帰って来た者、帰って来る者
お待たせしました
「それじゃあ体が完成したら余の方から遭いに行くからの」
「分かった、まぁ帰って来るまで俺が見守っているから。何かあったらすぐに飛んで行くよ」
「此処には余しかおらんから大丈夫だとは思うが…んま、そちの方がお母さんも安心か。必ず戻るから、何処にも行かんでくれよ」
「分かってるって」
そう約束し合ってから魔快黎様は我が子達を連れて漢妖歌と別れる。
本当に本当に生きていてくれて良かった、思った以上に元気でいてくれて良かった。
あの惨状をただ見ているしか出来ない自身を何度呪ったことか。傷付く我が子達に手を伸ばせさえしない、側に駆け付けることさえ出来ない自身を。
何度自身の心を自身の手で絞め上げたことか。自身の後悔と自責の念で何度自身の弱い心を呪ったことか。
皮肉にもそんな弱き自身、呪うべき自身への怒りと憎しみさえも糧として喰らって、今の魔快黎様の強さを創っているのも確かなのだが。
「…さんっ」
……ハッ
「ん? な、何?」
「お母ーさんっ。なーに気難しー顔してんだって」
「まだ引き摺ってるんでしょ、顔に書いてあ る。まぁ確かに反省はしていて欲しいけど、だからと言ってずっと曇っているのもどうなのよ。それも私達の前で」
と、そんな魔快黎様の衣をぐいぐい引っ張り、呆れ顔で話し掛ける水浘愛と淫夢巫。今尚自身を責めていた魔快黎様はハッとしながら我が子達の方を振り向き、反応する。が、ずっと考え事をしていた魔快黎様の頭には我が子達の言葉など入って来ておらず、何だ何だと焦りつつ応えていた。
「しっかりしてよーお母さんー。また水浘愛を不安にさせるのかよー」
パンパンッ
「分かってるって、もうあんなことにはならないってば」
「ほんとぅー?」
そんなお母さんを揶揄いながら腰元を叩き、シャンとしてと言い放つ水浘愛。もちろんその言葉自体は本心だが、これ以上お母さんの心が沈まぬような声色と言い方で。
「とか言いながらまた自分だけボロボロになるんでしょ。お母さんってそうじゃん。忘れてないからね」
するとそこへ淫夢巫がすかさず乗っかり、また自身だけ戦場に赴いてボロボロになるんじゃあないかと突っ込んだ。
「うっ…」
「…いや、否定してよ」
「淫夢巫ちゃん強いって、言葉が」
「えぇ…そう?」
水浘愛を倣った筈が、思った以上に鋭く決まってしまった自身の言葉に淫夢巫の方が却って困惑してまう。
「で、でも欄照華が戻って来たら、もっとキツイ言葉言われると思うよお母さん」
「……っ」
「それって認めちゃってるじゃん。淫夢巫ちゃん自身が、自分の言葉が強かったーって」
「あ〜…」
すかさずフォローを入れるも水浘愛によってダメ出しされ、呆れられた。そうして続ける言葉を失った淫夢巫はぷ〜っと口を尖らせ、翼と尾を垂れ下げながら黙ってしまう。すると水浘愛はやれやれと首を振ってから、
「ま、その欄照華ちゃんもこーして頑張ってるんだしさっ。ドギツぅ〜い言葉は帰って来てからにしよ」
足元に生える若草を指差してそう言った。そして、
「じゃあ行こーよお母さん。欄照華ちゃんが作ってくれた水浘愛達の場所へ。きっと欄照華ちゃんもそこの方が安心するだろうしさ」
「あそこね、お母さん分かる?」
「もちろん、ずっと見てたからな」
自身達が暮らしている場所、お母さんがいない中欄照華が新たに作ってくれた巨木のところへ行こうと告げる。その場所ならばこの荒んだ場所よりもずっといい、欄照華もきっと安心して復活出来るだろうと。もちろん魔快黎様も動けないながら見ていた為、それが何処にあるのか分かっている。
「でも漢妖歌は…」
だが自身がこの場を離れていいものか。自らの体を新たに作っている我が子の世界とこの世界を繋いでいるであろうこの場所から。
と魔快黎様は一瞬悩んでしまうが、
するんっ
「大丈夫」
「っ、漢妖歌」
「うぉっ、きゅーに現れた」
「改めて見ると…ほんとよく生きてるわね…」
