子供の想いと親の目と
お待たせしました
「さて、何であんなことをしようとしたんだ? 此処にはママしかいない。大丈夫だから、いい子だから、話してごらん」
しゃがみ、目線を合わせ、落ち着かせるような優しい口調ながらも真剣な眼差しで我が子のことを見つめる魔快黎様。けれどもその眼差しに対し、
「…」
欄照華は黙り、俯くようにそっぽを向き、顔を合わせようとしない。きっと何か話せないことがある、問いかけに答えられないこと、もしくは答えたくないことがあるのだろう。
「…黙っていちゃあ分からない。欄照華、話してくれるか。俺と欄照華だけの話だ、他の子達には話さないし、此処での話は聞かさない。約束するよ」
しかし話したくなくても、話してくれなければ分からない。どんなに無数の目で欄照華のことを見ても、それだけでその心の中にある真意を把握することは出来ないのだ。加えて目に力を入れて欄照華の心の中を全て覗き、解き明かしたとしても、その結果によって接し方を変えることが出来るのは自分だけ。魔快黎様はそう気が付いている、また子達の間であのようなことが起きても自身の手で止めることしか出来ないと分かっている。
「…」
欄照華が自身から胸の内を開き、抱えている悩みを自分から解決しようとしなければ、きっとまた同じことを繰り返すだろうと魔快黎様は思っていた。だからこそ欄照華から本音を話して欲しいと、魔快黎様は問い掛ける。
ギギ…
「……ママは……」
すると未だに目を合わせないものの、欄照華はちびちびと口を動かし、か細い声で話し出す。此処には自身と信頼出来るお母さんしかいないことと、お母さんの優しい声と真面目な表情に話そうと決断出来たからだろうか。けれども拳を軋む音が聞こえるくらい強く握り、わなわなと小刻みに震えている姿は、とても穏やかでない雰囲気を醸し出していた。
されどせっかく勇気を出し、決意を固めて話そうとしている。それならばそんな雰囲気に押されてはならないと魔快黎様は目を逸らさぬまま、真剣に話を聞く。
ギュギギ…
「ママは……ママは……こなたの…ママ…だ……よね?」
欄照華は震える声ながらも一言一言搾り出すようにして話し始めた。自分はお母さんの、魔快黎様の子供だと問い掛けて。
産んだ記憶などない、気が付けばこの子達は自身の側にいて、そして守らねばならないと心は言っていた。だからこの子達に名前を付けて、変化と言う成長を見守り、育てて来たのだ。
記憶がない故、この子達を産んだのは自分だと言う確証はない。
だがしかし、自分が守り、育てているこの子達は自分の子であり、この子達の親は自分であると魔快黎様は自負していた。
故に、我が子の問いかけにも、
「そうだよ」
魔快黎様はすぐさまそうだと答えることが出来る。
「そっ…か……そう…だよね…」
お母さんの答えに欄照華はほうと安堵し、口元を緩ませた。しかしその問いかけに答えることと淫夢巫に欄照華がしようとしていたことは、どうも繋がらない。
だがその繋がりはこれからの対話で分かる。何故あのようなことをしようとしたのか、理由をきっと欄照華は話してくれる。
そう魔快黎様は信じているから、話し始めた欄照華に対して何も言わず、その後の話も聞いた。
「ママは…こなたのママ…。だから…こなたのことをみてくれなきゃ…ぃゃ…いやだ!」
「…」
「もっと…こなたをみてよ…。なきわめいてるりんぷとか…かんようとか…めみあ…とかじゃあなく…こなたのこともみてよ!」
「…そう、か。ごめんね」
一度話すことが出来た欄照華の口はその後も多少はポツポツと途切れながらも、しばらく沈黙を挟むことはなく話し続ける。俯いていた顔も持ち上げ、涙こそ流さないものの瞳をうるうると潤わせ、しっかりとお母さんと目を合わせて。欄照華は自身の胸の内を、想いを、真意を語り出した。
自分を見て欲しい、その無数の目でもっと自分のことを見て欲しい。
