舞戻
お待たせしました
モゴッ…
「んぐっ……」
地を掻き分け、遮るものを取っ払いながら遥か先の地上を目指す。ひたすら暗い地の中を、真っ暗な闇の中を這いずり、ただただ光を求めて、光のある方を目指して。想像以上の地の硬さと進めなさが行手を阻もうとも。
グググ……パッ
「ぷぁっ」
そしてついに最後の1枚、外と繋がる地を持ち上げ、割るようにして顔を出した。
「……此処は…?」
ふるふると頭を振ってこびり付いた土を払い落とし、辺りをきょろきょろと見回す。されどそこには見慣れぬ場所、見知らぬ世界。自身が埋まっていたのは自身達の住む場として使っていた巨木のすぐ側であった筈。引っこ抜かれて、家族に連れて来られてからまた抜かれた記憶はないから場所は移動していない筈。
その筈なのに何故か景色は変わっている。
「この木はある……しかし…」
自身が生み出した巨木はあるが、その周りの荒廃した大地は潤い、小さな草花で埋め尽くされていた。変わり果て、生命溢れる大地に欄照華は足を下ろすと、自身が出て来ることで掘り返されてしまった地とそこにいた草花を元のように戻す。そして優しく幾多もある葉を指先で撫でた。
(これは此方のだ…でも何で…)
しかと根付き、生えているのはかつて自身が生み出した草花そのもの。大地を癒す為に生やしたものだ。だが何故それらが知らぬ間に、こんなにも生えているのだと欄照華は手を口元に当てながら考える。
にょんっ
「あっ、起きたのー?」
「水浘愛か」
「チャオ〜元気〜? ま、聞くまでもないかぁ」
と、そんな欄照華の背後の巨木から体を伸ばし、宙ぶらりんになりながら水浘愛が話し掛けて来る。水浘愛はぷらーんぷらーんと左右に揺れながら完全に再生を終えた欄照華の体を見渡すと、にまっと笑って無事に帰って来たと安堵した。
「てかよく生きてたねー。お母さんの話によるとぐちゃぐちゃに溶けて死んじゃったかと思ってたのに」
「此方も確実に復活出来ると予想していたわけじゃあない。ただ運が良かっただけだ」
「でもその運を引き寄せるのも欄照華ちゃんの実力じゃね〜」
「ふん、そうだな」
あの戦いにて欄照華の肉体は一度自身の猛毒にて完全に溶解してしまったかのように思えた。否、肉体のほとんどが、それこそ9割近く欄照華は死んでいた。
しかし僅かな破片が、細かな根の1欠片だけが地中に残って微かに生きていたのだ。もちろんその1欠片も僅か数秒、長く持っても数分生きられるかどうかの生命。何もなければすぐにでも枯れ果て、死ぬだけだった。
だが欄照華は生きながらえた。
欄照華を生かしたのは己の体そのもの。自らの毒によって溶けた体はそのまま大地に染み込み、地中に残った消えそうな生命に生きる力を与えたのである。
そうして力を取り戻した欄照華は徐々に根を這わせて地中からもエネルギーを吸い上げ、肉体を新たに再生、強化していったのだ。長く時を掛けて。かつて以上の力を手にする為に。
もう負けない力を持つ為に。
「何か前より大きくなったね? せいちょ〜したって言うのかな?」
「前の体じゃあ弱いままだからな。お母さんが帰って来たとしても、もう守られてばかりじゃあいられないだろう。そう言う水浘愛も前より大きくなっているように見えるが」
「ま〜ね〜、淫夢巫ちゃんもおっきくなって強くなったんだから、水浘愛も負けらんないって言〜か〜。やっぱおっきくないと強くならないって言〜か〜。欄照華ちゃんが考えてることと一緒だよぉ」
「そうか、それでお母さんは何処にいる。それとこの草花はどうした」
互いに成長し、大きくなった体を見合い、以前よりも力が増しているのを感じ合う両者。
欄照華の体には今まで以上の力強さが滾っており、顔付きからも幼さが消え、心なしか目つきも前より鋭くなっている。一皮だけじゃあない、二皮、三皮と一気に剝けた欄照華は以前とは別物のように見えた。
しかしそれと同時にどんなに大きくなろうと欄照華であるのは変わりない。自身の前にいるのは家族であることに違いはないと水浘愛は感じ取っていた。その水浘愛もまた他の子達同様大きく成長し、背丈が伸びるだけでなく体の随所が豊かに膨らんでいる。ニコニコと笑っている為か一見まだ幼さが抜け切っていないように思える顔付きもよく見れば垢抜けており、頼もしさがあった。
「この草原は欄照華ちゃんのだよ〜。まだこんぐら〜〜いだった時、水浘愛が水あげてたら自然とこうなってたんだから。絶対欄照華ちゃんが何かしたんでしょー。お母さんに聞いても違うって言うし」
「いやっ…此方は何も…」
「じゃあ無意識のうちにやってたってこと? 流石だなぁ。だってこーゆーこと出来るの欄照華ちゃんの他にいないもん」
「確かにそうだが…此方…なのか…?」
そうして両者が再会するや、水浘愛はこの草原は欄照華が作ったものだと言う。されど欄照華にこの草原を生み出した記憶はない。ましてやこの草原を生み出そうと思ったことすらない。だが水浘愛曰く自身らのお母さんでないのならば、やはり自身がこの光景を作り出したと言うのかと欄照華は納得せざるを得なくなってしまう。
「まぁそんな小っちゃ〜なこといいじゃあん。この草原だって水浘愛達に害があるわけじゃあないんだし、さっ」
「それもそうだが…うぅん」
もちろんこの草原を生み出したのは他でもない欄照華だ。欄照華自身は覚えていないものの、大地に埋まりながら自身の体を再構築していく際に周りに大きな影響を与えていたのだ。秘められていた力は何もその全てが復活の為に用いられたわけではなく、周りの土壌を癒して新たな生命を芽吹かせてもいたのだ。
更にそんな欄照華が埋まる土壌に水と言う名の生命を与えたのは、同じく魔快黎様と言う存在を母親に持つ水浘愛。過去にも戦いに傷付いた家族の心身を己の体で包んで癒し、大地の奥底から吸い上げた水を濾過して与えていた水浘愛の能力は、癒しと乾きを求める生命に文字通り潤いと安らぎを与えていたのである。
そうして水浘愛と欄照華のお互いが持つ強力な能力によってこの草原は生み出されたのだ。
もっとも、当の欄照華と水浘愛はそのことに関して一切気が付いていないようだが。
「あら、起きたの。ずっと若芽のままかと思っていたけれど」
と、そこへスタリスタリと足音を立てながら淫夢巫が歩いて来る。かの戦いにて大きく成長を遂げた淫夢巫は蘇った欄照華を見るなり、ジッ…と鋭い目付きになってそう言った。すると欄照華も同様、いやそれ以上に強張った目つきで睨み返しながら淫夢巫の方を向き直る。
再会の証と言わんばかりにバチバチと目線が火花する両者。その間に立つ水浘愛は互いの顔を行き来しながら鎮火のタイミングを見計らう。
「そんな馬鹿なことがあるわけないだろう。汝が思う程此方は柔じゃあない」
「ふーん、相変わらずなのね、その生意気な態度。かえって安心しちゃった」
「淫夢巫ちゃんずっと心配してたもんね。欄照華ちゃんが何時までもこのままだったらど〜しよ〜って」
「余計なことは言わなくていいのっ」
次回の投稿もお楽しみに
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