01
今から1時間に1話ずつ更新します!
「セフィア様、朝ですよ」
私はベッドの中で、もぞりと動いて、ベッドの中に顔を引っ込める。カーテンが開け放たれて、入り込んできた朝の陽ざしから身を守るためだった。
「もうちょっと」
もっと寝ていたい。眠気でモヤモヤとした頭でそう考えて、抵抗する。
「お父様がお待ちですよ」
少し覚醒してきて、声の主の顔が浮かぶ。優しい声。私の執事の声だ。私は途端にベッドから顔を出して、執事のマークの顔をジッと見る。
「お目覚めですか?」
私は少しよこしまな事を思いついて、目をつぶる。
「なんという事でしょう、王子様の目覚めのキスがないと、姫は起きません、というナレーション」
「ナレーションって」
マークの呆れた声が聞こえてきた。目をつむっていても、どういう顔をしているか、容易に想像できた。少し困った感じだけど、微笑んでいる。たぶんそんな感じだ。
頬に手が添えられる。マークの手。そのあと、唇に柔らかい感触。いつもと変わらないキスの感触だ。
「お姫様、お目覚めですか?」
「……うん」
私は体を起こして、マークの顔を見つめる。自分でやっておいて、顔が熱い。
「それはよかった……さぁ起きて準備を」
甘い雰囲気の空気は少しだけ、後を引いて、マークは言葉の途中で執事の空気に切り替わった。
「もうちょっとくらい」
私はそれなりに大きい声でそう言ったけど、マークは眉一つ動かさず、執事だった。
「セフィア様、お早く、願いします」
「わかったわ」
私はベッドから這い出て、準備を始めようとする。それを見て、マークは「セフィア様の身支度を」と言葉を発する。それを合図にメイドたちが部屋の中に入ってきた。マークは部屋の出入口にむかう。私は見えなくなるまでマークの背中を見つめた。
「マークさん私達が気付いてないと思ってるから、面倒です」
マークが出て行ったのを確認して、メイドの一人がそう呟いた。マークは完璧な執事だけど、抜けている所がある。私とマークは恋人関係だった。執事と主人の禁断の恋。それをメイドたちは知っている。というか、いち早く気付かれた。でも、マークだけは、秘密を守り通せていると思っている。
「ごめんね、そのまま、今まで通りでお願い」
私が両手を顔の前で合わせて、お願いポーズをする。
「そのかわり、いろいろ話聞かせてください」
メイド達がニヤリと笑った。皆、娯楽に飢えている。私とマークの話は読み物のようにメイドたちの間で流行っているのだ。
私は着替えをしてもらいながら「いいよ」と伝えた。大事な二人だけの思い出は言わないけど、その他の事はしょうがない。愛しいマークの心の平穏を守るためだ。私は少し笑ってしまう。マークに皆が私たちの関係を知っているとバレた時、どう反応するだろう。それを想像してしまったのだ。