はじめて
ゲームを始めてすぐに世界は暗転し、何も見えなくなった。アザトースがどういうことだと驚いているうちに、左手首のあたりに注射をされたときのような痛みが走った。直後周りは少しずつ明るくなり、気づけばアザトースはボロボロの部屋の中心に置かれたベットに横たわっていた。痛んだ手首を見てみると紫色に変色して少し腫れていて、まるでグロテスクな腕輪をつけているようだった。
「...そとにでよう」
慣れないヒトの体を動かしながらアザトースが部屋の中に一つしかないドアに手をかけると、ミシミシと嫌な音をたてながら開いた。ドアの先には廃墟ではあったが、現代的かつ都会的な街並みが広がっていた。人の姿はほとんどなく、道路沿いに立ち並ぶビルのガラスはほとんどがひび割れ、塗装はほとんど剥げ落ちていた上に設置されていた広告ディスプレイはかつて流れていたであろう広告を途切れ途切れに流すだけだった。
そんな寂れた街並みをアザトースが見物していると、遠くの方に男が一人立っているのを見つけた。長い髭を生やし銀縁の眼鏡をかけ、白髪混じりの長髪を後ろでまとめた大柄な老人で、薄汚れた神父服を着ていた。話しかけてみようとアザトースが近づくと老神父は気付いたのか、ギロリとこちらの方を睨んだ。その姿はヒトというよりも獣に近かった。
初対面の人に話しかけるときはなんと言えば良いのだろうか?アザトースがそう考えている間に老神父はジリジリと近づきながら、標的を見定めようとする狩人のような目つきでアザトースを観察していた。そしてアザトースの腫れた左手に視線が移ったその瞬間、コマ送りにしたかのような早さでこちらに走ってきた。そのあまりの速さにアザトースは何もすることができずに頭を掴まれ、行動する暇もなく、
そのまま万力のような力をかけられてグシャリと頭を握り潰された。
再び視界が明るくなると、アザトースは地下鉄のホームの椅子に座っていた。目の前にはさっき自分の頭を握りつぶした男が立っていた。駅内は明るかったが霞が掛かっているような感じで、現実味の無い空間だった。
「蘇った気分はどうだね?お嬢ちゃん」
「...うまれてはじめてしんじゃった。おどろき」
「随分面白いことを言うもんだね、お嬢ちゃん。ここはどこだ?だのお前は誰だ?だの言い出す奴らがほとんどなのだがね」
「...ヒトはしんだらそういうの?............じゃあ、ここはどこ?あなたはだぁれ?」
「本当に面白いね......ここ、狭間駅はお前たち『人でなし』共が死ぬと流れつく場所だ。ただの中継地点に過ぎない。行きたいところがあればやってくる電車に乗ればいい。それと俺はグリムだ。グリム神父とでも呼んでくれ。これで分かったかね?」
そういうとグリム神父は獰猛な笑みを浮かべた。