03
「そうですか」
私が席の前につくと、マークが椅子を引き、それから私は座る。何が嬉しいのかお父様はそれを見て、ニコニコする。基本的にお父様は、お兄様と私が大好きなのだ。親バカ、溺愛っぷりは時折、面倒とさえ思う。
「では朝食を頂くとしよう」
お父様のその言葉で、使用人たちが動き始め配膳が始まる。パンにスープ、サラダ。貴族としては質素と思われる品数だけど、基本的にみんな小食のため、客人でもいない限り、我が家ではこれくらいが常だった。運ばれてきたものを私は口に運ぶ。私は焦れる思いで、食事を進めた。話とはなんだろうか。
朝食が終わりかけた頃、お父様が口を開いた。
「セフィア、大事な話がある」
いつもニコニコとした表情で私を愛称で呼ぶのに、今は真剣な顔つき。来たか。私は手に持っていた物を置いて、お父様に体を向ける。
「なんでしょうか」
私の言葉に小さく頷いて、お父様は大事な話を始めた。
「実はな、セフィアの婚約が決まったぞ」
「は? こん……やく?」
私は思わぬ言葉に頭が混乱する。私にはマークという恋人がいて、いずれは結婚する。そう思っていた。幸せな日々が、それを当たり前と思わせていた。でもそうだ、私は貴族の娘。政略結婚の道具。勝手に結婚を決められてしまう立場にあったんだ。
私はマークの顔をチラリと見る。その顔は歪んで今にも泣きだしそうだ。何かを言おうとして、口を開き、思い直したように顔を振る。
「寂しい、だがこういう物なんだ」
お父様に視線を戻すと、しょげた顔でそう言った。なら、婚約の話なんてしないでよ。私は、私が愛してるのは。その時、視界の中にメイドたちが映る。ファイティングポーズだろうか、そんな感じのポーズをとっている。戦えって事か。あぁ、そうだった。こんな事で諦めるのなんて、私じゃない。
「お断りいたします!」
私はお父様に向かって、立ち上がり、叫ぶようにそう言った。
「は? へ?」
まさか断られるなんて、微塵も思っていなかったのだろう。貴族という物はそういう物だから。
「私にはお慕い申し上げる殿方がいます!」
「なっ、お父さんと結婚は出来ないんだぞ?!」
「ちげーわ!」
周りにいたメイドたちが、我慢できなかったという感じで、そんな突っ込みを入れる。お父様が驚いたようにメイドたちを見ると、メイドたちは澄ました顔で頭を下げた。私は少し心が軽くなる。言ってしまおう。私はマークの隣まで歩いていくと、マークの腕をグイと抱き寄せる。
「私達、結婚するつもりで、付き合っています!」
そんな私たちをお父様が見る。驚いたように口をパクパクとしていた。