貫け、牡牛の心臓 その3
「...よわっ」
もはや何度目かわからないほどに突進しては地面に叩きつけられる牛闘鬼の姿を見てアザトースは思う。おそらく目の前の牛に負けることはないだろう。『薙ぎ払われた大地』でも『空間の掘削』でも発動してしまえば即死させられる。しかも生まれ持っての肉体の強度からか、それとも知能の浅さからかコイツは避けることを知らないらしい。アザトースの勝利が確実とは言え、一つだけ問題がある。
「...しんぞうどこ」
アザトースは神ゆえに心臓がどこにあるのか、どんな形をしているのか知らなかった。故に牛闘鬼の命をいつでも消せる状態だったが、心臓を誤って消滅させてしまうことを恐れてなかなか手を出せなかった。突進を利用して地面に何度も叩きつけて気絶を狙ってみたが下手にタフなせいであまり意味を成していない。
「...どーしよ」
その時コウタが戦っている方から爆発音が鳴り響く。思わず振り向くとコウタが熊の男、確かカイザとか言う輩の爆発にいいようにやられているところだった。コウタは自分と違って近〜中距離戦がメインだ。遠距離からの攻撃には弱いのだろう。
「...そだ」
雄叫びをあげて性懲りも無く突撃してくる牛闘鬼をみてアザトースは一つ思いつく。目には目を、歯には歯をだ。
カイザの爆発によって生じた黒い煙の中から、コウタがゲホゲホとむせながらも出てきた。鎧がところどころ壊れているものの、彼自身の体にはほとんどダメージが見られず、カイザは自分の魔法の威力を知っているだけに誰よりも驚いていた。自分の魔法は鎧を着た男一人くらいなら爆発で吹っ飛ばすことができる。至近距離で爆発を受ければ鎧はただの鉄屑になるはずだ。それなのに傷らしい傷もなく爆発の煙から悠然と出てくるとは。
「...思っていたより硬いんだなアンタ」
「...え?あ、ありがとうございます...じゃなくて!フッ......貴様に褒められる筋合いなど無いさ」
キテレツな反応をするコウタに妙な感覚を覚えつつも、カイザは再び魔導書のページを破り取る。彼があの威力に耐えるのなら、更なる威力のページを使うだけだ。
「カイザ君のあの魔導書、やはり強力だね。ノータイムであの火力、しかもそれを大した隙を見せずにブッ放すなんて芸当自分でも無理だね〜。太陽と称されるだけのことはあるよ。モトベ君、あの鎧の子は勝てると思う?」
「私見にはなりますが女王陛下、鎧の彼、コウタ氏が勝つのは厳しいかと。彼の戦い方から察するに遠距離の撃ち合いには強くなさそうですので、このままカイザ氏の爆撃で終わりでしょう」
「そうだよね〜でも彼らはチームで、しかも『人でなし』だしね。予想外の方法で巻き返すかも知れないよ?」
「なるほど、参考になります...ん?女王陛下、牛闘鬼が!!」
「あのお嬢ちゃん随分遠くに投げ飛ばしたね〜。...あれわざとかな?」
アザトースに投げ飛ばされた地面に牛闘鬼が音を立てて衝突した地点、それはコウタとカイザの間だった。幾度も大地に打ちつけられて完全に意識が混濁している牛闘鬼にとってもはや周りにいるヒト二人がアザトースなのかどうか判断する理性は残っていなかった。雄叫びをあげて、カイザとコウタに突進した。




