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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々忠勇
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斎藤・9



「だいたいね、斎藤さんは、なんでも真っ直ぐ受け取りすぎるんですよ」


火を熾すのが面倒だ。沖田は、冷たくなってしまっている手あぶりの灰を、灰ならしでかきまわしていた。おかしな模様を描き、ひとりで笑っている。若い隊士に頼んで持ってきてもらった茶を啜り、俺は沖田を睨んだ。

「わざわざ曲げて受け取る方がおかしいんだろう」

「人というものは、そんなに単純なものじゃないと思うけどなぁ。ま、そういうのが好きな輩もいるんで、斎藤さんは、そのまんまでいいんじゃないですかね」

「…………あんたまでそんな事を言うのか」

「はい?」

「土方さんは、俺に若い隊士達が惚れているという……」

ブッ。と、沖田は、勢いよく噴き出した。あなた私を殺すつもりですかと、もんどりうって苦しがっている。

茶を啜る。沖田の笑い上戸は有名だ。黙って笑わせておいた。ひとしきり笑うと、沖田はぜいぜい言いながら身を起こした。

「ああ、可笑しかった。斎藤さん、今のは自慢話だったんですか? 自分はもてるぞ、という」

「……男にもてたところで、なんの自慢にもならん」

「貴方の事ですから、女にもてても自慢なんかしないんでしょうけどね」

「わかっているなら、言うな」

「まったく逆の人がいますよ」

「……なに?」

袂から取り出した饅頭を、沖田は、ふぅと吹いた。まだ食べられる筈なんだけど、とぶつぶつ言いながら皮の部分を調べている。目を伏せたまま話す様子はひどく真面目に見えたが、出てくる言葉は不真面目そのものだ。

「女にもてりゃあ自慢する。男に惚れられるのは、自覚してる。惚れてくるのは、一見、自分よりも強い男ばかり。なんでも曲がって受け取って、無粋なものは大嫌い……」

「…………」

「誰だかわかりますか?」

沖田はニヤニヤと笑って、先の饅頭を頬張った。冷たくなってしまった茶を飲み、俺の顔を見ている。

「……最後のあたりは、土方さんのようだが……」

「ああ! 土方さんがへそ曲がりだって、斎藤さんも思ってるんだ。言ってやろ!」

「…………」

「ちょっと、少しは反応してくれたらどうですか。盛り下がるなぁ、ほんとに」

「盛り下がるなんていう言葉は、無い」

「あ~あ、疲れるなぁ。土方さんは、よくこんな人としょっちゅう一緒にいられますね」

「それは、こちらの台詞だ」

「さて、私は退散するとしますか。疲れる人に逆に疲れるなんて言われるのは堪らない。それに、そろそろ土方さんが来るんじゃないですか?」

「……土方さんが? 何故だ」

「さぁ? そんな気がしたもので」

沖田が笑って腰をあげる。障子を開けると、そこに土方が立っていた。やぁ、思ったとおりだ、と言うと頭の後ろに手を組んで、沖田は廊下を去っていった。



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