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イケてる出会い 

掲載日:2021/08/20

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 はああ、どーしてこの世には美人とか、イケメンとかがいるんだろうな。考えたことはないか、つぶらやよ。


 ――まず、ブスとかブサイクとかの基準を決めているから、相対的に美人やイケメンが生まれる?


 おーっと、そういう意見が出てきちゃうか。

 確かに、どんなものを見てもブスとかブサイクとか認識しない世だったら、みんなが美人、イケメンになるわな。でも、それじゃあ順位付けができなくなっちまう。


 野生の時代から、他より強くなきゃ、美しくなきゃ、つがいを得て子孫を残すことままならない。自分がいかに優れているかを示すのが、死活問題だ。

 だが現代の人の世で、強さを示せる機会は少ない。公認の「リング」は限られているし、下手に暴力ふるえば警察沙汰だ。そうなると、他の部分での差別化が重くなるのは当然だ。

 そしてこれは人間界のみならず、自然界においても同じ。ましてや、人の管理下にあるものならな。

 俺が昔に体験した話なんだが、聞いてみないか?



 俺の母方の実家は、農家を営んでいてな。祖父母が健在だったときには、ウチへよく野菜や果物を、おすそ分けって形で持ってきてくれた。

 俺たち一家はそろって、ミカンが特に好きでね。秋になると、ほぼ毎月のようにミカンを持ってきてくれる。

 聞いた話だと、ミカンは時期によって呼び名が違うらしいな。


 まさに青さを残し、食べやすさに富んだ「極早生ごくわせミカン」。

 青みが取れ掛け、甘味が増し始めた「早生わせミカン」。

 さらに時間をかけたことで、お歳暮にも見合う味を得た「中生なかてミカン」。

 そして暮れ近くに取れる、糖度と酸味の最大限の調和「晩生おくてミカン」。

 これらのいずれも、俺たち家族は楽しみながら味わっていた。だが食する前に、家族そろって行わなくてはいけないことがある。


 ミカンの選別だ。

 これだけなら、別におかしいことじゃないだろう? いかに身内が持参してくれたものとはいえ、運ぶ途中などで思わぬダメージを受けていることがある。食べられないものは、事前にのけておくべきものだ。

 俺も小さいころからそう思っていてな。傷がついているもの、そうでなくとも、中身の手ごたえが怪しくて、おそらくつぶれているだろうものを、見つけたらどんどん遠ざけていった。


 しかし、そうして及第点を得たミカンたちも、なぜか却下をもらうときがあった。その場ではなく、あとになってからな。

 具体的に目にしたのは、小学校4年くらいのときだ。12月に入って届けられた、中生ミカン。よりだいだい色を増してきたその表皮を、くまなく調べながら、合格したものはどんどんカゴの中へ入れていく。

 その受かったミカンの中で、ヘタに葉が二枚ほど、くっついたままのものがあった。一枚だけならときどき見かけるも、二枚がそのままになっているのは、俺はこれまで見たことがなかったんだ。

 傷はないし、中身もしっかりしていそう。葉なんて、いざ食べるとき、気になったら取ればいい。そんなことを思いつつ、俺はそいつを、すでに同胞たちが築いた山すそへと突っ込んだ。


 その翌日のこと。

 学校帰りにミカンを食べようかと、台所に置かれているカゴのミカンをざっと見た。すると、例の二枚葉ミカンが姿を消しているじゃないか。

 それだけなら、誰かに食べられたと思うだろう。けれども、ゴミ箱をあさってみても二枚葉ミカンの皮は捨てられていない。ウチだときれいなミカンの皮は、食器洗い用に使うこともあるがそれもなし。

