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淡々忠勇  作者: 香月 しを
会津
42/44

斎藤・2



「流石」

「……積年の恨みとは、なんですか」


「ここに来て知り合った奴等だ。あった時から、やれ飲みに行こうだの、やれ美味いものをご馳走するだの、しつけぇ奴等だったんだ」

「……あんたに?」

「そう。その内、闇に紛れて俺に悪さをしようと考えるようになった。そんな計画を、五人でたててるのを聞いた。どうしたものかと考えていたら、自分達から新しい隊に入りたいと言ってきやがった。いい加減頭にきたからな。一人でいる時にわざと襲わせて、斬ってしまおうかと考えたわけだ」

「またそんな危ない事を!」

「あいつら弱かっただろ?。 危なくねぇだろがよ」

「素っ裸でいる時に襲わせたりして何かあったらどうするんですか!」

「何かって?」


土方は、ニヤリと笑って俺を見た。わざと聞いているのだ。手首を掴んだ。顔を近付けて、蔑んだ顔を作る。

「…………性悪女」

「女じゃねぇっつうの」

掴んでいた腕に、逆に腕を掴まれた。強く引かれる。しまった、と思った時には遅かった。


ドボン


大きな水音をたて、湯の中に落ちた。隣でゲラゲラ笑っている土方を横目で睨み、大仰に溜息をついた。すると、笑っていた土方が突然真面目な顔をする。

「……行きますか、北へ」

「うん、そうだな。で、お前は、会津だな」

「そうやって平気な顔で淡々と言うんですね。相棒と離れてもあんたは平気なんだ」

「まあ、なるべく相棒とは離れたくはないんだけどな」

「だったら、一緒に戦っていきたいと思わないんですか?」

「あの夜……俺が死んだと聞いて半狂乱になったお前を見た時から、これは決めてたんだ」

「…………」

「俺が死ぬとこを見せちゃ、ならねぇってな」

「死ぬつもりか」

「わざとじゃねぇぜ?」

憎らしい顔で笑う。もう、何を言ってもきく状態でない事は明らかだった。

「潔すぎる……」

「性分だからなぁ」

「あんたの潔さに、抱かれたくなる事があると、昔、近藤局長が言ってた。こういうところなんだろうな」

「は? あいつそんな事言ってたのか? 馬鹿だなぁ」


相変わらず綺麗な顔で微笑む。眩しかった。この感情は、或いは……と考えて、首を横に振る。

「だいたい、俺の方が先かもしれないではないか」

「お前は、俺よりも後」

「…………?」

「生きろ。向こうへは、ゆっくりと来い。俺より先に死ぬ事は、許さん」


「また、あんたは自分の望みばかり…………ッ!」


頭を撫でられた。まるで小さな子供に言い聞かせるように。こういうところが、この相棒の狡いところなのだ。土方の手は、すぐに離れていってしまう。

「大事な奴にぁ、長生きして欲しいんだよ」

搾り出すような声。鼻の奥の方が、ツンと痛くなった。口を開くと泣き言を言ってしまいそうだったので、黙って頷く。


土方は、今日一番の笑顔を見せた。


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