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第2話 婚約の申し込み

 自分の屋敷に戻ってからも、ラースの憂鬱は変わらなかった。

いつもは頭に入ってくる獣医学の本も、今日は何も頭に入って来ない。


「はぁ、なんて説明しましょうかね……」


 伯爵である、父はまだ仕事で外に出ている。

それも、あと数時間で帰ってくるだろう。


 すでに、婚約破棄されたことについては父の耳にも入っているかもしれない。

いや、確実に入っていることだろう。


 リビングのソファーに座り、紅茶を口に含む。

いつもは、美味しいと感じる紅茶の味も今日はよく分からなかった。


「お嬢様、大丈夫ですか? 少し休まれては」

「大丈夫よ。ありがとう」


 彼女はラースがまだ幼かった頃から、お世話をしてくれているメイドだ。

ラースの身を心配してくれているのだろう。


 そして、外が暗くなり始めたタイミングで父が帰ってきた。


「遅くなった」


 父は、それだけ言うと私の対面に座った。


「ラドバルに婚約破棄されたそうだな」


 やっぱり、父の耳には入っていたらしい。


「はい、その通りです」

「それで、新しい婚約者はミーシャだと聞いたが」

「それも事実です」

「はぁ……」


 父は大きくため息をついた。


「ラース、すまなかった」


 父がそう言って頭を下げる。

思った反応と違った。


 怒られるものだとばかり思っていたラースにとって、この反応は予想外である。


「いや、お父様が謝ることでは……」

「ミーシャのことは少し甘やかし過ぎたのだ。その結果がこれだ。お前には苦労をかけてしまった」

「もう、大丈夫ですから頭を上げてください」


 その言葉で、父は頭を上げた。


「それで、急だとは思ったんだが、ラースに早速婚約の申し出があった」

「え、どなたからですか?」


 婚約破棄されたばかりの伯爵令嬢に、誰が婚約の申し出をしてくるのだろうか。

まだ、婚約破棄の情報すら回っていない状況だろう。


 それに、公爵家の後継に婚約破棄された令嬢に婚約を申し込む人間など、よほどの変わり者ではないだろうか。

今のラースはイメージ最悪であるのだ。


「オーランド辺境伯の御子息のクレイン・オーランド様だ」


 クレイン・オーランド次期辺境伯。

まだ、幼い頃に一度会ったことがあった気がする。


 辺境伯は侯爵にも匹敵するほど、権力を持った貴族である。

その力があれば、伯爵令嬢が婚約破棄されたという情報もすぐに手に入るのかもしれない。


 それでも、ずっとラースの状況を監視でもしていなければ、できない仕業であろう。


「クレイン様がお前に会いたいとおっしゃっている。どうする?」

「わかりました。お会いします」


 次期辺境伯ということは、すぐに領地にお帰りになるのだろう。

そうなったら、しばらくは王都には戻って来れないはずだ。


「そうか、なら明日にでもその席を設けよう。構わないか?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」


 こうして、なぜか婚約破棄されたばかりの令嬢に婚約の申し出があった。

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