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最悪の邪神がログインしました。  作者: 歯車ぐるり
神は目覚め、種火は継がれた
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燃殻の試練 その4

 コウタとオスカー、二人の戦いは熾烈を極めていた。コウタの大剣の一撃をオスカーは自前の武器で綺麗に受け流し、逆にオスカーの火炎をコウタは魔法で作った大盾を用いて完全に防いでいた。互いに何度もダメージを与え合っていたが、決定打となる一撃を叩き込む機会はコウタにもオスカーにも回ってこなかった。しかしその一進一退の攻防はしばらくたつとオスカー優勢に傾き始めた。

 オスカーが火炎を何度も何度も浴びせる内にコウタの動きが段々と遅くなっていく。荒く浅い呼吸が増え、剣捌きは緩やかになり、盾を構えるときの機敏さも失われ始めていた。それもそのはず、オスカーの身に燻り続け、そして今コウタに向けられている炎はココロ、つまり正気度を削り取る。たとえ炎そのものによるダメージをガードし切ったとしても、少しずつ正気は貪られて体を思うように動かせなくなることは避けられない。

 とにかくオスカーから距離を置こうとコウタが力を振り絞って横薙ぎに大剣を振るうと、その意図を読んだのかオスカーは低い姿勢から刃の下に潜り込むような形で避け、そのままコウタの鎧の薄い部分をを釘バットで殴りつける。腹に響く衝撃と熱で胃液が逆流しそうになるが気合いで耐えてその場に踏ん張り、盾を使って押し出すようにしてコウタはオスカーを殴りつけた。至近距離のため体重が乗り切らなかったが、オスカーをよろめかせた隙に距離を取ることに成功した。HPを回復したかったがその余裕はない。オスカーはもう立ち上がりつつあるのだ。呑気に瓶を開けていればその間にまた殴り飛ばされるだろう。回復系の魔法を修めているならばともかく、コウタは自分の使用できる魔法を「黒曜石の生成」に絞ることで魔法と騎士としての能力を両立させているタイプなのでその手の魔法はからっきしだった。

 コウタは不毛な考え事を打ち切ってオスカーの方を確認する。盾で殴りつけた位であの男が死ぬとは到底思えないがこれまでの攻防で何回かあいつを切りつけてはいるのだ、少しくらいふらついていたりしないだろうか。そうだったらいいな程度の考えとはいえ、その予想は外れることになった。


「タフすぎるでしょ...」


 ゆっくりと立ち上がり汚れを払う仕草を見せるオスカーに疲弊したような様子は全く見られなかった。それどころかその体を燃やす炎はさらに勢いを増していて、左腕だけだったのが左胸の辺りまで蒼い炎に置き換わっていた。全身の傷跡から漏れる炎の輝きもだんだんと強くなっている。


「いつになったら死ぬんだよ畜生...」


コウタが思わず漏らした愚痴にオスカーは律儀に答える。その態度は答えることが彼の義務だと言わんばかりだった。


「コノ身ハ燃殻。故ニイツカハ燃エ尽キル」


「...つまり耐え凌げと?」


「正シクモアリ間違ッテモイルゾ、黒曜ノ騎士ヨ。周リヲシッカリト見ルガイイ」


「周りなんてアスファルトと炎しかないけど............なるほど。随分と悪趣味だな」


コウタがオスカーの動きが目に入る範囲で周りを見てみると、最初のうちは戦い始めた時と同じようにアスファルトとコウタたちを逃がさないよう取り囲む炎の壁くらいにしか気づかず、せいぜい目につく変化はアスファルトがめくれているくらいなものだった。しかしよくよく見るとフィールドが狭くなっている気がする。さらによく観察することでこれまでコウタたちを取り囲んでいた炎の壁がだんだんと近づいてきていることをコウタは理解した。目の前の怪人が燃え尽きる時この炎の壁は同時にコウタたちを焼くのだろう。『人でなし』は焼かれたとしても蘇る。しかしこのような場合オスカーを倒した扱いになるのだろうか?なるのならばそれで良いかもしれないが、ならないのであればただの無駄死にだ。自分に都合のいい考えは止したほうがいいだろう。

 時間が敵になった今、アザトースが目覚めるまで耐え抜く方がいいのか、それとも敗北のリスクを無視してオスカーに「アレ」で攻撃した方がいいのかとコウタが葛藤していると、後頭部のあたりに何かがプスリと刺さったような感覚を覚えた。痛みはないがなんだかこそばゆい感じだった。


(......てすてーす。まいくてーす)


こそばゆさが止まるとコウタの脳にアザトースの間伸びした声が急に響き渡る。突然頭の中に声が聞こえてきたことに驚く暇もなくコウタの脳内に情報が叩き込まれる。それは簡単な指令だった。


(......さんぷんじかんかせいで。...アザトースにひさくあり。..........ついしん。ぜったいこちらをみないこと)


「了解!」


コウタはすぐに返答を返す。それを聞いたオスカーが不審そうにしていたがそんなことはどうでもよかった。もう迷いは消えた。オスカー相手に盾で守り続けていてもジリ貧だ。もっと速く、鋭く動かなけば。考えをまとめ切った後、コウタはインベントリから拳大の浅黒いブヨブヨとした肉塊を取り出すと自分の顔の上で握りつぶす。ベトベトとした紫色の汁が肉塊から体積から考えてありえないほどの量がしたたり落ち、兜のスリットへ流れ込む。垂れてきた液体をコウタが飲み切るとその体に異変が生じる。鎧の隙間から赤紫の煙が漏れ、獣のような唸り声を上げ始める。


Burry(バリ)...Burry(バリ)...Burry(バリ)...Burry(バリ)...Burry(バリ)...Buuurrryy(バァァウリィィィ)!!!!!」


「狂気ニ身ヲ委ネタカ....イイゾ!ソレデコソ『人でなし』ダ!!」


 オスカーは持っていた釘バットを投げ捨て左腕に成り代わっていた炎を右腕にも移す。コウタも盾を背負い、防御は捨てたと言わんばかりに今までよりも腰を落として大剣を肩にのせ、クラウチングスタートのような姿勢で構える。


狂い火を宿す怪人と、狂気に身を堕とした騎士がぶつかり合った。

土曜にも投稿する予定です。あと1,2話で決着をつけたい

追伸 3000PV超えました!!

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