他の子達だけじゃあなく、泣き虫で甘えん坊の淫夢巫だけじゃあなく、いつも構って欲しそうにしている水浘愛だけじゃあなく、体に興味を寄せ続けている漢妖歌だけじゃあなく、自分のことだって見て欲しい、甘えさせて欲しい、構って欲しいと。
欄照華は自身の想いを連ねて行く。
語られて行く我が子の想いと真意に魔快黎様はごめんと謝る。見ることが出来ていなかったことを、自分なりには見ていたつもりであったが欄照華からすればそうではなかったと言うことを恥じながら。
「寂しい想いをさせていたんだな。ごめん」
「ううん…ちがう…の…ママ…。ただ…ただ…こなたは…みてほしかった…ママに…こなたのことを…」
「見てるよ、ずっと」
そして魔快黎様はぎゅうと欄照華のことを抱き抱えた。すると欄照華は自身の体を抱く手に応えるように手を差し出し、お母さんの体を強く抱き返す。指の跡が体表に付いてしまう程強く、まるでお母さんは自分のものだと言わんばかりに。
だが欄照華の手の力は寂しさ故のもの、自身がこの子のことを意図せずとも蔑ろにしてしまったからだと魔快黎様は思い、尚もその子のことを抱き続ける。
そんなお母さんの温もりを欄照華は目を閉じ、身を委ね、
(ママ……ママ……)
ぎゅうう…
(こなただけのママ…)
安らかな表情でそう思う。
――
そうして欄照華を落ち着かせた後、魔快黎様は頭を撫でながら、これからはちゃんと見てあげるから、もうあんなことはするんじゃあないぞ、他の子達とも仲良くするんだぞと告げた。お母さんの言葉に欄照華は少々自信無さながらも頷き、頑張ってみると返事をする。この子ならば、欄照華なら必ずやれる、きっと大丈夫だと魔快黎様は信じると、待たせている他の子達の元へと共に瞬間移動した。
カトーンッ
「っ!
「ママー! らてすかてゃーん!」
「…!」
「欄照華。大丈夫だよ」
足音を立てながら降り立つと、真っ先に淫夢巫と水浘愛が気が付き、てとてとと拙い足取りながらも駆ける。その後を漢妖歌はとことこ様子を伺いながら着いて行き、長い尾にしがみ付こうとしていた。
そんな子達を見て魔快黎様の右手に抱かれている欄照華は一瞬ドキリと強張るものの、魔快黎様の大丈夫と言う言葉を信じてするりと腕の中から降りる。
と、次の瞬間、
にゅるるるぅん
「なっ…!」
ねとねと
「にひひ、らてすかてゃ〜ん」
むにに…
水浘愛はお母さんである魔快黎様ではなく、帰って来たばかりの欄照華に向かって行くと、変幻自在の透き通った体でその体に纏わり付いた。どんなに欄照華が手で退けようとしても水浘愛の体は離れず、むしろもがく度ねばねばと更に引っ付いて来る。
「はなれろ…!」
「やだ。らてすかてゃんのことすきだもん」
「…! なにを…!」
自身を剥がそうとしている欄照華のことが好きだと笑いながら言って。
「ママ…あれは…?」
と、そんな欄照華と水浘愛の絡み合いを見て淫夢巫は抱き抱えられながら、あれは一体何なのとお母さんに尋ねる。
「水浘愛の気持ち、だよ。好きだと言うのなら、俺も淫夢巫のことが大好きだよ」
「わっ……わ……わたし…も……!」
「……よ…は…?」
「もちろん、漢妖歌のことも大好きだ。俺の子だもの」
魔快黎様はその問いかけに対して、あれは『好き』と言う気持ちであり、自分達が持っている感情だと教えた。水浘愛が欄照華のことを好きだと思っているのと同じように、自身も淫夢巫と漢妖歌のことが大好きだと言って。
するとそんなお母さんの言葉に手に抱かれている淫夢巫も、尻尾にしがみ付いてかぷかぷと甘噛みしている漢妖歌もわぁっと表情を明るくし、お母さんの体にぎゅうと力強く抱き付く。
そんな我が子達に魔快黎様の頬は緩み、左側は牙が覗く程にまで裂けている口は静かに笑い、
ギョロギョロギョロッ!
(……何だ。何かが、来る)
そして無数の目はこの混沌としている世界に何かが迫っているのを捉えた。
次回の投稿もお楽しみに
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