お目覚め
初投稿です。
「...おはよ」
遠い遠い宇宙の果てで、いったいどのくらいの数なのだろうか、数えるだけで気が狂いそうになる数の発狂の中ソレはかすかに自我を取り戻した。絶え間なく響くやかましいフルートと太鼓の音に苛立ちを覚えながらも、ソレはぼんやりと己の住まう領域の外に意識を伸ばす。自分の目覚めによって世界に変化が起きたのかを知りたかったのだろう。
蟹なのか菌なのかイマイチ見分けのつかない生き物、生物に取り憑く金属質な昆虫、時間の謎を解き明かした生物、他にもこの世界にいる様々な生き物が自らが目覚めてからも存在していることにソレは少し安堵した。
「...あれ?」
しかしソレとしては一つだけ気になることがあった。一つ知性をもつ生物が増えている。その生物の知性のレベルはお世辞にも高いとはいえなかったが、ある一つの点において他の種族をはるかに超えていた。それは新たな遊戯を生み出すことだ。他の種族の趣味が拷問か儀式くらいなものなのに、その種族は多種多様な遊びを考え出していた。
『ヒト』、聞いたこともない種族。ヒトの生み出した娯楽はソレにとって興味深いものだった。
その後ソレがヒトの娯楽について調べたところ、最も多くのヒトが楽しいと考えていたものはVRMMOと呼ばれるものだった。自身の脳を電子機器で仮想空間と繋ぎ、仮想空間の中に構築された世界で自由に遊ぶというものだ。ソレの肉体は人のものとはかけ離れていたが、自らの意識を仮想空間上に接続することは造作もなかった。
「...やってみようかな」
ヒトだけでなく自分のような存在も楽しめることを願いながら、ソレはその世界へと向かった。
『新世代VRMMO「ラストリゾート」の世界にようこそ!カスタマーAIの私がチュートリアルのお手伝いをさせてもらいます!それではハンドルネームを入力してください!』
「...はい」
『アザトース、ですね!それではアザトース様、次にキャラメイキングをはじめます!ところでキャラメイキングのご経験はお有りでしょうか?もしご経験がないようでしたら予めこちらで用意されたアバター』
「...すとっぷ」
『はい!なにかご不明な点でもありましたか?』
「...おどろかないの?その...わたしのなまえをみたのに」
『特に驚く要素が無いので』
「.......そう」
そう、ソレの名はアザトース。万物を創造せしめた神であり、絶えず湧き出でる混沌と狂気の核そのものである。この世界に存在するほぼ全ての知的生命体はその名を聞くだけで心を乱され、会話などしようものならば確実に廃人になるだろう。なのに、なのに、
『ぶっちゃけハンドルネームが爆裂無双最強戦士コウタ、とかの人もいますしねー。短いですし規制されるような用語もないのでいい名前だと思いますよ』
「......」
もうちょっと畏れか何かを抱いてもいいのではないのだろうか。そんなことを思いつつアザトースはカスタマーAIとやらの話を聞くのだった。
読んでくださりありがとうございます。ブックマークや評価、感想などをいただければ幸いです