突如その世界同士の隔たりを破り、穴を腕で広げながら漢妖歌が顔を出す。まだ体と繋がっていない頭を両手でしかと抱えつつ、するすると乗り出すように腕を突き出しながら漢妖歌は悩んでいる母親の元へ近づいた。
「余の世界とお母さん達の世界はぴたりと繋がっている故、この場から離れても何ら問題はない。あの場所を目的地にするのならば完成次第すぐにでも這って行くさ」
「…漢妖歌がそれでいいと言うのなら俺は止めないけど…」
自身がいる世界とお母さん達の世界は多少異なるとは言え、隣同士密接に繋がっている。だからお母さん達がこの場から動いたところで何ら問題などないと漢妖歌は説明した。その説明に魔快黎様は頭をカリカリと掻き、少し不安そうな顔を浮かべるも、我が子が大丈夫とない胸を張って言うのならば信じてやるべきかと頷く。
「はぁ、だから大丈夫だって、きっと帰るから何処にも行かずに待っててな。無論、淫夢巫も水浘愛も、余が戻るまでしっかりお母さんを見張っておいてくれよ。少し目を離すとすぐ何処かに行っちまうからな」
「はーい、がってんしょーち」
もにんっ
「確かに…ね」
ぐるんっ
そんなお母さんにため息混じりに漢妖歌はちゃんと帰って来るから心配せずに待っていてと、その時まで水浘愛と淫夢巫にはお母さんを見張っておいてくれと頼んだ。
水浘愛と淫夢巫はその頼みに対し任せておけと言わんばかりに返事すると、水浘愛はお母さんの片脚にしがみ付き、衣を指でがっちりと掴み、淫夢巫は自身の尾をお母さんの長尾と腰にくるくる巻き付けた。
「よしよし、それでいい。そうやってお母さんを繋ぎ止めておいとくれな」
「任せんしゃーい」
「任せておきなさい」
「タハハ…」
それを見るや漢妖歌はニッと笑うと、するする腕を引っ込めて自身の世界へと戻っていく。
「それじゃあ、また後で」
ぱたんっ
漢妖歌はそう言って世界同士を繋げている扉から手を離す。すると破れていた布が元の1枚に戻るかのように繋がりの穴は小さくなり、完全に閉じた。
「さて、じゃあ行くか。瞬間移動して行けばすぐだからな」
それを見送ってから魔快黎様はそう言うと、しがみ付いている我が子達の頭を撫でつつ目的の場所へ瞬間移動する準備を始める。自身の御体とそれに触れている我が子達に加え、すぐ側で根を張っている我が子も一緒に。
「えー、どーせなら歩いて行こうよ」
「賛成」
されど水浘愛はぐいぐいお母さんの脚と衣を引っ張りながら、歩いて行こうと持ち掛けた。淫夢巫もうんうんと頷きながら同意し、ぎりりっと絡み付く尾の力を強める。
まるで絶対に離さない、お母さんを二度と遠くへなどやらないと言わんばかりに。
「俺は構わないけど…疲れないか?」
「別に?」
「いや全く」
魔快黎様は少々戸惑いながら尋ねるが、水浘愛も淫夢巫も即座に否定する。
「せっかく会えた、こうして再会出来たのよ。すぐに目的地まで行くなんて勿体ない」
「話したいことたくさーんあるんだから。付き合ってもらうよお母さんッ」
「そういうことか…」
そして目的地まで歩いて行くまでの間は話しながら凄そう、せっかくの再会をもっと楽しもうと子達は言う。こっ恥ずかしいそうに、けれども待ち望んでいたかのように。そんな我が子達の顔に魔快黎様はそうかと静かに頷き、我が子達の想いを汲み取ると、瞬間移動の準備を解いた。
「それじゃあ、歩くか」
「そうね」
「欄照華ちゃんも連れてね」
ビュッ!
歩いて行くことが決まるや、水浘愛は自身の腕の一部を伸ばし、足元に生える欄照華の芽を周りの地ごとくり抜いた。更に根を傷付けぬよう丁寧に土をこそぎ落とし、液状の自身の体を通じて綺麗にしていく。すると水浘愛の手の中には見事に欄照華の全身のみが残る。
つぷっ…
にょんっ
「器用だな」
「えへへー」
その欄照華の体が崩れないよう水浘愛は自身の頭のてっぺんに突き刺すと、言葉通り頭を使って欄照華を支えた。
そうして厄災そのものとその子達は歩き出す。共に待ち望んでいた親子の会話と共に。
次回の投稿もお楽しみに
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