あいあむ絶対神
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さっぱりわからない。それがアザトースの偽らざる思いだった。その思いが態度に出ていたのか、グリム神父は悪魔のような笑みをさらに深めながらこの世界についてゆっくりと話し始めた。
彼曰く、この世界に残ったヒトはごくわずかで、人の手に負えない化け物が歩き回っているため同じく残ったわずかな神の教義に従うことで力を分けてもらいなんとか生きているということ。
曰く、たまにどこからか人が流れ込んでくる。そいつらは皆一様に左手首が紫に腫れいるのが特徴でたとえ死んでも蘇るため『人でなし』と呼ばれていて、秘められた使命を持っていること。
曰く、グリム神父は『人でなし』の要望を聞き、それに沿った教義の神の所へ連れていくためにここにいるということ。頭を握りつぶしたことは本当に『人でなし』かどうか確認するのに一番手っ取り早いからなので、罪悪感は一切ないということ。
「...説明は終わりだ。さてお嬢ちゃん。何を求めるのかね?敵を打ち砕くための武器か?真理のための叡智と魔術か?それとも夜の闇に紛れ殺すための呪いか?求めたものに相応しい神の元へお連れしよう」
グリム神父の質問に対して、アザトースの答えはたった一つだった。
「...やだ」
「なんだって?」
信じられないという顔をするグリム神父に対して、アザトースは迷いなく一言告げる。
「...わたしのかみはわたしだけ」
そう、絶対の神であるアザトースにとって他の神のことを信仰することはあり得ないことだった。これがゲームだとわかっていても、自分より格下の神性を信じることなど出来はしない話だった。
「...ここまで面白いとは思わなかったよ、お嬢ちゃん。だが本当にいいのかね?お嬢ちゃんはこれから力を得て、生き延びることは難しくなるぞ?」
落ち着きを取り戻し、グリム神父は笑みを消してアザトースにそう尋ねた。その質問に対する答えもまた、たった一つだった。
「...のーぷろぶれむ」
「ククク...いいとも。では次に来る電車に乗って行きたまえ。ここにいても何も起きないからな」
邪悪の権化のような笑みでしばらく笑った後グリム神父が指をパチンと小気味よく鳴らすと、タイミング良く電車がやってきた。ただ、電車は一応動いているとはいえ表面が錆び付いている上に苔むしていて、明らかに整備不足に見えた。更に乗り込む時に床がギシギシと嫌な音を立てたのでアザトースは少し心配になった。電車のドアが閉まりアザトースを乗せて走り出した後、グリム神父は一言ポツリとつぶやいた。
「あのお嬢ちゃんは何度死に、何度目で気が狂うのだろうね?」