かの星に意味はあるのだろうか
ニャルラトホテプとアザトースがきたというのに、ハスターはふてぶてしくも玉座に座り肘をついてくつろぐ姿勢を見せていた。
「不敬であろう。黄衣の王よ。貴様が見下ろしているお方が何者か、まさか理解していないはずがなかろう?」
「是。しかし否。カルコサにおいて我こそが黄衣の王であるが故に。我以外は王にあらじ。ならば睥睨するも道理である」
「...めんど」
黄衣の王、もといハスターは本当に面倒な存在だ。何せアザトースに対してこのような舐めた態度を取れるだけの力を持っている。もちろん、今ハスターの目の前にいるのがヒトの化身ではなく本体のアザトースであればハスター程度、本体が内包する無限大のエネルギーによって手を下さずとも消失するだろう。だが仮にアザトースがこの存在を潰そうとすればまず間違いなく地球が余波で消し飛ぶ。それだけは非常にまずい。そもそも『白痴の王』アザトースや『門にして鍵』ヨグ=ソトース、『黒き豊穣の女神』シュブ=ニグラスなどの『外なる神』が完全に顕現できる場所などほぼ存在しない。だからわざわざアザトース達はヒトの化身でカルコサにやってきたのだ。
「何イキってるんですか貴方は...デカイ口叩いてないでさっさと這いつくばることをお勧めします」
「断。しかし是。賓客持て成さぬ王、王にあらず」
そう言ってハスターは玉座から立ち上がりアザトースの元まで滑るように近づくと、裾から酒瓶とグラスを取り出す。透明な酒瓶の中には琥珀色の酒が妖しく輝いていた。ハスターは慣れた手つきでグラスに注ぎ、アザトース達に渡してくる。
「黄金の蜂蜜酒...やはり美味ですね。最初からそうすれば良いんですよ全く。...ところで陛下、お味の程は...お気に召さないようですね」
ニャルラトホテプがアザトースを見下ろすと、苦い顔をしていた。ハスターは纏っている黄衣のせいで顔は見えなかったが、なんとなくため息を漏らしているようだった。ニャルラトホテプにグラスを渡した後、アザトースは本題へと入る。
「...ほんだい。アルデバラン知ってる?」
「是。アルデバランは我が支配域。......求。何故に知らんと欲す」
「それ私めも気になります」
「...ええっと...『脳の接続』」
最初説明をするためかゴニョゴニョと何か言っていたが、諦めたのか魔術で脳を接続して直接ハスターに送り込む。最初ハスターに抵抗されたがアザトースは強引に接続を完了させて情報を流し込んだ。
「了。我と重なる神が在り、何か知らぬかと...」
「ハスター。陛下のご足労に見合うだけの情報を吐かないなら、それ相応の報いを受けて貰いますよ?」
「疑。如何なる手段か」
「世界定義の石碑に全ての言語で「ハスターは下等生物にもオツムが負けてるアホです」と書き込んであげますよ」
「怒.........見合うことか。何者かが我を知り、似姿を産み落すなら、似姿もまた我の一部とならん。ならぬとならばその似姿、我にあらず」
「...つまり?」
「結。アルデバラン我と重なれど、似姿までならず」
「...?」
「帰りましょう陛下。コイツアホ呼ばわりされたいみたいです」
「......白痴の王よ。一つ神託を。...『アルデバランは相食むモノなり』」
「...なるほど。なるほど?」
「陛下、ハスターのやつはちゃんと教えるつもりはないようですね......そうだハスター、書いてほしくなければ分かりますよね?」
「蔑。持ち帰るが良い」
凄まじく不愉快そうな声でハスターはニャルラトホテプに黄金の蜂蜜酒を投げ渡す。ニャルがそれを大事そうに虚空に仕舞い込んだ後、アザトース達は自らの居城に帰っていった。砂が舞い散る音しか聞こえなくなった頃、ハスターは静かに玉座に戻り深く溜息をつく。アルデバラン、なんと不快な存在であろうか。存在そのものが恥も恥、大恥だ。神託の内容を直接的に言えば、ニャルのやつに向こう千年は笑われるだろう。
「否」
しかし特異点たるアザトースが関わるというのなら、己にはどうしようも無かった、干渉さえ許されなかったそれを解決できるのかもしれない。
「望」
グラスに残った琥珀色の液体をしばし眺めて、ハスターはゆっくりと杯を傾けた。
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