05
同意を求めている気はない。私は返事を聞く前に歩き出した。
「まて! セフィ! 嫌いだなんて、そんな!」
お父様の喚きを私は無視して、部屋を出る。いつか、立派な国を作り上げて、ざまぁみろ、と言ってやろう。私はそんな事を決意しながら、自分の部屋に向って廊下を進む。
「セフィ!」
後ろから追いかけてきていたマークに腕を掴まれて、私は立ち止まる。私の決意は固い。マークの目を見据える。少しの間があって、マークが苦笑を浮かべる。
「はぁ、そうですね、セフィア様はそういうお方でしたね」
諦めたようにマークが私の腕を離した。
「分かってるじゃない……マークも準備して」
「はい、分かりました」
マークがそう返事をすると、どこからともなくメイドたちが現れる。
「愛の逃避行待ってました……じゃなかった、お出かけの準備お手伝いします」
本音ダダ洩れのメイドたちに囲まれて、私は自分の部屋に戻る。マークもメイドたちに連れられて、どこかに行ってしまった。
「急がないと」
「分かっていますよ」
メイドたちは笑顔でそう言った。まかせておけば問題ないだろう。あとはお父様だ。私を溺愛しているから強硬手段に出ることは無いと思うけど、立ちはだかれても面倒だ。
「旦那様はメイドたちで、足止めしていますので」
準備を終えて、家の外に立った私とマークにメイド長が笑顔でそう言った。
「ありがとう」
マークはメイドたちの言動に、いろいろ察してしまったのか、少し元気がない。おそらくメイドたちが、私とマークの関係を知っていると感づいたらしかった。今さらだけど。
私とマークはどこからどう見ても、街の住人にしか見えない恰好になっている。そもそも、マークと街にお忍びデートへ行く際にしている格好だ。それはすぐ準備できて手当たり前だけど、旅の準備までしっかりされていた。肩掛けのカバンにいろいろ詰め込まれて、私とマークの肩にそれぞれ袈裟懸けされている。
「愛の逃避行シミュレーションゲームの片付けをする前でよかった……じゃなかった、万が一の為の準備をしていて良かったです」
メイド長の本音で準備の良さの真相が分かった。ちなみにマークは頭を抱えて悶えている。
「さぁ、もう行ってください」
「いろいろありがとう」
「いえ、セフィア様、私をあなたの国が出来たら呼んでください」
「うん……わかった」
私は一度、メイド長を軽く抱きしめてから、マークに手に指を絡ませて、家を背に歩き始める。やっと気持ちを立て直せたのか、マークの手の力が強くなった。
「セフィア様を私が守ります」
「呼び方……もう」
「あっ、すみません、セフィ」
「……よろしい」
丁寧な口調だけはどうしても崩せないらしい。前は注意していたけど、諦めた。これから変わるのか、そこだけは、変えられないのか。
突然立ち止まって、マークの顔がふいに近づいてくる。唇が重なり、少し長めの、キス。離れた後、私達は少しだけ見つめ合った。