The King in Yellow
「...おどろき」
かなりショッキングな見た目だったアルキオネにアザトースは少しびっくりしたが、コウタとこはくはそれ以上だったようだ。コウタは目元を両手で覆い隠しているし、こはくは口元を押さえて何かを堪えている。
「やっぱ引くよね〜誰だってそーするし自分もそーする」
乾いたように笑いながらアルキオネは外していた兜を被りなおす。
「鎧の裏はもっと酷いけど...見る?」
「フッ...僕は遠慮しておきます」
「アタシもです」
「...なら、わたしも」
三人の素早い返事に笑いながら、アルキオネは途切れた話をもう一度始めた。
「多分これで自分が彼女を殺したいと考える理由はわかってくれたと思う。そしてここからはアルキオネではなく、女王としてのお願い。聞いてくれる?」
アザトースが二人を見上げると、コウタは親指を立ててその意思を示し、こはくはいい笑顔をアザトースに向けてその心を示している。
「...じゃあ、きく」
「うん、うん。自分が君たち『人でなし』にお願いすること。それはアルデバラン、そしてその『使徒』の討伐だよ」
「...しと?」
「『神隠し』について知ってる?あれを引き起こしている存在だよ。アルデバランの代わりに夜な夜な人を食らって彼女の欲望を満たしているのさ」
「やはり『神隠し』とアルデバランには関係性があるんですね」
「もっとも使徒を知らぬ民草にとって、『神隠し』なんて殺人鬼か怪物の仕業か何かだと思っているのでしょうがね」
モトベの付け足しにアザトースは納得する。だからサンシャイン通りで買い物をした時に店主が『神隠し』から逃げ切ったと思ったのだろう。
「それではその『使徒』についてどこにいるかとかわかりますか?」
「この街のどこか...としか言いようがないかな。でも現れるのは決まって夜遅くだよ。そうだよね?モトベ君」
「おっしゃる通りです。正確に言えば『使徒』は陛下が眠っている間にしか現れることができません。『使徒』、陛下、アルデバランは魂に繋がりを持っています。陛下とアルデバランの繋がりは『使徒』とアルデバランのそれよりも圧倒的に強く、陛下の意識があるときに人喰いを行えば即座に魂のつながりを辿って『使徒』を見つけることができます。」
「一度七日くらい徹夜したことがあったんだけど、あっちもあっちで自分が起きてるかどうかくらい簡単にわかるから無駄骨だったんだよ」
ため息をついて首を振るアルキオネとモトベに、こはくが新しく質問をする。
「じゃーさ、他に目立つ印的なのないの?」
「自分は見たことないけど、文献には恐ろしいほどに黄色いローブを纏っているとあるね...」
「...きいろ...アルデバラン...... どこかで」
「アザトースさん、どうかしましたか?」
「...なんでもない」
「そうですか」
アルキオネ達は他にも何か色々と話していたが、アザトースは自分の中に浮かぶ一つの疑惑でいっぱいになっていた。旧い旧い記憶を掘り起こしていくうちに疑惑は確信へ変わっていく。
「...コウタ、こはく。ろぐあうとする」
「えっ!?このタイミングでですか!?」
「もう寝る時間だったりするの!?」
「...バイバイ」
二人がまだ何か言っていたが、アザトースの耳には入らなかった。意識と仮想世界の繋がりが途切れ、現実世界...ヒトにとっては現実とは到底言い難いが、ともかく自分の居城のある異次元空間に戻ってきたアザトースだが、とりあえずニャルラトホテプを呼びつける。虚空から見慣れたスーツ姿が現れる。いつもの頭が触手になっている方ではなく、今回はヒトの顔のようだ。おそらくヒトの世界で暗躍していたのだろう。
「およびでしょうかぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「...よんだ。カルコサにむかう」
「...望みのままに」
とある星には、黄色い砂の舞う滅びた町がある。残された、あるいは残った存在はたった一つ。その者は古びた玉座に座り、悠久の流れを眺め続けている。恐ろしいほどに黄色い襤褸布を纏い、陰で隠れて見えぬその顔から一体何を待ち侘びているのだろうか。それは誰にもわからない。ただ一つだけ言えることがある。今玉座に座るものにとって目の前で起きていることは間違いなく驚くべきことなのだろう。そして決して待ち侘びていたものではないのだろう。どこからか、不快極まりないフルートと太鼓の音色が聞こえてくる。黄色い砂に紛れ、スーツを着た浅黒い肌の背の高い色男に連れられて、灰のような幼い少女が歩いてくる。
「陛下の御前ぞ。玉座を降り頭を垂れるがよい。黄衣の王よ」
「珍客...否。賓客か....?」
「...おひさ。ハスター」




