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淡々忠勇  作者: 香月 しを
会津
41/44

斎藤・1



「何を笑ってる?」


湯につかっていた土方が、俺を見た。

「別に。笑ってなどいない」

「嘘をつけ。俺にぁわかるようになってんだぞ、お前のその無表情の中の表情がな」

「そういえばそうでした。相棒ですもんね」

「ふん」


パシャ


土方が、顔を洗った。誰もいない温泉。遠くに山が見える。鳥が鳴き、木々が風に揺れる音が聞こえていた。

「昔を……思い出してました」

「昔?」

「本当の相棒になれた夜」

「……ああ。そう昔の事でもねぇさ」

「若かった。昔の事です」

「そうかな」

「あんただって、あの頃は可愛かったですよ。さらさらの長い黒髪、着物も似合ってましたし。なんたって、『お人形さん』でしたから」

「今は可愛くねぇみたいだな。髪を切っちまった事をまだ怒ってんのか?」

土方は溜息をつきながら短く切った髪をかきあげた。頬にはりついた髪を耳にかけてやると、気持ち良さそうに目を瞑る。

「今だって、そうしてれば可愛いですよ」

「よせよ。可愛いなんて齢かよ」

「可愛いですよ。沖田が聞いたら噴出すでしょうけど」

「ああ、腹が捩れるからやめてください、とか言ってな」


持っていた刀の柄をぎゅうと握り締める。土方がそれを見て笑った。手ぬぐいを頭の上にのせて肩までつかる。歌でも歌いそうな雰囲気だった。


「五人。そんなにのんびりしていて、怪我をしてもしりませんよ」

「よくわかったな。山﨑の特訓のおかげか?」

「そういう事になりますかね」

鯉口を切った。鳥が鳴きやむ。風の音がひときわ大きく聞こえた。


土方が足を撃たれたのは、ひとつき程前。じぐじぐといつまでも綺麗にならない傷。少し歩けるようになると、温泉で治したいと言い出した。一人でいたら危ないと言っても頑固な土方は言う事を聞かなかった。山﨑がいればまた違ったのだろうが、残念ながら彼はもういない。


「うああああ!」


叫びながら飛び込んできた男。振り向きざまに突いた。柄頭を押し込め、深く突く。ぎょっとした。新しく作られた隊の人物だったからだ。周りを見ると、どれも見た顔だった。

「なんだ、貴様達!」

「土方の犬めが、吼えるでないわ! いつもいつも邪魔をしくさりおって!」

「積年の恨み!」

男達が一斉に飛びかかってくる。刀を全て弾く。飛び退いたのを追いかけ、全員、突き殺した。拍子抜けする程弱い相手に、首を捻るしかなかった。



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