04
「セフィア様! 何を言われるのですか!」
マークは困惑した声でそう言った。でもそんな事を言いながら、安心したような表情に見える。
「もういいわ、隠すのをやめよ」
「セフィア様、しかし……」
私とマークは見つめ合う。大丈夫。私はそんな気持ちでマークの目を見つめた。諦めたようにマークの表情が柔らかくなる。苦笑しているようにも見えるし、喜んでいる様にも見える。
「そういう事で、私はマークを愛しています、マークと結婚するので、その婚約はお断りしてください!」
衝撃を何度も受けているお父様が、私の言葉でさらに衝撃を受ける。なんとか反撃しないといけないと思ったのか、息絶え絶えにお父様は口を開いた。
「……ダメだ! 身分が違いすぎる! 認められるわけがない!」
身分という言葉にマークが後ずさるのが、掴んでいる腕から伝わってくる。私は掴んでいた手でマークをしっかりと支えた。ここが正念場。大丈夫、私がついている。
「身分なんてくだらないわ! そんなの関係ない!」
「身分は大事だ! それが世の決まり、この国の決まりなんだぞ!」
お父様の凝り固まった考えに、私は眉をひそめる。みんなそうだ。そうやって、諦めている。そういう世の中だから、そういう国だから。付き合いのある令嬢は皆、嫁ぐ前にそう寂しそうに言う。私はそれが、おかしいとずっと思ってきた。
「私は諦めない……マークと結婚するわ」
「だから、身分が」
お父様の言葉を私は塞ぐように言葉を続ける。聞きたくなかった。
「身分なんかで恋が引き裂かれるなんておかしいわ! 他の事だってそうよ! 何でもそういう物だからって諦めて、力無く笑うのよ」
そうやって笑う令嬢達の顔が思い浮かぶ。なんともできない自分の、情けない気持ちで作った笑顔の感触も、顔に残っている。ひと際大きい声で宣言してやろうと思った。ずっと思い描いてた事を、私達のためだけじゃない。諦めている人たちのために。
「私は国を作るわよ! 誰もが諦めないでいい国を! 私達はそこで結婚する!」
お父様は私の言葉に口を開いて固まった。そして、マークも体が強張る。次第に、意味が理解できてきたのかお父様が、笑い始めた。
「何を言うかと思えば……ちょっと飛躍しすぎだろう、ははっ、国を作るなんて、無理だよ」
「お父様なんて嫌い!」
飛躍しすぎというのは分かっている。でもこっちは大まじめに夢を語っているのに。私はマークに向って、叫ぶように声をかける。
「マーク! こんな家、出て行くわよ!」