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淡々忠勇  作者: 香月 しを
六道銭
43/44



「さっき、何を入れたんですか?」


襲撃があった。

若い隊士達が眠る棺ひとつひとつに、土方は何か小さな包みを入れて歩いた。

随分な数だ。悲痛な面持ちでたくさんの棺をまわる土方。一緒に来た会計方は、黙々と別の仕事をこなしている。自分はといえば、土方の供をしてきただけで、何もする事がなく、黙って立っているだけだった。


「お前には関係ない」


疑問に思った事を口にしてみたが、あっさりと答を拒否された。関係ないが知りたいのだと言えば、黙って歩きだしてしまう。


「六道銭ですよ。斎藤先生」

一緒に追いかけながら、会計方が小さな声で教えてくれた。

「……六道銭?」

「本来なら新撰組の会計から出すべきなのですが、今回副長はかなりお心を痛めているようで……」

「……自腹なんですか?」

「ええ、こんな事で償いにはならないだろうが、と言って……」

少し前を歩く不器用な男を見つめた。そうならそうと言えばいいのにと、笑いそうになる。幸い誰に襲われる事もなく、屯所へは無事についた。拗ねたような顔をした土方についていき、副長室の扉を閉める。


「なんだよ」

「お供を終えた部下に、お茶のひとつもいれて下さいませんかね」

「……そういう図々しい物言いは、まるで総司みてぇだな」

「……そこは怒るべきなのか、ちょっと判断し難いですね……」

部屋の真ん中に正座をする。畳にあった黒い輪が気になって、指で穿った。穴があいた周りが黒く焦げている。

「あッ、穿るなよ! 余計でかくなんだろ!」

「何を飛ばしたんですか。危ないな……」

「俺じゃねぇよ! 昨日、永倉と原田が来て煙管から火のついたままの刻みを落としていきやがったんだ」

「ああ、遊びに来ていたんですね」

鬼副長と恐れられている割には、副長室にはいつも誰かが遊びに来ていた。沖田は勿論の事、原田永倉などは揃ってからかいに来ているようだし、監察の連中は、仕事と称してしょっちゅう顔を出しているようだ。


(……まあ、わからないでもない)


昔はそれが理解し難かった。部下として命令された事をただこなしていただけの自分には、土方がそこまで慕われる理由がわからなかったのだ。鬼のような男のいる部屋へ、何故そうも彼等は顔を出したがるのだろうと、いつも不思議でならなかった。


「何をにやけた面ぁしてんだ。茶が冷めるぞ」


目の前に出された茶をじっとみつめたまま考え事をしていると、呆れたように土方が声をかけてきた。その顔をじっと見て、口を開く。


「三途の川の渡し賃」


「…………な……それがなんなんだよ」

「一人に六文ですか。あれだけいれば、結構な額だ」

「なんの事だかわからねぇな」

「鬼の副長。冷徹にして冷酷。邪魔者は排除する、狡猾な男…………」

「……喧嘩売ってんのかおめぇ……」

「なのに、どうして一部の人達が貴方を慕っているのかが昔はわからなかった。でも、相棒となった今はわかります」

「…………」

泣きそうな顔をする。照れているのだろうか、形容しがたい表情をした後、土方は少しだけ頬を染めて俯いてしまった。本来は、情が深い男なのだ。しかし、京に来てから、わざと冷たい態度を取るようになったと聞いている。



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