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最悪の邪神がログインしました。  作者: 歯車ぐるり
坩堝の呪い、痛みとなって
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分裂するRR

夜を渡り終えたので更新です。

 アザトースは、全能である自分の判断と行動には基本間違いはないと考えている。間違いがあったとしても未来から見て結果的に間違っていただけであって、今この瞬間を切り取って考えた場合常に自分は正しいと思っていた。ヨグ=ソトースと違ってアザトースは未来をふわっとしか観測できない。観測というよりアザトースのずのうしすうから導き出される予想に過ぎず、ヨグ=ソトースの絶対的観測とは程遠いものだった。自ら「瞳」を閉じたが故であり、それで良いと思っていた。

 実際のところ、それは間違いではない。ただ、今日は未来が見えた方が良かったかもしれない。


『......ねぇ』


「ひぐ......ひぐ......」


『....ぬぬぬ』


 真っ二つに引きちぎられた後、少女の主観的視点において冒涜的行為を受けてからは、アザトースの目の前でうずくまって啜り泣いていた。


『...なにがゆえに、ひぐひぐをしてるの?』


 アザトースが何かをした後に誰かが泣いている時、それは大体喜んでいる時だった。だが、今の少女が喜びで泣いているわけではないことはアザトースでもわかった。少なくとも、感情はマイナスだ。


『......かなえそこねた?わたしが?』


 アザトースはアザトースの行動に筋が通っていると思っている。「帰りたい」と叫ぶ肉体と、「帰りたくない」という意思がかち合っている。両方とも同時に叶えば問題がない以上、意思と肉を切り分けてしまえば問題ではないはずなのだ。ゆえに、アザトースは少女の体を引き裂いて彼女の意思を取り出した。もちろん、バラバラにしたままの肉では、生物は死亡することくらいアザトースも知っている。故に、『肉体の補填(パテ)』を使って再生してあげたのだ。もちろん、意思だけでも生きていけるとは思えないため、アザトースの体をちぎって体を用意した。つまり何の問題もないはずで、事実「帰りたい」ほうはすぐにどこかへと向かって行った。アザトースにとっての『普通』の範疇で考えるならば、合理的かつパーフェクトな回答だった。しかしルルの意思は今マイナスの感情を抱いている。


『......ヒト......もしかしてぶんれつしたことない?』


 早急に確認を取る必要があった。




 ~~チャットを開きました~~


 アザトース:ぶんれつしたことある?


 コウタ:いやないですけど


 コウタ:もしかして人型で分裂するタイプの敵が出たんですか?


 アザトース:そうではない。ルルというしょうじょ


 コウタ:ルル?どっかできいたことあるような...『人でなし』ですか?


 アザトース:のー。すなわちちがう


 コウタ:NPCですか。でも、二人以上になるなら人間じゃないか、何かしらの影響を受けているのでしょうね。普通はありえないですよ。


 アザトース:なぬ


 ~~~アザトースはチャットを閉じました~




『...ありえないはなし』


 まさか、まさかヒトが分裂を果たしたことが未だかつてないとは思わなかった。アザトースは恋歌(コウタ)やこはくとの邂逅を経てヒトという物を評価していたつもりだったが、意外にもそこまでの領域には達していなかったようだった。見込み違いだったのだろうか?そう考えるのは少し早いだろう。アザトースはがっかりする前に少し頭を巡らせた。もしかしたらヒトは()()()()()()()()ということかもしれない。成長とは一方向のみとは限らないのだから、アザトースの知っているモデルケースのみで考えるのは少し良くないだろう。アザトースは賢く謙虚で思慮深い自分のことを心の中で褒め称えた。しかしながら、アザトースが引き起こした現象はちょっと褒め称えにくい。


『...あなた。うずくまってるほうのあなた』


「は、はい」


 彼女のまんまるの目玉はひどく収縮していた。充血している瞳には白い部分がないのではないかと思わせるほどだった。


『......ぶんれつしたことは。あるいは、みたことは?』


「ありません。決して全く一度も!」


 彼女は食い気味にそういった。まるで一言でも間違えたらまたバラバラに引き裂かれて死んでしまうと考えているようだった。


『...あなた、なまえをいって?』


「る、ルルです」


『......そ......ル・ルル。あやまるね』


 アザトースはペコリと頭を下げた。アザトースはわずかに頭を下げる行為を人間において、挨拶・お礼・謝罪をこなす万能なツールであると理解していた。もし仮にニャルラトホテプが見ていたら、「陛下より頭が高いなどあってはいけません」などと言いながら即座にルルの頭部を地面へと埋めているだろう。当然、自分の体を腰まで埋めながらだ。しかしこのだだっ広い泥の平野にアザトースが頭を下げることを許せない存在はいない。


「あ、あっあの上げてください!上げてください頭!」


 頭部を上げて欲しいと懇願されたのであれば、神たるアザトースはあげるしかない。


『...ル・ルル。ひとつにもどる?』


「え、いえ。戻りたく...ないです。あと、ルルです」


『......そ。ア・トルル。つまり、ばいばい』


「......あ」


 結局、分けたことは正解だった。そうアザトースは認識した。抱いていたマイナスの感情は、肉体の破砕・消失というイレギュラーに対応できず反射的・本能的に涙が流れたのだろう。コウタが爆散したりこはくが人喰いをしたりしていたせいで、認識がずれていたらしい。全ての人間が自らの肉体を失うことに耐えられるわけではないのだ。ア・トルルをおいて、アザトースは歩き出した。


『......ん?』


 アザトースは「精神」と「肉体」を切り離した。ならば、反射的・本能的な衝動など起こりうるはずがない。喜びも悲しみも、全てのア・トルルの意思の統制の元にある。決して、悲しくてうずくまることなどあるはずがない。つまり、精神を切り離そうとした時に、本能–––すなわち肉体–––もくっついてきたということだ。アザトースは思索とともに、泥の荒野をひたすら歩く。


『......かなえたいことばかり』


 数多の意思を取り込んだアザトースは白痴の王の本質、願いを代行する装置への回帰を果たした。すなわち半ば無意識に彼女の瞳は伏せられ、幼い情緒は上位存在のそれへと退行した。それは、目を閉じている間は願いを叶える相手を選ばないということ。


「あのっ...!あのっ...!!」


『......()()()()()()()()()()()?』


 アザトースは後ろから届いた声を聞き届け、閉じていた瞳を開いた。ステンドグラスを円形に成形したような瞳孔がぐるぐると動いたのち、先ほど泣いていた幼い少女を見た。聞き届けた願いの持ち主とは、全く違う気がした。


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