 もしやと、俺は家の裏手にある庭へ回ってみる。


 祖父母とは比べ物にならない、猫のひたいほどのウチの庭だが、その一角に落葉するヤマボウシの木が植えてある。

 冬になると、手を広げたような形で枝だけが残されるが、わが家ではその枝にミカンを刺す。

 傷んだりして人が食べられないもの、そのまま捨てるくらいなら、鳥にでもあげようって考えだな。まるでモズのはやにえのような格好さ。

 犠牲になるのは、食べられない、もしくは食べる気になれないほど傷んだものばかり。

 他の先駆者たちを見るに、皮の一部が灰色に変色していたり、すでに鳥についばまれたか、皮ごと果肉が陥没していたりするものもある。


 その彼らの中に、あの二枚葉ミカンの姿もあった。

 果頂部を差され、ヘタを外へ向けてじっとしている。自分で確かめたミカンということもあるだろうが、他のミカンたちよりもずっと形も大きさも整っていて、イケメンだ。

 それがどうして、俺たちの口に入ることなく、あんなところへ置かれるのか……。


 そう思った矢先、一匹の鳥が上から降りてきて、枝へとまる。

 灰色の体毛の中、目元近い頬には赤色に近い褐色の毛。やや大きいヒヨドリの一羽だっ

 これまでも、庭木になる小さい実を求めて、ヒヨドリがあらわれることは珍しくなかった。けれどもそのヒヨドリは、他のヒヨドリに比べると、瞳がふた回りほど大きい。

 奴は刺さっているミカンのひとつひとつのそばへ行き、枝を揺らしながらそのくちばしで表皮をなぞっていく。しかしお気に召さないのか、ぱっと飛び移って次、飛び移って次を繰り返し、やがてあの二枚葉ミカンへとたどり着く。


 これまでと同じように、くちばしで何度も皮をこすっていたが、他のミカンたちに比べれば明らかに長い時間だ。

 丹念になでまわしたヒヨドリは、ようやくそのくちばしを二枚葉へと突き立てる。

 けれども、それは果肉をついばむにしては上品なものだった。自分が最初の一突きで開けた穴へ、あやまつことなく何度かついばむ様子を見せるんだが、果汁が垂れ落ちる様子がなかったんだ。

 10度ほどつついただろうか。ヒヨドリはふっと足を離すや、また視界の外へ飛び去ってしまう。揺れがすっかり収まるミカンの方に、先ほどの傷以外のものは見当たらない。



 あの二枚葉ミカンについて、親に尋ねたところ、あれが今回のミカンの中で一番のイケメンだったと話してくれた。


「美形や美形を知る。特に自然のものにおいてはね。あのヒヨドリも、並みはずれた目の大きさをしていたなら、仲間内きってのイケメンだろう。

 もしまたヒヨドリがきて例のミカンをつついたら、その飛び去る方を追ってみるといい。ひょっとしたら面白いものが見えるかもよ」



 翌日の学校帰り。昨日のままにしてある庭先に、またもヒヨドリがやってきた。

 あの目の大きい一羽に違いなかった。今度は迷うことなく、あの二枚葉へ直行。自分が開けた穴から、またもついばみを始めたんだ。

 親の話を受けて、今回は僕も外履きを片手に待機している。そしてヒヨドリが口をミカンから離して飛び立つや、その後を追ったんだ。


 そのヒヨドリは、俺に追われているのを知ってか知らずか、ゆるゆると道路や建物を横切り、先へ進んでいく。そのたび、俺は通れる道を探して回り道を強いられるんだが、それでも相手を見失うようなことはなかったよ。

 数分ほど追いかけて、俺がたどり着いたのは某製薬会社の広々とした敷地。そのフェンスに沿って立ち並ぶ、ヤマボウシたちの一本だった。

 ウチのものとは違い、常緑のヤマボウシ。そのふんだんに生えた葉の一枚に、ヒヨドリはとまる。俺に対してそっぽを向くような形でじっとしていたが、そのうちあいつの尻から葉のすき間を縫って一滴、二滴、土の上へこぼれていくものがある。


 ミカンの種だった。ヒヨドリにとっては、フンと変わらないものだろうが、ここまで形を変えず、余計なものがこびりついていないものは、見たことがなかった。

 とんとんと、種の跳ねるのがやまないうちにヒヨドリは枝葉を揺らして、いずこかへと飛び去ってしまう。そちらへ一瞬、目をやってしまって、戻したときにはもうミカンの種たちはなくなっていたんだ。

 見間違いだったのか……と思えたのも、束の間。

 種のあった辺りの土が、もこりと盛り上がる。そこからにゅっと出てきたのは、黒く長いくちばしだった。ちょうど、先に見たヒヨドリが持っていたような。

 土はさらに動く。くちばしに続いて、灰色の毛に包まれた頭が。褐色の毛を生やす目元を持つ顔が、続いて羽を含めた全身が土を押しのけ、すっくと地上へ立ち上がったんだ。


 そのヒヨドリからは、どこかミカンの香りがした。

 あのヒヨドリによく似た大きい瞳を輝かせながら、その鳥もこずえを突き抜けるよう飛び立って、見えなくなってしまったんだ。


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