、止め方は。此方達だけではなくお母さんまでぐっしょりだ」
「こんぐらいしなきゃあもう止まんないでしょ今の漢妖歌ちゃんと欄照華ちゃんは。昔よりもずっとずぅっと強くなってるんだからさ、お互いに」
「「……確かに」」
すっかり冷静になった頭で漢妖歌と欄照華はフルフルッと体を軽く揺すり、ピッと手で水を払い落としながらそう返答する。そして、
バッシャーンッ!
「…?」
「取り敢えず淫夢巫ちゃんにもぶっかけとくね。喧嘩両成敗ってのと、後で欄照華ちゃんからネチネチ言われるのを未然に防ぐ為ってので」
背後でクスクスと嘲笑っていた淫夢巫にも水浘愛は同様に水を叩き付けた。元々は欄照華と淫夢巫の喧嘩、その片方だけが水を喰らっては不公平だと。水浘愛にとっては面倒になるであろう欄照華の口撃に予め蓋をしたかっただけと言うのが本音かもしれないが。
「はぁ…」
「水浘愛、よくやった」
「いぇい」
欄照華はそれに対して頷きつつ自身らを止めてくれた水浘愛に感謝する。対して淫夢巫は少々呆気に取られていたものの、すぐさま口元に笑みを浮かべつつ手元に力を滾らせた。
スッ
「やめとき。これ以上は面倒だからな」
「……そーね」
が、すぐさま漢妖歌の手の1本がそれを止める。その手と言葉に淫夢巫はやれやれと吐息と共に滾らせていた力を抜く。
「やれやれ、やっと止まったか、まったくまったく。はいっ、これで喧嘩はもうお終い」
そうしてようやく止まった我が子達の喧嘩に魔快黎様は呆れつつ、パンッと手を叩いて終止符を打つ。
「いちいち喧嘩なんかしてたら先が思いやられるぞ。やって欲しいことがあるんだから」
次回の投稿もお楽しみに
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