からだ
魔王、暗黒の太陽、盲目にして痴愚の神、混沌の泉。様々な呼ばれ方、扱われ方をするアザトースだが、共通する点としては隔絶された力を持つとされるところだ。かの神性は少なくとも惑星一つを容易く、それこそ息を吐くように生み出すことができるだろう。遠大なるアザトースに作り出せぬ物などないのだ。しかし、そのアザトースの力をもってしても不可能なことがある。それは...
「...キャラクターメイクって、なに......」
アザトースには作り出せぬものなどないというのは間違いではない。しかし、作り出したものが素晴らしいとは限らないのだ。アザトースは創造物の良し悪しは理解できなかったが、アザトースが手ずから作り出したヒト型の化身に対してカスタマーAIが強い嫌悪感を示したことは理解できた。
そもそもアザトースはヒト型の化身を創り出したことがない。ならば、そういったことが最も得意な神性を呼び出すべきだろう。そう決断したアザトースは静かに虚空に向かって囁いた。
「ニャル、きて」
「およびでしょうかァァ!!!!!」
随分と威勢の良い声と共に虚空から躍り出てきたのは、化け物と呼ぶのがふさわしい存在だった。体型や肉体のサイズ、声色に服装はヒトのそれだが、一点異なる部分がある。ヒトであれば頭があるべき部分に代わりに一本の巨大な血に濡れたような赤い太い触手が生えていた。触手の根本、つまり喉仏のあたりには裂け目があり、そこには鋭い歯が放射状にびっしりと生えていた。カッチリとしたスーツを着込んでいるのもその存在の異質さ、悍ましさを強めていた。
「陛下ッッ...よくぞ、よくぞお目覚めになられました ...このニャルラトホテプ、感涙の極みです!」
頭の触手をピクピクと震わせながら、ニャルラトホテプはアザトースに対して恭しく一礼した。アザトースとしてはこの神性の忠誠心は買っていたが、オーバーな態度は少し面倒だと思っていた。
「...そういうのいいから。おねがいがあるの」
「何なりとお申し付けください。このニャルラトホテプ、絶対なるアザトース様の願いとあらばヨグ=ソトースの門の前にさえ赴きましょうぞ!!!」
「...だからそういうのいいから。あのね、けしんがほしいの」
「...お出かけ用でしたらザーダ=ホーグラがあるはずですが。あれなら一兆度の火球ですら意に介さないので安全ですよ?」
「...そうじゃなくてヒトのやつがいるの」
「......下等生物型の化身ですか...偉大なる陛下がそのようなものをお求めになられる理由が私めにはわかりませぬが...お任せください。このニャルラトホテプ、必ずやあなた様にふさわしい下等生物型の化身を創りましょうぞ!」
「...がんばってね」
奇声を上げながら感謝の言葉を述べ続けるニャルラトホテプを横目に、アザトースは新たな自分の化身について思いを馳せていた。
数時間後。
『アザトース様ですね!お久しぶりです!それではキャラメイキングに移りましょうか!』
「えっと...このけしん...じゃなくて...その...このからだ?をそのままつかいたい」
『ほぉ......低身長銀髪ロングアホ毛美少女ですか...前と違ってなかなかの出来ですね...一応言っておきますけれど現実世界のあなたと見た目を全く同じにしないでくださいね?無用なトラブルのもとになりますので』
「......そこはだいじょぶ」
現実の自分の見た目など、ヒトには理解できないだろうから。その言葉をグッと飲み込み、最悪の邪神は新世代VRMMO「ラストリゾート」の世界へ踏み込んだ。