02
「仕上がりました」
「ありがとう、相変わらず手早いわ……寝坊できて助かる」
メイドたちが得意げに微笑む。メイドたちはいつもすごいスピードで、私の身支度を済ませてくれる。おかげで、朝寝坊が出来るのだ。聞く所によると三時間以上かけるご令嬢もいるとか。私は信じられないと、顔を横に振った。
「はぁ、もうちょっと寝れたんじゃない?」
私は窓の前に移動して、朝日を浴びながらそんな事を呟く。いつもなら窓から外を覗くと、使用人たちが仕事を始める準備をしているのに、今日はまだ、それが見えない。
「これぐらいが適正な時間だと思いますが、いつもが遅めなのです」
メイドの一人がそんな事を言った。まぁそうなんだろうけど。
「いつもより、ちょっと早いよね」
「そうですね……旦那様が大事な話があると、おっしゃっていました、そういう事なので、早めにお目覚め頂いたのでしょう」
「あぁ」
少し嫌な予感。私はため息をついた。お父様の事を嫌っているわけではないけど、何を言いだすか分からないのは嫌な気分になる。
「さぁ行きましょう」
窓の前で時間が過ぎてしまう事を願っていたけど、そうもいかず、メイドに移動を促されてしまう。私はしょうがなく、部屋の出入り口に足を向ける。
「では参りましょう」
部屋の前で待っていたマークがそう言って、歩き始めた。
「別に、部屋の中で待っててもいいのに」
恋人同士なんだからと、言いそうになって言葉を止める。周りにはメイドたちがいる。マークはメイドたちが、私達が恋人である事を、知らないと思っている。混乱しそうになり、相関図を頭の中に思い浮かべる。なんとも面倒だ。
「からかわないで下さい、私はこれでも男です」
マークは平然とした顔をしているけど、たぶん焦っている。変な事を言って、恋人だという事がバレたらどうするんだと、きっと思っているだろう。もうバレてるけど。メイドたちもクスクスと笑っている。
「さぁ、着きました、どうぞ」
大きな扉の前にマークが立ち私に体を向ける。それから取っ手を掴んで、扉を開け放った。中には長く大きな机。一番正面の上座となる所にお父様はすでに座っていた。
「おはよう、セフィ」
「おはようございます、お父様」
私は少し頭を下げて、自分の席に移動する。食器が用意されたもう一つの席が目に入る。お母様の席。もう亡くなって久しいけど、こうしてお父様は食器を用意させる。お父様の真意はあえて聞いていない。
「兄さまは?」
「朝早くに用があると出かけたよ」
ニコニコと笑顔でお父様は言った。